北朝鮮 「核兵器禁止条約」賛成から不参加への理由

 核兵器削減が一向に進まない中で、「核兵器禁止条約」は核兵器を法的に禁止する条約を制定しようという画期的な取り組みである。

原爆ドーム
広島の原爆ドーム(2009年4月1日撮影)

 昨年10月、「国連総会第1委員会」での「核兵器禁止条約」制定交渉開始を定めた決議採択に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は賛成した。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は5月の労働党大会で「世界の非核化実現のために努力する」と表明したことの反映と思われる。

 今年3月27日から、100カ国以上が参加して国連本部でその交渉が始まった。米国などの核保有国や約20カ国は参加しないばかりか、条約に反対して参加国を批判。原爆被爆国である日本もそれに追随して参加しなかった。

 岸田外務大臣は、核兵器保有国が参加していない交渉は、非保有国との対立を深め逆効果になりかねないと不参加の理由を説明。これは詭弁でしかなく、米国の核の傘にすがるみじめな日本の姿が世界中にさらけ出された。「日本被団協」など被爆者たちは、この日本政府の対応を厳しく批判した。

 そして、昨年は「条約」交渉に賛成していた北朝鮮も参加しなかった。「朝鮮中央通信」(24日付)は、米国が大規模で侵略的な合同軍事演習をしているため、核兵器を中心とした国防力強化が死活的なので参加しないことにしたと説明する。

 米国による軍事攻撃の可能性が高まる中で、それを防ぐ最大の抑止力としての核兵器をより強化しようとしているのだ。6回目の核実験の準備は完了したといわれている。つまり、北朝鮮が方針を転換した理由は、トランプ政権になって米国との軍事的緊張状態が一気に高まったからだ。

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北朝鮮 米国務長官の「20年間」発言の意味

 3月15日、米韓合同軍事演習に参加している米軍の戦略爆撃機「B1」2機が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と中国への威嚇のために韓国上空を飛行。同日には原子力空母「カール・ビンソン」が釜山へ入港した。

板門店将校
板門店(パンムンジョム)の人民軍将校(2016年8月21日撮影)

 その同じ日、レックス・ティラーソン米国務長官が来日。17日には訪韓し、北朝鮮へのトランプ政権の姿勢を次々と表明した。

 注目すべきは「米国政府のこの20年間の北朝鮮政策は失敗で、異なるアプローチが必要。あらゆる選択肢がテーブルにある」と述べたことだ。この「20年」とはどういう意味があるのか。

 北朝鮮は1993年に「核拡散防止条約(NPT)」から脱退を表明。交渉に失敗したクリントン政権は、寧辺(ヨンビョン)にある核関連施設を空爆する準備をした。だが北朝鮮の報復によって100万人以上の韓国人が死亡すると推定されて、韓国の金泳三(キム・ヨンサンム)大統領が反対。そのため攻撃は中止された。結局、クリントン政権「米朝枠組み合意」を行い、核開発凍結の見返りとして電力供給のための軽水炉の供与に踏み切った。

 その後のジョージ・W・ブッシュ大統領は、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難するなど強硬策を行ったが、政権末期になって「テロ支援国家指定」を解除するなど対話へと転換した。

 次に誕生したオバマ政権は、米国との「平和条約」締結を求めて核・ミサイル開発を推進する北朝鮮に対して「戦略的忍耐」の名の下に何の対応もしなかった。ティラーソン長官は、こうした交渉と破たん、そして放置という「20年間」を否定し、北朝鮮政策を大きく転換するとしているのだ。

 またティラーソン長官は「今は北朝鮮と対話をする時ではない。挑発をエスカレートさせたら適切な措置を取る」と述べており、政策転換によって選択するのは軍事的対応と推定される。

 米国が北朝鮮へ軍事攻撃をした場合、それへの反撃によって韓国や日本に甚大な被害が出る。ティラーソン長官は「軍事的な葛藤までいくことを望んでいない」とも語っており、北朝鮮への軍事攻撃の脅しは牽制することが目的とみることもできる。

 だが外交経験が不足し政策が不安定なトランプ大統領が、「イスラム教徒の入国禁止」のような信じられないほど愚かな選択をする可能性はある。また、軍事的な緊張を極限まで高めていることは、偶発的な衝突が大規模戦闘へと発展する危険性がある。

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金正男事件でわかった「脱北」への日本人記者の関与

 2月24日、金正男(キム・ジョンナム)氏の死因についてマレーシアの警察長官はVXによる殺害と断定したと表明。いくつものマスメディアは、それを実行したインドネシア人とベトナム人の女性が、二つの毒物を金正男氏の顔面で混ぜてVXにしたとの推測を流している。果たしてそのようなことが可能なのか、マレーシア政府は解明する必要がある。

 他に気になるのは、クアラルンプール空港で死亡したのは金正男氏ではないとの報道があることだ。2月24日に発売された講談社『フライデー』(3月10・17日号)は、「金正男の遺体から消えた『虎と龍の入れ墨』のナゾ」との記事を掲載。インターネット・メディアでも同様の記事が出ている。

 その内容は次のようだ。2013年に「フジテレビ」記者へ金正男氏から送られてきたという写真には、腹部と肩に大きな入れ墨がある。18日にマレーシアの『NEWS STRAITS TIMES』紙が、空港にある診療室の椅子で仰向けになった金正男氏の写真を掲載。それには、Tシャツの下に見えている腹部に入れ墨がないように見えるのだ。

 つまり死亡した人か、入れ墨をした人のどちらかが金正男氏ではない可能性があるというのだ。マレーシア政府はこの点についても、親族へのDNA鑑定によって明らかにする必要がある。

 この事件によって北朝鮮への関心が高まる中で、普段では取り上げられないような話が記事になっている。韓国の『ハンギョレ新聞』電子版(2月23日付)は「[コラム]北京の北朝鮮担当日本記者たち」との記事を配信。

 その中に注目すべき内容がある。「北朝鮮の実態を取材しようと(中国)東北地方で脱北者に接触して、こころならずも脱北の過程に介入したという記者もいた」。つまり、日本人記者が「脱北」の手助けをしたということなのだ。

 「ハンギョレ新聞」という同業者に日本人記者が気を許して語ったことなのだろうが、これは重大な問題である。つまり、国家関係にも大きな影響を与える可能性がある極めて政治的な「脱北」に、取材者という一線を越えてかかわった。その時に明らかになればその責任を問う「事件」となったのであろうし、所属するメディアからの処分を受けたかも知れない。

 韓国の次期大統領は、北朝鮮との融和・関係改善を目指す候補者が当選する可能性が高い状況だが、今回の事件でそれを阻止しようとする保守勢力の勢いが増している。米国のトランプ大統領は「ロイター通信」に対して、金正恩(キム・ジョンウン)委員長とのトップ会談の可能性について「もう遅すぎる。我々は彼がやってきたことに非常に怒っている」と述べた。

 北朝鮮に対する非難が高まるならば、米国と韓国による北朝鮮への軍事攻撃の可能性が高まるのは確かだ。

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メディアは北朝鮮の現地取材をすべき!

 2月13日に死亡した金正男(キム・ジョンナム)氏について、錯綜した報道が続いている。テレビ各局には、近年は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を訪れたことがない「北朝鮮評論家」のほぼすべてが登場。

 彼らの金正男氏死亡に関する話は推測ばかりである。そもそも情報が少ないので無理はない。スタジオに呼ばれてコメントを求められたら、確信がなくても、無理やりでも何らかの発言をせざるを得ないということがある。問題は、その発言が「事実」として広がることだ。

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主体(チュチェ)思想塔とマスゲームの練習が行われている金日成(キム・イルソン)広場(2016年8月23日撮影)

 新聞とテレビの多くは、金正男氏の死亡を「北朝鮮による毒殺」と事実上の断定をしている。だが、マレーシア当局の発表がない現在(2月18日午前11時)、それは推測でしかない。結果がどうであれ、確たる証拠がない現状では「容疑」とすべきだ。その危うさを、マスメディアは百も承知で報道している。「北朝鮮バッシング」は人々に関心が持たれ、雑誌の発行部数やテレビの視聴率が上がるからだ。

 2月17日、「東京新聞」編集委員の五味洋治氏が、「外国人特派員協会」で会見を開いた。五味氏は2012年5月に「父・金正日と私 金正男独占告白」という金正男氏への取材を本にしている。出版に先立つ1月28日には「東京新聞」へインタビュー内容を掲載。本には、記事掲載後に金正男氏から届いたメール内容が紹介されている。

 「東京新聞に掲載された記事内容が北朝鮮を刺激したようです。一種の警告を受けました。追加の記事掲載は当分保留して下さい」(「父・金正日と私」143頁)

 記事と本が出たことで、金正男氏と北朝鮮との関係は決定的に悪くなったと私は思う。五味氏はそれについて、会見で次のように述べた。

 「金正男氏には、私がこれまで積み重ねてきた取材、Eメールについて、本にしてもいいかということについては許可を受けています。ただし、『タイミングが、今は悪い、ちょっと待ってほしい』と言われたのは事実です。私はタイミング的には非常に微妙な時期ではありましたが、彼の思想や北朝鮮に関する考え方、人間性を伝えることこそ、北朝鮮に関する関心を高め、理解が進み日本だけでなく他の国との関係が改善されるという信念のもとに、本を出版いたしました」(アンダーラインは筆者)

 これは完全に言い訳でしかない。スクープ取材を発表したいという五味氏の記者としての気持ちは痛いほど分かる。だが、「本の出版を一番反対したのは、私の妻です」と述べているように、出版は金正男氏にとって非常に大きなリスクになることを十分に認識していたが、それでも出版に踏み切った。このことについて五味氏は会見で次のように語っている。

 「『北朝鮮は経済の改革開放、中国式の改革開放しか生きる道はない』とも言っていました。この発言を報道したり、本にしたことで彼が暗殺されたとみなさまがお考えなら、むしろこういう発言で1人の人間を抹殺するという、そちらの方法に焦点が当てられるべきでしょう」(アンダーラインは筆者)

 これは「北朝鮮による犯行」を持ち出すことで、自らの判断を不問にしようとするものだ。ただ、共感できる発言もあった。

 「この3日間、英語圏・中国圏・韓国語圏、数百件の電話をいただきました。私はみなさまがたにお勧めします。私に対してすべての答えを得ようとせず、ご自分で直接ソースにあたって、取材をしてみてください。それが北朝鮮を変える力になります」

 「北朝鮮を変える力」ではなく「北朝鮮の実態に迫る」ということだと思うが、日本や海外のメディアは自ら北朝鮮取材をすべきである。現状は、北朝鮮へ取材に行きもせず、怪しげな情報に飛びついて不正確や間違った報道をしている。

 私は山ほど出した取材申請のほとんどを断られながらも、何とか35回の現地取材を実現させた。北朝鮮取材には大きな制約があるが、それでも現地でさまざまな取材を実現させるための努力をするべきだ。

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北朝鮮 ゴルフではなく危機回避の働きかけを

 米国・トランプ政権の動向を世界が注視しているが、朝鮮半島で緊張が極度に高まっていることへの関心は低い。そうした中で、米軍の戦略兵器が朝鮮半島周辺に次々と配備されている。

平壌市内
大規模な建設工事が続く平壌市内(2016年8月23日撮影)

 「朝鮮日報」2月11日付によれば、6日に「B1Bランサー戦略爆撃機」数機がグアムのアンダーセン空軍基地に再配備。6日~7日にはステルス戦闘機「F22ラプター」約10機が米国本土から日本へ移動。このF22は、韓国・烏山(オサン)の米空軍基地からわずか7分で平壌(ピョンヤン)への精密爆撃ができるという。

 そして10日には原子力空母「カール・ビンソン」(排水量9万3000トン)がグアムに到着した。80-90機もの艦載機と約10隻の護衛艦を擁する空母機動部隊が、西太平洋で活動するのは異例とのこと。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が、2月16日の金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日に、衛星打上げロケットないし大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を実施する可能性がある。

 朝鮮半島周辺へ配備された米戦略部隊は、この発射実験を牽制し3月からの米韓合同軍事演習「キーリゾルブ」と「フォールイーグル」に参加するとみられる。

 マティス米国防長官が最初の外国訪問先として韓国を選んだのは、北朝鮮が米国本土に到達する核搭載の弾道ミサイルを完成させようとしているからだ。マティス長官と韓国・韓民求(ハン・ミング)国防省は、「キーリゾルブ」を例年よりも強化することで合意した。

 トランプ政権は北朝鮮に対し、対話よりも軍事攻撃での「解決」を選択する方向へ進みつつある。近く予想される衛星打上げロケットないしICBMの発射実験へ米国が強硬措置をとるならば、韓国だけでなく日本も一気に激流に巻き込まれるだろう。

 安倍首相は、トランプ大統領とゴルフをしている場合ではない。「第2の朝鮮戦争」を回避するために、北朝鮮との対話を働きかけるべきだ。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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