北朝鮮 核・ミサイル開発の停止がみえてきた

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は9月15日、中距離弾道ミサイル「火星12」を発射。今回は、米国領グァムまで届く約3700キロメートルを飛行した。

宇宙開発局の説明会
「科学技術殿堂」で開催された「国家宇宙開発局」による説明会(2017年8月16日撮影)

 高度100キロメートル以上の宇宙空間を移動している人工衛星や国際宇宙ステーションなどは、領空侵犯とされていない。今回のミサイルの高度は約770キロメートルに達しており、日本の政府やマスメディアが「日本の上空を通過」とするのは極めて不自然である。

 今回も日本政府は「緊急情報ネットワークシステム」で情報を流し、さらに危機感を煽った。最近では、「防空ずきん」を被せて小学生にまで「防空演習」をし、廃線になった鉄道のトンネルを「防空壕」にしようとする地方自治体まででてきた。この異常な対応について、疑問や批判の声はあまり聞こえてこない。日本はすぐにでも戦争できそうな雰囲気になってきた。

 今回のミサイル発射訓練を視察した金正恩(キム・ジョンウン)委員長の発言を「朝鮮中央通信」(9月16日)が詳細に報じている。

 「われわれの最終目標は米国と実際の力のバランスを取って米国執権者の口からむやみにわが国家に対する軍事的選択だの、何のというたわごとが出ないようにすることだ。米国にとって対処不可能な核の反撃を加えられる軍事的攻撃能力を引き続き質的に固めながら、真っ直ぐに疾走しなければならないと語った(略)今やその終着点にほとんど到達したのだから、全国家的な力を集中して結末を見なければならないと力説した」

 この発言には重要な意味がある。国家の力を集中して続けてきた核・ミサイル開発は、その完成が近いとしたのだ。つまりそれらの実験は、それほど遠くない時期に停止される可能性が出てきた。

 そして「結末」という言葉は、米国との交渉を指しているのだろう。北朝鮮が、国民生活や外交関係などを犠牲にしながらも、核・ミサイル開発に国力を注いできたのは、米国による体制保障を得るためである。米国まで到達する核兵器搭載ミサイルが完成しなければ、その交渉は成功しないと考えているのだ。これは今までの最高指導者たちが、米国との交渉に失敗したことを教訓としているのだろう。

 「国連安保理」などがさらに厳しい制裁を実施しても、北朝鮮の核・ミサイル技術が完成することが明白になった。韓国や日本も核武装して核軍拡の泥沼へ進むのか、米国が北朝鮮との真剣な対話で妥協点を見出すのか。そのどちらかしか選択肢はない。

北朝鮮は制裁に耐えられる社会

 9月11日、「国連安全保障理事会」は、6回目の核実験を行なった北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対し、追加制裁の決議案を全会一致で採択。米国は中国とロシアの賛成を得るため、当初の厳しい内容を緩めた。

勝利化学連合企業所
羅先(ラソン)経済特区にある製油所「勝利化学連合企業所」(2015年6月22日撮影)

 決議内容は、北朝鮮へのガソリンと軽油などの石油関連品の輸出を30パーセント削減した200万バレルに制限し、年間7億6000万ドル(約830億円)と推定されている北朝鮮からの繊維製品の輸出を禁止した。

 「国連安保理」による北朝鮮への制裁は、2006年からこれで9回目。今回は石油輸出の制限といったかつてない厳しい内容だが、北朝鮮の核・ミサイル開発に打撃を与えることはまったくないだろう。

 それは北朝鮮という国は、輸出入に大きく依存しない自立した社会を長年にわたって目指してきたからだ。1950年代半ばに中国とソ連(当時)の対立が進む中で、北朝鮮はそれら大国に左右されない自力更生の道を模索。マルクス・レーニン主義を独自解釈したその考えを「主体(チュチェ)思想」とした。

 それ以来、政治・経済・文化などにおいて外国に左右されない社会づくりのために、地道な努力をしてきたのである。1990年代にはソ連崩壊や水害・干ばつの自然災害などがあって大きく後退したこともあるが、歩みはゆっくりではあるものの着実に独自の道を歩んできた。

 韓国銀行は7月21日、北朝鮮の2016年の国内総生産(GDP)が前年比で3・9パーセント増加したことを発表。今回の追加制裁でその経済成長率が続くのは困難と思われるが、制裁で大きく後退することはあり得ない。

 13日に北朝鮮は、追加制裁に対して「外務省報道」を発表。「わが国の正々堂々たる自衛権を剥奪し、全面的な経済封鎖でわが国家と人民を完全に窒息させることを狙った極悪非道な挑発行為の産物。峻烈に断罪・糾弾し、全面的に排撃する」と非難した。

 おそらく北朝鮮は、核・ミサイルが完成するまで新たな実験を続けるだろう。米国は制裁強化や軍事攻撃の威嚇によって北朝鮮を力で屈服させようとしているが、その行きつく先は韓国と日本を巻き込んだ戦争である。トランプ政権がそれを避けようとするなら、対話へと舵を切るしか選択肢はないのだ。

北朝鮮への米国の軍事攻撃に反対の声を!

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と米国との軍事的緊張は極限状態になった。核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮への新たな制裁として原油供給の停止が焦点となっており、安部首相が米国よりもその推進に積極的だ。

平壌市内の通行人
平壌市内の裏通りを行き来する市民たち(2017年8月16日撮影)

 しかし、原油供給停止という制裁は極めて危険だ。1941年に日本がアジア太平洋戦争へ突入した理由のひとつが、米国による日本への原油の全面輸出禁止だった。

 もし北朝鮮への原油供給が止まったら、農業生産低下による餓死と冬の寒さによる凍死で相当な数の死者が出るだろう。極めて非人道的な措置である。

 トランプ政権はこうした制裁強化だけでなく、北朝鮮の核・ミサイル施設への限定軍事攻撃を真剣に検討しているのは間違いない。

 それに踏み切った場合の北朝鮮による反撃で、米国・韓国・日本の被害がどれだけ出るかを最大の判断基準としていることだろう。1968年の「プエブロ号事件」や1994年の「核危機」などで、米国は北朝鮮への核兵器を含む軍事攻撃を真剣に検討した。ところが、韓国での死亡者数があまりにも多いために攻撃を断念してきた。

 完成しているかどうかはともかく、核兵器とその運搬手段をほぼ獲得した北朝鮮への軍事攻撃は、もはや不可能になったと判断するのが妥当だろう。だが迷走飛行をしているトランプ大統領が、そう思うかどうかは極めて未知数だ。米国の安全のためには、極東アジアで膨大な数のアジア人が死ぬことも仕方ないと判断する可能性がある。

 今の危機は、北朝鮮と米国のチキンレースによるものだ。体制保証を得ようとする北朝鮮が、それに応じなければ核・ミサイルで攻撃するとしているのはグァムや米本土である。日本への威嚇は、安倍政権があまりにもトランプ政権に追随しているためだ。

 こうした危機に陥っているにもかかわらず、日本の中で米国による軍事攻撃に反対する声がほとんど聞こえてこない。米朝対決の状況の中で、米国を批判することは間違いだとでも思っているのだろうか?!

 北朝鮮に対する評価は異なっていても、米国による軍事攻撃に反対する声を直ちに上げるべきだ。ベトナム戦争の際の「殺すな!」というスローガンを再び掲げるべき時がまさに今だ。

北朝鮮「火星12型」上空通過で日本は異常事態

 8月29日午前5時58分、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は中距離弾道ミサイル「火星12型」を発射。平壌(ピョンヤン)市郊外の「順安(スナム)国際空港」の滑走路から打ち上げられ、日本の渡島半島から襟裳岬の上空を通過して公海へ落下した。相次いで行われた「ロフテッド軌道」での打ち上げ実験が、次の段階へと進んだのだ。

火星12型
軍事パレードで公開された「火星12型」(2017年4月15日撮影)

 驚きなのは、この打ち上げに対する日本国内での異常な反応だ。日本政府は発射4分後に「全国瞬時警報システム(Jアラート)」で12道県にミサイル発射情報を伝達。テレビ各局は、通常番組を中断して「国民保護に関する情報」として「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に非難して下さい」との画面へ切り替えたりした。

 また、対象地域では携帯電話が自動的に鳴って情報が通知され、屋外に設置された「防災行政無線」はサイレンが鳴ってアナウンスが流れた。これではまるで、アジア太平洋戦争での「空襲警報」と同じではないか。そのため新幹線を含むいくつもの鉄道が運行を一時停止し、休校にした学校もあった。政府がそのようにおおげさな警報を流せば、社会が大混乱するのは当然だ。

 それでいて日本政府は、この弾道ミサイルを撃ち落とそうとしたわけではない。安倍首相は「発射直後からミサイルの動きを完全に把握している」と語った。つまり、日本に被害をもたらすことがないと分かっていて警報を流し続けたのである。

 拉致問題への厳しい対応で政権を取った安倍首相は、北朝鮮への恐怖を徹底的に煽ることが支持率を増やす最大の方策だと思っているのだろう。その結果、もはや日朝関係は容易に修復できない最悪の状態になってしまった。

 安倍首相は北朝鮮との外交交渉を放棄し、米国に追随して圧力一辺倒の対応をしている。それが、米朝の軍事衝突に巻き込まれるなどこの国を危うくしていることは、百も承知しているはずだ。拉致・核・ミサイル問題を、自らの利益のために利用するのはもうやめるべきだ。

北朝鮮 金永南氏が健康ぶりを示す

祝賀宴での金永南・最高人民会議常任委員会委員長(2017年8月15日撮影)
祝賀宴での金永南・最高人民会議常任委員会委員長(2017年8月15日撮影)


北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の首都・平壌(ピョンヤン)からの、現地報告第3弾。

 8月15日の日本による植民地支配からの「解放記念日」。街にはそれを祝う看板や装飾が数多く設置された。

この日に開催された祝賀行事で、「朝鮮労働党」の党内序列第2位で89歳の金永南(キム・ヨンナム)「最高人民会議常任委員会委員長」が健康ぶりを示した。

 この日、平壌市内の「人民文化宮殿」において午前10時から「白頭山偉人を讃える大会」が開催された。1時間半近くの大会中、舞台中央において拍手や起立を繰り返した。

 午後6時30分から同じ会場内でその祝賀宴が開催された。それは約2時間続いたが、金永南氏は途中で退席することもなく、次々と席へやってくる海外からの参加者と談笑を続けた。
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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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