歴史的な南北首脳会談の影で日本は?

 4月27日、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との会談が、軍事境界線上にある板門店(パンムンジョム)で開催された。

板門店平和の家
北朝鮮の「板門閣」から見た板門店の韓国側の施設。左の建物は「自由の家」で、その右側が首脳会談の行われた「平和の家」。その右奥には「開城工業団地」が見える。(2014年10月5日撮影)

 北朝鮮側からは10回ほど、韓国側からも訪れてそのようすがすっかり頭に入っているその板門店は、南北の軍事対峙の最前線だった。たった1歩で跨ぐことのできる幅50センチの境界線は、南北分断の象徴である。

 文大統領と握手をした金委員長がそれを歩いて越えた。文大統領が「私はいつごろ軍事境界線を越えられますか」と言うと、「それでは今、越えてみますか」と金委員長が答え、二人は手をつないで北側へ入った。

 南北分断の歴史が大きく変わろうとしていることを示す出来事である。朝鮮半島情勢に40年間も関心を持ち、南北合わせて83回の取材に訪れた者として、大きな感動を覚えた。

 この南北首脳会談は単に3回目ということではなく、過去の金正日(キム・ジョンイル)総書記と金大中(キム・デジュン)大統領・盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領との会談の成果の上に行なわたものだ。

 両首脳は「完全な非核化による核のない朝鮮半島の実現」をうたった「板門店宣言」に署名。朝鮮戦争の終戦を年内に目指すことや、南北に米国・中国を加えた平和体制構築の協議構想などを発表した。おそらく米朝首脳会談においても、関係改善が大きく進むだろう。

 このように東アアジア情勢はダイナミックに動き出しているが、日本だけが完全に置き去りになっている。もちろんその責任は、異常なまでの北朝鮮への敵視政策を進めてきた安倍政権にあるのは明白だ。

 安倍政権は米朝首脳会談の開催が決まると、あわてて日朝首脳会談をさまざまなルートで打診してきた。だが平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開会式において、安倍首相が北朝鮮の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長に話しかけた際、「植民地支配に対する謝罪と賠償が先」と相手にされなかったという。

 その日本への姿勢は、他にも表れている。今日から訪朝する予定だった地方議員による大型訪朝団が、北朝鮮側の「都合」によって延期になった。北朝鮮にとって、韓国・米国との関係改善を進めることが重要であって、日本との関係改善は後回しにするという姿勢が明確になった。

北朝鮮 核・ミサイル実験中止で日本はリング外へ

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は20日に開催された「朝鮮労働党中央委員会総会」において、核兵器開発が完成したとして、核実験と中長距離ミサイル・大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の21日からの中止を決定した。そして使命を終えた北部豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄するとも表明。これに対して、米国と韓国は歓迎すると表明した。

火星12型
大陸間弾道ミサイル「火星(ファソン)12型」(2017年4月15日撮影)

 これは近く開かれる韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領、そして米国のトランプ大統領とのトップ会談の準備交渉において、すでに合意されたことを踏まえての決定だろう。

 このように、北朝鮮が求め続けてきた朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に替えて米国と国交正常化を行ない、米国から軍事的脅威を受けないという状況に向けて交渉が着実に進んでいるのだ。

 それにしても、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の戦略は実に見事である。実業家で政治的経験がなく独裁的なトランプ氏が大統領になるや、数十年間もうまくいかなかった米国との交渉の千載一遇のチャンスだと判断。

 同盟国・中国との関係悪化や「国連安保理」決議による厳しい制裁を覚悟で、一気に核と弾道ミサイル開発を推進して完成させた。そして韓国と中国を後ろ盾にするための外国攻勢を成功させ、米国との最後の交渉に臨もうとしている。完璧なシナリオである。

 米朝関係が大きく改善されれば「安保理」や米韓の制裁は解除され、北朝鮮へのさまざまな投資が一気に行われるのは確かだ。長期の制裁によって日本にまったく依存しない経済をつくり上げた北朝鮮は、妥協してまで日本からの経済支援を求める必要がない。

 日本政府がこれからも「拉致被害者の全員帰国」を拉致問題解決のゴールとするならば、日本だけがこうした流れから完全に取り残されるのは明白だ。北朝鮮問題での「蚊帳の外」どころか、国際的な外交での「リング外」に置かれつつある。

 拉致問題解決のための外交交渉は、着地点を示す必要がある。平壌(ピョンヤン)に米国大使館が開設されるのはそれほど遠くないだろう。北朝鮮での拉致被害者調査は、米国などの第3国や国際機関を入れて行なうのが現実的だ。

 ただ安倍政権は、北朝鮮に対してあまりにも敵対的姿勢を続けてきた。小野寺防衛相は、21日の北朝鮮の画期的な発表を一言も評価することなく「現段階で圧力を緩めるタイミングではない」と表明した。「北朝鮮の脅威」を煽って政権の座につき、ひたすら軍事力を増強してきた安倍首相にとって、拉致問題解決や北朝鮮との関係改善は不都合なのかも知れない。

北朝鮮 宋日昊大使が日本政府に返答を要求

 米朝首脳会談が発表される直前の2018年3月1日、平壌市内レストランで宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使と3時間半にわたって会食した。その時の大使の発言要旨を掲載する。
                 *
 北南(注:北朝鮮と韓国)関係は良好に発展している。日本の一般の人は良いこととみている。ただ日本政府の一部の人は芳しく思っておらず、和解の雰囲気を妨害している。安倍首相と河野外相は、制裁と圧力を無分別に強調。(朝鮮で)日本政府への敵愾心が高まっている。両国関係は悪化している状況。

宋日昊大使
宋日昊大使(2018年3月1日撮影)

 米国は久しく前から、朝鮮への侵略戦争や核戦争を公言。トランプ政権はもっとひどくなった。この状況の中で、日本が米国に加担していることが目立っている。日米は絡みすぎている。

 (日本による)40年間の植民地支配で、個人と国の財産が奪われた。(金日成)主席が祖国と自主権を取り戻す戦いをして勝利。その5年後、米国により(朝鮮)戦争になった。人口43万人の平壌に、米国は46万3000トンの爆弾を落とした。国なき民の悲しみと屈辱を2度と繰り返さないという思いで戦って勝利。自力で国をつくってきた。

 (朝鮮は)欲しくて核を持ったのではない。朝鮮半島の非核化は主席の遺訓。それを守ろうとしているが、やむを得ず核開発している。米国が毎年、平壌への攻撃や斬首作戦をしようとしており、抑止力として核を保有した。核をなくせというのは、朝鮮をなくせということ。リビアやイラクと同じことになる。核放棄すれば、植民地支配の奴隷状態に戻ることになる。核開発をせざるを得ない前提をなくして欲しい。

 朝鮮労働党第7回大会の(金正恩委員長)演説で、他の国に核攻撃をしないと明言した。日本を含む地域の平和と安定のためだ。朝鮮だけの非核化だけでなく、全世界の非核化を主張している。我々の核武力は、米国などによる核攻撃をなくすためのもの。朝鮮は、世界中から核をなくすために貢献する。

 日本は、朝鮮に対して出来ることはみんなしようとしている。日本の人民と社会に、朝鮮からの脅威を煽っている。北海道上空のロケット通過は高度4000キロメートルの宇宙空間。それを問題にするのは国民を騙すこと。

 こうして日本は、米国と一緒に朝鮮を攻撃できるようにしている。憲法を変えようとしている。自衛隊を国防軍にしようとしている。こうした考えは間違いである。

 朝鮮は日本を侵略したことはないし、これからもない。だが日本の米軍基地が朝鮮を攻撃するならとことんやる。日朝での戦争があれば、20年前は日本が上。今は朝鮮が日本を滅ぼす力を持っている。戦略的地位が変わった。戦争になっても米国は日本を守らない。自国の平和は自国で守る必要がある。

 米国は日本へ2回も核を落とした。ビキニ環礁での核実験で日本の漁民を殺した。日本人民は米国の核によって被害を受けた。米国は世界で核をもっとも多く持っている。

 米軍基地によって、沖縄県民に被害が出ている。米国が日本人民に被害を与えているのに、(日本を)現実的に支配している米国に脅威を感じていない。政策が大きく間違っている。

 日本が米国に頼ることには干渉しない。だが日本は米軍基地に(年間)700億ドル出しているが、朝鮮への(植民地支配の)賠償はしていない。日本が賠償をし、関係改善へ向かうならば対決にはならない。安倍が考えを変えれば、その700億ドルを出さなくても良くなる。

 道(注:地方の行政区域)にある(日本人の)遺骨(への対応)は、中央から言っても聞かないことがある。日本の外務省が、日本人遺骨を勝手に処分しても良いと言えば地方の人たちは喜ぶだろう。そうなれば処分して花園にし、この問題をなくす。

 朝鮮側は、遺骨は厄介な物と考えているので、日本政府からこのことについて、何らかのコメントが欲しい。人道問題を政治的に利用することはない。

北朝鮮の日本人についての特番を放送

 私は昨年8月と今年2~3月に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で暮らす残留日本人・日本人妻、そして「よど号グループ」を取材した。それを2018年4月13日26時32分(14日午前2時32分)から、大阪の朝日放送(ABCテレビ)で1時間の特番として放送する。以下はその番宣。

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“楽園”の日本人 ~透ける北朝鮮の思惑~
2018年4月14日(土) 2:32 ~ 3:32

北朝鮮には、実は多くの日本人が暮らしている。北朝鮮情勢が大きく変化する中、どのような思いで暮らしているのか。平昌オリンピックが開催されている最中に取材した。
2月末、北朝鮮に入った。朝鮮半島に融和ムードが流れていたが、終了後には緊迫化すると予想していた。取材の目的は、北朝鮮で暮らす日本人を取材すること。実は多くの日本人が生活している。戦後取り残された残留日本人。在日朝鮮人の夫とともに海を渡った日本人妻。
さらによど号ハイジャック犯。フォトジャーナリストの伊藤孝司さんと、それぞれの生の声を聞いた。口を揃えて言うのは、国交の正常化。北朝鮮からのメッセージだ。

◇出演者
伊藤孝司(フォトジャーナリスト)
荒井琉璃子(残留日本人)
中本愛子(日本人妻)
伊藤史隆(ナレーション)
◇監督・演出
【取材】伊藤孝司
【撮影】利満正三
【ディレクター】藤田貴久、島田陽磨
【プロデューサー】藤田貴久
【編集】片山一晶
【音効】前田陽一
◇制作
朝日放送テレビ

北朝鮮からの拉致被害者情報を政府が隠ぺい

 米国政府当局者が8日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「朝鮮半島の非核化」について協議する意思があることを北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)当局から直接伝えられたことを明らかにした。5月末までに行なう予定の米朝首脳会談に向けての秘密接触の中で伝えられたようだ。

平壌のバス停
平壌(ピョンヤン)市内でバスを待つ人々2018年3月2日撮影)

 「朝鮮半島の非核化」は金日成(キム・イルソン)主席の時代から北朝鮮から提案されているものだ。しかし、北朝鮮が米国まで到達する核ミサイルを完成させている現在ではまったくその重みが違う。

 こうした米朝交渉の準備と、北朝鮮と韓国・中国との関係改善が着実に進む中で、日本は完全に取り残されている。慌てて日朝首脳会談を模索したものの、それによる「成果」が期待できない状況になった。今年3月頃、北朝鮮が日本に「拉致問題は解決済」と改めて伝えてきたというのだ。

 そうした中で3月下旬に、日本政府のリークか内部告発によると思われるとんでもない情報が流れた。政府によって、「拉致被害者」と認定されている田中実さん=失踪当時(28)と「拉致の可能性を排除できない」とされている金田龍光さん=失踪当時(26)について、2014年に日朝が接触した際に北朝鮮から「入国していた」と伝えられていたというのだ。

 この二人が、自分の意志に反して北朝鮮へ渡ったのかどうかは分からない。だがこれは極めて重要な情報であり、日本政府がその安否を確認するために全力で取り組んでもおかしくない。ところが、何もしなかった疑いがある。

 二人に関する情報が伝えられたのは2014年5月の「日朝ストックホルム合意」の前だという。この「合意」によって、北朝鮮は国内にいるすべての日本人を調査することになった。

 その対象は、拉致被害者と行方不明者・残留日本人・日本人妻・日本人遺骨。私の取材で、残留日本人と日本人妻たちだけでなく、「よど号グループ」まで複数の担当が出向いてきちんと調査をしたことが分かっている。政府はその結果を聞くため、中国・瀋陽で協議したり訪朝団を派遣したりしている。

 このように、日本政府がこの二人の情報についての確認や本人たちへの面会をする機会は何度もあったが、それをしなかったのだろうか。何よりも、この重要な情報を今まで隠し続けてきた安倍政権の責任が厳しく問われる。
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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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