北朝鮮 リスク覚悟のミサイル発射実験の理由は

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は5月14日午前5時27分頃に、平安北道(ピョンアンプクド)亀城(クソン)から弾道ミサイル1発を発射した。飛距離約800キロメートルで飛行時間は約30分。そして高度は2000キロメートルだったという。

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軍事パレードに登場した「火星(ファソン)12」(2017年4月15日撮影)

 このミサイル発射実験によって、北朝鮮との対話路線を進めようとする韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は間違いなく動きにくくなる。そして、今月8~9日にノルウェーで行われた米朝非公式協議によってできた交渉の機運が途絶えるかも知れない。

 4月18日に北朝鮮は中国へ、20日に核実験を行うことを通告していたという。これに対して中国は、実施すれば完全な国境封鎖をすると警告。つまり、北朝鮮の生命線である石油供給も止めるということだ。そのため、核実験は行われなかった。

 北朝鮮は大きなリスクがあることを覚悟しながら、核兵器とそれを運搬する弾道ミサイルの実験を続けている。それは米韓の反応を見たり、軍事的緊張を高めたりするためではなく、それらの技術を完成させることが目的だ。北朝鮮が核・ミサイル開発をする理由は、朝鮮戦争を終結させ米国による軍事的脅威をなくすこと。技術開発が中途半端な状態での交渉は目的を達成できない、と考えているのは確かだ。

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北朝鮮 宋日昊大使に単独インタビュー

 「週刊金曜日」2017年4月28日・5月5日合併号に掲載した記事を紹介する。


宋日昊大使に単独インタビュー
「平壌宣言」を重視しながら人道的課題で日朝関係改善を求める


 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が計画する核実験と米韓合同軍事演習により、朝鮮戦争以降で最大の軍事的危機が高まっている。そうした中で朝鮮は、4月15日に金日成(キム・イルソン)主席生誕105年の記念日を迎えた。

宋日昊大使
単独インタビューに応じる宋日昊大使(2017年4月20日撮影)

 宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は17日、その取材に訪れていた日本メディアの記者団との会見に応じた。私はそれを聞いた翌日、記者団とともに平壌(ピョンヤン)から車で約5時間の咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムフン)市へ。ここで、残留日本人と日本人妻を取材した。

 84歳のリ・ウグンさん(日本名・荒井琉璃子さん)は、自宅でインタビューに応じた。熊本県出身の両親の間に「京城」(現在のソウル)で生まれる。日本敗戦の混乱の中で家族とはぐれ、朝鮮人に育てられて結婚。中国東北地方と同じ状況がソ連軍管理下の朝鮮半島北部でもあり、残留日本人がたくさんいた。13日に単独インタビューした「日本研究所」の曺喜勝(チョウ・ヒスン)上級研究員は、3年前の調査で残留日本人9人を確認していることを明らかにした。

 咸興市では、在日朝鮮人の夫とともに「帰国事業」によって朝鮮へ渡ったいわゆる日本妻たちによる「咸興にじの会」の会員たちとその事務所の取材もすることができた。

 平壌へ戻った20日夜に、宋大使への3時間に及ぶ単独インタビューが実現した。記者団には語られなかったより突っ込んだ話があった。
 私はまず、残留日本人と「にじの会」を初公開した意図について聞いた。「日本の記者から取材希望があったが、個別に認めると(朝鮮の)工作活動と言われるので、多くの記者が来た時に設定した」と述べた。だが「日本の政府・民間を問わず、(日本人埋葬地)墓参や残留日本人での提起があれば前向きに対応する」と語るなど、人道的課題を見せようとしたのは確かだ。

 宋大使は17日の会見で「ストックホルム合意」は「すでに無くなっており、その責任は日本にある」とした。そして「合意」に基づいて日本人調査を実施していた「特別調査委員会」は「解体された」と語った。

 この発言に対して岸田文雄外務大臣は18日、「まったく受け入れられず、合意履行を引き続き求めていく」と強く反発。私は宋大使に、それをどのように受け止めるか質した。「拉致問題だけを進めるよう求める発言であり認められない。合意とは、破棄すると再び戻すことができないもの」と述べ、復帰する意思がまったくないことを明言した。

 しかし宋大使は「『日朝平壌宣言』は首脳会談によるものなので非常に大切にしており、関係改善の里程標となっている」とした。つまり、金正日(キム・ジョンイル)総書記が署名した宣言は絶対的なものであり、あくまでも守ろうとしているのだ。

 「朝鮮革命博物館」がリニューアルされて3月30日に開館。朝鮮の解放と建国、社会主義建設の歴史が約100室に展示されている。私は外国人ジャーナリストとして初めて取材できた。日本に関する展示室にはパネルや写真、人々の日用品などが並び、植民地支配の実態を細かく解説。昨年6月には、日本・米国との対決の歴史を若い世代に教えることを目的とした「中央階級教養館」がオープンしている。

 宋大使は「『日朝平壌宣言』の中核は過去の清算であり、これを抜きにして実りある関係は結べない」と語った。その姿勢を改めて示しながらも、日本国内で批判が出にくい人道課題で対話の糸口を再び探る。これが現在の朝鮮の、日本に対する方針のようだ。

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北朝鮮 「北風」ではなく「太陽」が必要

 韓国大統領選挙で、最大野党「共に民主党」前代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選した。米国・トランプ政権は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との対話路線を進めようとする文氏の当選を見越して、その前に北朝鮮への最大限の軍事的圧力を加えていた。

編隊飛行
「金日成(キム・イルソン)主席生誕105年」を祝しての編隊飛行(2017年4月15日撮影)

 そしてトランプ政権は韓国の新大統領就任に合わせ、圧力一辺倒の方針を手直ししようとしている。米国のティラーソン国務長官は5月3日の講演で、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合の約束を公表。この内容は中国にも伝えられたという。

(1)体制転換を求めない
(2)金正恩(キム・ジョンウン)政権崩壊を目指さない
(3)北緯38度線を越えて米軍は侵攻しない
(4)朝鮮半島の再統一を急がない

 ティラーソン提案は一定の評価はできるが、北朝鮮がこれを簡単に受け入れることは考えられない。北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄するとしたら、米国から絶対に軍事攻撃を受けない状況が完全に担保されること。そのためには朝鮮戦争の終結と、米国との国交正常化が必要だろう。トランプ大統領が、そこまで踏み込んだ交渉をする決意があるかどうかだ。

 ノルウェーで、北朝鮮外務省で対米交渉を担当する崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と、米国の民間代表団とが非公式接触を実施。米朝の妥協点を見出すために、重要な役割を果たすかも知れない。

 先に、平壌(ピョンヤン)市内のガソリンスタンドに車の列が出来ているとの報道があった。しかし8日に北朝鮮から帰国した人の話では、そのような状況はなかったという。「ガソリン供給が止まる」という風評が一時的に流れたのかも知れない。

 北朝鮮に対する制裁は確実に強化されつつあるが、私が4月中旬に見た平壌や地方都市のようすからすれば、まだまだ持ちこたえることが出来るだろう。軍事力や制裁の強化といった「北風政策」ではなく「太陽政策」でなければ、北朝鮮との緊張緩和が進まないのは確かだ。

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北朝鮮 ガソリン価格は急騰したのか

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に支局を置く「中国中央テレビ」と「AP通信」は、ガソリン価格が急騰したり販売制限がされたりしていると報じている。

給油所
「新坪(シンピョン)休憩所」にあるガソリンスタンド(2017年4月20日撮影)

 4月21日まで北朝鮮に滞在していた私は、地方の道路を走る大型トレーラーをひんぱんに見た。これは今までになかったことだ。道路状況は良くないが、物流は確実に向上している。またいたる所で、大型トラクターが水田の田起こしをしていた。

 北朝鮮でガソリンを買うには、ガソリンスタンドで15キログラム単位の給油券を使う。「中国中央テレビ」は25日、90人民元(約1530円)だったのが160人民元(2720円)に急騰したとした。私はこのガソリン供給状況についても取材している。

 12日に「よど号グループ」4人に会った時には、ガソリン価格はわずかに上昇していると聞いた。20日に話を聞いたある運転手は、15キログラム約12ドル(約1320円)だったのが約15ドル(1650円)に上昇したと語った。

 長距離を走る車に、ガソリンを入れたドラム缶が積まれているのを18日に見た。これは、ガソリン供給が滞ることを予測してのことだったのかも知れない。

 中国が北朝鮮への原油供給を制限し始めたのか、北朝鮮が今後の軍事的緊張を予測して使用を減らそうとしているのかは不明だ。ただ中国が制限したとしても、量は限られているもののロシアからの供給が増えるだろう。

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北朝鮮 人民軍兵士が私のカメラで撮った写真

 日本のマスメディア各社は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「朝鮮人民軍創建85周年記念日」である今日、核実験が間違いなく実施されるかのような報道を続けた。だがその「期待」に反してなかった。

 米朝関係は極めて危険な状態だが、マスメディアは政府と共に「北朝鮮の脅威」をさらに煽っている。米国・トランプ政権の危険な冒険を戒めるよう日本政府は動け、との論陣を張るべきではないか。

 私の北朝鮮での14 日間の滞在中、睡眠時間は3-5時間。それは祝賀行事を取材するための荷物検査を受けるために、午前4時にホテルを出るということが続いたりしたためだ。

 海外メディアの人数は約120人。徹底した検査であるため、全員の検査が終わるまで2時間かかる。それを3回受けた。撮影機材などすべての荷物はカゴに入れて預け、検査に本人が立ち会うことは出来ない。

兵士が撮影した写真
軍人が撮影した検査場の絵(2017年4月15日)

 検査が終わったカメラには、私が撮った覚えがない映像があった。検査の人民軍兵士が、カメラが本物であることを確認するためにシャッターを切ったのである。金正恩(キム・ジョンウン)委員長に望遠レンズを向けるのは大変なことなのだ。

 帰国後も睡眠時間を削り、テレビと雑誌のための作業を並行して進め、ようやく一息ついている。今回の取材で撮影した写真は6000枚以上。撮影した動画も膨大な時間になる。あまりにも欲張った取材を実現させたので、発表したいことが山のようにある。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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