北朝鮮の文化財が日本にある!

 1月26日に、韓国の大田(テジョン)地方裁判所が下した判決に注目が集まっている。2012年に長崎県対馬市の観音寺から韓国人の窃盗グループによって「観世音菩薩坐像」が盗まれた。

 現在は韓国政府が保管するその仏像について、所有権を主張する韓国中部の浮石(プソク)寺への引き渡しを命じたのだ。韓国政府は、判決を不服として控訴した。

 判決は仏像内部から見つかった文書により、この仏像が1330年に浮石寺で作られたとしている。そして、「浮石寺がある地域では、1352年から1381年の間に倭寇(日本の海賊)が5回にわたって侵入したという記録が『高麗史』に残っている」とし、仏像は観音寺創建の1526年よりも前に「贈与や売買など正常ではない方法で対馬へ運ばれたとみられる」とする。

 私は、日本にある朝鮮半島からの文化財について長らく取材してきた。その立場からいくつか指摘する。まず、この仏像が日本へ渡った経緯については、さまざまな主張がある。

 浮石寺は「倭寇によって略奪されたもの」とし、判決もそれを認めている。韓国のニュース専門テレビ局「YTN」は、豊臣秀吉による朝鮮侵攻である文禄・慶長の役(文禄の役1597-1593年、慶長の役1597-1598年)の際に流出したとする。これはどちらも、日本による略奪ということでは共通している。

 一方の日本である。観音寺の田中節孝・元住職は、李氏朝鮮時代(1392-1910年)の仏教弾圧から逃れるために対馬へ持ち込まれたものとしている。このように日本へ渡った理由は「略奪」「保護」と大きく異なり、時期もさまざまなのである。

 つまり今となっては、日本へ渡ってきた経緯の解明は不可能に近いのである。決定的証拠がない中で、裁判所の倭寇によるものとの断定にはかなりの無理がある。

 この判決を伝える日本のマスメディアの報道には、いくつかの問題点がある。浮石寺の住職が判決後の記者会見で、日本にある朝鮮半島からの文化財について触れたことについて、韓国への文化財返還は「日韓条約」で終わっていると報じたテレビ局があったが、それは正しくない。そしてどのマスメディアも、今回の仏像返還問題の背景について触れようとしていない。

 1965年6月22日、「日韓条約」の関連諸条約として「日韓文化財及び文化協力に関する協定」が結ばれた。返還対象となったのは国有文化財のみで、民間所有のものは除外。また、国宝や重要文化財も全く含まれなかった。韓国政府が返還要求していたのは4479点だったが、引き渡されたのは359件1321点のみ。今も日本各地の「国立博物館」には、朝鮮半島南側からのたくさんの文化財が返還されることもなく展示されている。

 この「協定」締結時に日本政府は、「日本国民が保有する韓国に由来する文化財を、自発的に韓国へ寄贈することを国民に奨励する」と約束した。だがそれはまったく実施されずに現在に至っている。民間所有の文化財返還については、終わっていないのだ。

平壌 石塔
「大倉集古館」にある「平壌栗里寺址石塔」(2006年8月13日撮影)

 韓国の仏教界などの民間からは、いくつもの文化財返還の要求が出されている。「大倉集古館」の庭園には、植民地時代に朝鮮から運んだたくさんの石造物が並ぶ。その中の「利川(イチョン)五重石塔」については、利川市民たちが2006年から「ホテル・オークラ」と返還交渉を行ってきたが、合意に至っていない。

 この石碑と並んで「平壌(ピョンヤン)栗里寺址石塔」が建っている。これは現在の北朝鮮 (朝鮮民主主義人民共和国)である朝鮮半島北側から運ばれたものだ。「京大学考古学研究室」には、平壌近郊の楽浪(ラクラン)古墳群などから発掘した膨大な量の副葬品が保管されている。「国立博物館」が、朝鮮半島北側からの文化財585点を所蔵していることが私の取材で判明している。

 文化財は、民族や国家にとって文化と歴史の重要な記録である。日本国内には朝鮮半島北側からの文化財もたくさん存在する。だが、日朝国交正常化交渉が止まっているため、文化財の返還交渉もまったく進んでいない。だがいつかは交渉を行い、北朝鮮へ返還しなければならないのだ。

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トランプ政権誕生で日本の北朝鮮政策は破たん

 米国トランプ政権は日本などの期待を見事に裏切り、国際協調より米国の国益中心主義という政策へ大きく転換することを表明した。

「三大革命展示館」のロケット模型
「三大革命展示館」のロケット模型(2013年6月12日撮影)

 20日の就任演説後にホワイトハウスは「環太平洋連携協定(TPP)」脱退を宣言。これで発効は不可能となった。日本国内の保守を含む反対の声を押し切って国会承認した安倍政権を打ちのめした。

 これだけでなく、米国追随を続けてきた安倍政権は次々と外交政策の見直しが迫られるだろう。「米国第1主義」となった米国の日本やアジアへの関心は低下し、米国頼みの外交政策は破たんするからだ。

 2015年12月の「慰安婦問題に関する日韓合意」は、「少女像」をめぐる日韓での対立によって風前の灯である。この「合意」は、日韓関係の改善を求めるオバマ政権による強い圧力によって、一気に話が進んだ。「合意」白紙化への動きは間違いなく加速する。

 そしてホワイトハウスの声明で、「力による平和が外交政策の中心になる。イランや北朝鮮などのミサイル攻撃に対し、米国防衛のための最新ミサイルシステムを開発する」とした。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対して、対話ではなく軍事力で対応しようという姿勢である。

 「日朝ストックホルム合意」を破たんさせたのは、米国・韓国と協調するための独自制裁だった。日朝間の諸問題を解決するには、もはや米国にお伺いを立てることなどやめ、積極的な姿勢で北朝鮮との対話を進めるしかない。

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北朝鮮 トランプよりも先を進む安倍政権

 日本のマスメディアの米国のトランプ次期大統領についての報道は、不安と根拠のない希望ばかりだ。その中には、トランプの人種差別主義への危惧もある。移民国家である米国が白人以外の人々を排斥するならば、社会の分裂だけでなく破たんへの道をたどるのは必然だ。

万景峰号
制裁により日本へ入国できず、元山(ウォンサン)に係留されたままの「万景峰92号」(2016年5月29日撮影)

 しかし、米国を心配している場合ではない。すでに、日本社会はとんでもない状況に陥っている。一昔前には考えられなかったヘイトスピーチは今や珍しくなくなり、行政は朝鮮学校への差別措置を平然と実施している。

 こうした民族排外主義のまん延は、第1次安倍政権の時から顕著になった。拉致事件を起こした北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への徹底したバッシングで首相になった安倍晋三。

 北朝鮮に対する異常で陰湿な敵視政策を推進し、拉致問題を含む日朝間の急がれるさまざまな重要課題の解決を困難にさせてしまった。また北朝鮮だけでなく、韓国・中国までバッシングする日本社会の雰囲気を定着させた。

 民族排外主義を信奉する最高権力者として、トランプよりも先を進む安倍政権。その御先棒を担いできたマスメディアは、人の振り見て我が振りを正すべきだ。

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「核兵器禁止条約」に賛成した北朝鮮

 10月27日、軍縮を扱う「国連総会第1委員会」で「核兵器禁止条約」など核兵器の法的禁止について来年3月から交渉開始をするとの決議が、123カ国の賛成多数で採択された。

プエブロ号の浮わ
北朝鮮に鹵獲された米軍情報収集艦「プエブロ号」の浮輪(2016年8月22日撮影)

 米ロ英仏の核保有国だけでなく、米国の「核の傘」にある韓国や「北大西洋条約機構(NATO)」の加盟国など38カ国が反対、中国など16カ国が棄権した。何と、唯一の戦争被爆国である日本はこの画期的な決議に反対したのである。被爆者たちからは「裏切り行為」との声が上がっており、日本が国際社会に長年にわたって働きかけてきた核廃絶の努力をぶち壊した。

 今年になって2回の核実験を実施し、今まさに核開発を強力に推し進めている北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は決議に賛成した。これは、自国の核開発は米国からの核攻撃を防ぐための手段との基本的姿勢からのものだろう。北朝鮮は5月の朝鮮労働党大会における金正恩(キム・ジョンウン)委員長の活動報告で、核保有を位置づけている。

 「責任ある核保有国として、敵対勢力が核で朝鮮の自主権を侵害しないという前提における核の先制不使用・核不拡散の立場を確認した上で、世界の非核化を実現するために努力する」

 日本が決議に反対した理由を、岸田文雄外相は「決議は核兵器国と非核兵器国の対立を助長し亀裂を深める」と語った。安倍晋三首相は、核保有国が反対する決議に賛成すると日本主導の他の核廃絶決議が理解されなくなる可能性があると釈明した。これらは、苦し紛れの詭弁にしか過ぎない。

 今回も露呈した安倍政権のなりふり構わぬ対米追随の姿勢は、本気で「核なき世界」をめざす国々から侮蔑と嘲笑を受けることだろう。もはや日本には、北朝鮮の核開発を非難する資格がないのは明らかだ。

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北朝鮮 タバコを吸うチンパンジー批判は筋違い

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の首都・平壌(ピョンヤン)市にある「中央動物園」は7月24日にリニューアルオープンした。かつては見ていて悲しくなるような寂しさだったが、行動展示も取り入れて大きな変貌を遂げた。

中央動物園
「中央動物園」での動物ショー(2016年8月24日撮影)

 そこで飼育されている19歳のチンパンジー「アゼリア」が、タバコを吸っているとAP通信が伝えた。この園内には動物ショーを行う施設もあり、私が8月に取材した時には、入場しようとする市民が行列していた。

 このチンパンジーの喫煙について、日本の民放やインターネット上で数多くのバッシングが行われている。だが、それには大きな違和感がある。

 日本など多くの国で、さまざまな動物を使ってのショーが行われている。日本のほとんどの水族館は、イルカ・オットセイ・シャチなどのショーを目玉にしている。

 「世界動物保護協会」は、世界で55万匹の動物が観光アトラクションで苦しんでいるとする。自然界よりもはるかに大きなストレスが溜り、寿命を縮めている。そのため世界では、動物園や水族館での動物ショーをやめるところが増えている。

 北朝鮮で、動物に芸をさせていることは間違いである。しかし、何の疑問も抱かず動物ショーを続けている日本にはそれを批判する資格はない。昨年5月には「日本動物園水族館協会」が、イルカの入手方法をめぐり「世界動物園水族館協会」から会員資格停止をされている。

 北朝鮮にもあるという問題点を、鬼の首を取ったように報道するのは間違いである。他国を批判する前に、自国がどうなのかを検証するべきだ。

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北朝鮮 外務省日本担当者らが異動

 『週刊金曜日』2016年10月14日号に掲載した拙稿を紹介する。

朝鮮外務省日本担当者らが異動 対日政策後退の表れか

 「朝日新聞」(10月7日付)は複数の日朝関係筋の情報として、日朝両政府関係者が9月3日~4日に、中国の大連市内で接触したとみられると報じた。日本側から外務省アジア大洋州局の参事官ら3人が出席、と具体的だ。しかし岸田外務大臣と菅官房長官は同日、この秘密接触を否定した。

 「福岡県日朝友好協会」は、今月5日に宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使と平壌(ピョンヤン)市内で面会。日本との交渉責任者が交代していないことが確認された。ところが私の朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)取材で、外務省日本担当者が次々と人事異動になったことが分かった。

 6月1日に、外務省の趙炳哲(チョ・ビョンチョル)日本担当研究員を単独インタビューした。部下の許成哲(ホ・ソンチョル)さんの、北京の朝鮮大使館への異動を明らかにし、外務省の日本担当者が減少していることを嘆いた。その2カ月後、趙研究員も日本担当から外れて他の部署へ異動していることが判明した。

 この二人は2012年からの日本人埋葬地への調査・墓参団受け入れを担当し、14年5月のストックホルム合意や日朝のさまざまな交渉に関わるなど重要な役割を果たしてきた。この異動が意味することは、日本人調査のための「特別調査委員会」が今年2月に解散し、当面は日本との積極的な交渉をしないということだ。

 私は8月25日に「朝鮮対外文化連絡協会」の孫哲秀(ソン・チョルス)日本局長に単独インタビューをした。局長は「日本当局の朝鮮に対する独自制裁措置が撤回されない限り、朝日関係の改善は考えられない」と語り、日本政府が検討している独自制裁のさらなる強化を牽制した。

 これが朝鮮の今の、日本への基本姿勢であることは間違いないだろう。そのため、日朝秘密接触が行なわれていたとしたら、朝鮮側は制裁撤回を交渉の前提として提示したものと推測される。

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北朝鮮との交渉チャンネルが米国より少ない日本

 10月10日の朝鮮労働党創立71周年に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が核実験やミサイル発射実験がするのではと、日本のどのマスメディアも大きく報道。

清津の銅像と人々
清津(チョンジン)で銅像に献花する女性たち(2015年6月19日撮影)

 北朝鮮をめぐるわずかな動きでも細かく伝えているにも関わらず、重要な動きでありながらほとんど触れようとしていないことも多い。

 先週、北朝鮮外務省の国連担当である李東一(リ・トンイル)氏が、国連総会第一委員会において発言。

 「わが国は米国の敵視政策により自衛目的で核兵器を持った。国家の主権を脅かされない限り、わが国は責任ある核保有国として核兵器を最初に用いることはない」

 北朝鮮は今までにもたびたび核兵器の「先制不使用」を表明してきた。しかし日米韓は、政府だけでなくマスメディアもそれを黙殺している。

 他にも最近の動きで、日本で報じられていないことがある。「ニューヨーク・タイムズ」は8日、ビル・リチャードソン前ニューメキシコ州知事の側近が率いる米国の民間訪問団が9月24日~27日まで北朝鮮を訪れたと報じた。

 この訪問団は、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨発掘の再開、北朝鮮で拘留されているバージニア大生の釈放、北朝鮮北部の台風被害への支援などについて議論したという。

 ホワイトハウス「国家安全保障会議(NSC)」のネッド・プライス報道官はこの代表団に対し、「人道主義的努力を支持する」と明らかにした。

 北朝鮮ともっとも厳しく対峙している米国でも、多数の対話のチャンネルを持っている。ところが「北朝鮮憎し」一色の日本は、一切の対話・交流を認めようとしない雰囲気のままだ。その責任は、極端な北朝鮮バッシングを続けてきた安倍首相にある。

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北朝鮮 制裁強化よりも人道支援を!

 私は『週刊金曜日』 8月19日号で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による核実験が近く行われると予想した。核・ミサイル技術を完成させるために、連続的に実験は実施されると確信していたからだ。

 8月26日に北朝鮮取材から戻り、 TVでの特集制作に集中。9月9日の「建国記念日」に合わせ、二つのニュース番組の中で放送することになった。この日の核実験実施で放送は「タイムリー」になったものの、特集のトーンは変わってしまった。

 いつものように新聞社からはコメントを求められ「日本を含め、国際社会が早期に北朝鮮との外交交渉に乗り出すことが必要」などと話す。翌日の朝刊には、8月に撮影した写真とともに大きく掲載された。

WFP平壌事務所
「世界食糧計画」の平壌(ピョンヤン)事務所(2004年10月撮影)

 現在この核実験に対し「国連安保理」は、さらなる制裁強化のために動き出している。また日本政府も、独自制裁の強化を発表。日本がすでに実施している制裁は「ヒト・モノ・カネ」である。「モノ・カネ」については、出来ることはすべて実施しているためにこれ以上を厳しくすることは不可能。そのため「ヒト」の往来をさらに制限しようとしている。

 自民党は「在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)」 幹部の再入国禁止対象を拡大する方針を固めた。北朝鮮に対しては出来ることがないため、「北朝鮮制裁」という名のもとで、またしても在日朝鮮人への「八つ当たり」である。

 これは筋違いというだけでなく、重大な人権侵害である。日本で生まれて日本に家族や生活がある在日朝鮮人であっても、北朝鮮へ行ったならば日本へ戻ることを認めないというとんでもない措置だ。これは、日本の民主主義を大きく後退させる行為だ。北朝鮮を懲らしめるためには何をやっても構わない、という今の日本の政治・社会やマスメディアの風潮は極めて危険である。

 北朝鮮の北部では、台風10号による大洪水によって甚大な被害が出ている。 国連の「世界食糧計画(WFP)」は、 14万人余りの被災者に緊急食糧支援を実施。国際社会に対し、継続的な支援を呼びかけた。

ところが岸田文雄外相は14日、核実験や弾道ミサイル発射を理由に、現時点で支援を行う考えがないことを表明した。「敵」には塩を送らないということのようだ。

 しかし北朝鮮と重要課題を解決しようと本気で考えているならば、その話し合いの雰囲気をつくるのためも、この災害に対する人道支援を実施すべきではないか。

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北朝鮮 日本人埋葬地の“開発”再開で収容困難に

 「週刊金曜日」2016年7月1日号に、私が行った朝鮮外務省への単独インタビューの記事を掲載した。

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 朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は6月22日、中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)10号」の発射実験を成功させた。このミサイルは米軍基地があるグアムまで届くと推定されており、金正恩(キム・ジョウン)委員長は「米国を攻撃できる確実な能力を持った」と述べている。「国連安全保障理事会」は、この発射を非難する「報道声明」を23日に発表した。

外務省日本担当
朝鮮外務省の趙炳哲・日本担当研究員(2016年6月1日撮影)

 これに先立つ6月1日、朝鮮外務省の趙炳哲(チョ・ビョンチョル)日本担当研究員が平壌(ピョンヤン)市内の「高麗(コリョ)ホテル」で単独インタビューに応じた。

 日朝関係だけでなく米国・韓国との関係や「6カ国協議」復帰についても回答があったが、オフレコとされた。「朝日関係は2014年5月の『ストックホルム合意』前よりも悪い状態になり、死んだのも同然です。原因は日本が『安保理』制裁だけでなく、独自制裁も実施し、『合意』を守らなかったことです。人工衛星打ち上げを、日本だけがミサイル発射として非難したのはわが国を主権国家として認めていないということです。それに耐えかねて(日本人調査のための)『特別調査委員会』を解体しました」

 朝鮮は1月6日に核実験、2月7日に人工衛星打ち上げのためのロケット発射を行った。それに対して日本政府は、独自制裁の強化を2月10日に発表。その二日後に「特別調査委員会」を解体した。責任は日本政府にあるという。

 そして趙研究員は、日本政府の独自制裁強化で交渉の環境が完全に失われたことへの怒りを何度も口にし「独自制裁を撤廃しない限り、日本との対話はあり得ない」と断言した。朝鮮は、交渉のハードルを上げたのである。次に核開発を続ける理由について述べた。

 「米国が(朝鮮半島)南半部と日本に軍事基地を置いているので、核兵器を開発してきました。わが国を、ここまで押しやったのは米国です。このことを日本政府は認識すべきなのに、米国よりもっとひどい対応をしています」

 そして日本への警告ともいえる厳しい発言をした。
「朝米が軍事衝突すると、日本はそれに巻き込まれます。わが国の核とミサイルはどこへ飛んで行くのか。潜水艦で、日本の沖合からも発射できます。日本は惨めな状態になるでしょう」

 米国との戦争になれば、米軍基地がある日本への核攻撃もあり得るというのだ。そして「日本は米国の朝鮮敵視政策にぶら下がるのをやめて、自主外交路線をとるべきです」と語った。

日本人埋葬地消失の危機

 趙研究員は話を終えると部屋を出て行こうとしたので、私は強く引き止めて喫茶室へ入った。まだ、聞かなければならないことがあるからだ。

 朝鮮外務省は12年から、朝鮮各地に残る日本人埋葬地への日本からの墓参団を受け入れてきた。遺族だけでなくメディア各社の多人数による取材も許可。二つの団体が12回の墓参を実施した。こうした積み重ねの上に「ストックホルム合意」が生まれた。

 墓参団受け入れを担当した趙研究員に、日本人遺骨問題の今後について質した。すると、「特別調査委員会」解体で拉致被害者を含む日本人に関する調査をすべて中止したことにより、保留していた日本人埋葬地での果樹園建設などの開発計画は再開されるとした。つまり確認されている集団埋葬地も破壊され、遺骨収容ができなくなる可能性が出てきたのだ。そして今後の墓参団の受け入れについては、明確な返事がなかった。

 朝鮮外務省だけでなく、外国人観光客を受け入れている「朝鮮国際旅行社」でも日本担当者の人数が減っているという。今回の取材で政府機関や多数の事業所で話を聞いていて、日本への関心が急速に低くなっていることを痛感した。日本政府の長期にわたる制裁によって「ヒト・モノ・カネ」だけでなく、文化や技術交流さえ遮断され続けたためだろう。

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北朝鮮からの郵便物が開封された!

 郵便受けに、見たことのない封書が入っていた。日本ではほとんど使われていない濃い茶色の封筒。不審なのはそのことではなく、封書の一辺に細かな文字を刷り込んだ透明なテープが貼られていることだ。開封した箇所に、封をしているのだ。

開封された郵便物
開封された郵便物

 送り主は「朝鮮民主主義人民共和国放送委員会」と書かれている。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で、出版・放送を担当している政府機関である。私はまったく面識がない。

 封筒のサイズは28センチ×15センチ。テープが貼られているのと反対側を開封する。中に入っていたのは、英字紙「PyongYang Times」。平壌(ピョンヤン)で発行されている週刊紙で、27×39センチメートルのタブロイド版で、カラー印刷8ページ。手紙は入っていない。

 開封箇所に貼られたテープには「税関検査のため開封されたものを、弊社にて再装しました」「日本郵便株式会社」とある。税関検査のために開封されたのだ。これは異常事態である。

 私はこの数年間だけでも、海外の多くの国へたくさんの大型の郵便物を発送したし、受け取ったこともある。韓国とは封書だけでなく、小包のやり取りもしている。だが、それらが開封されたことは1度もない。にもかかわらず、北朝鮮からの郵便物が開封されたのだ。

 「憲法」第21条第2項において、通信の秘密は個人として生きていく上で必要不可欠な権利として保障されている。そして「郵便法」では、第8条で郵便物の検閲を禁止し、第9条第1項・第2項に秘密の保護が明記されている。

 また「郵便局」のウェブサイトには「ラベルを確認し、郵送禁止物品の疑いのあるものやラベルの記載のないもの等は、X線を通して確認したり、開封して確認します。基本的には手紙は開封することはございません」との記載がある。

 私への郵便物は「郵送禁止物品の疑い」をかけられたのか、手紙ではないと判断されたために開封されたことになる。だが私に届いた封書は、外から触っただけでも中はわずかな量の紙だということが分かるし、X線検査をすれば変わった物が入っていないことは容易に判断できたはずだ。

 にもかかわらず私への郵便物は開封されて中を調べられたが、その理由が分からない。封書の表には白い小さな紙が貼られていて、「川崎東郵便局第3国際郵便部」との記載がある。そこへ電話することにする。

 外国からの郵便物についての担当だという総務部長と話す。
 「国内6箇所の郵便局が、外国からの郵便物を扱っている。開封検査は、日本郵便社員の立ち会いのもとに税関が実施している。検査が終わったものに日本郵便が封をして配送している」

 つまり「日本郵便」は税関による開封検査に立ち会い、開封された郵便物の再包装をしているだけだというのだ。「川崎東郵便局」での検査は「横浜税関」が担当しているというので次にそこへ電話する。

 「横浜税関」総務課長の話によれば、開封は「税関法」第76条に基づいて実施したという。第76条は次のようだ。
「税関長は、輸出され、又は輸入される郵便物中にある信書以外の物について、政令で定めるところにより、税関職員に必要な検査をさせるものとする」

 そして課長は「北朝鮮からの貨物は輸入禁止になっているので、どういう内容か検査しなくてはならない。信書以外で輸入が認められるのは新聞や本くらい」と言う。私への封書は開封した結果、新聞だったので「輸入」が認められたという。


 「信書しか入っていないのが明らかなものでも開封するのか」と私が聞くと、「信書かどうかは現場の判断」と言う。私へ届いた封書には長い手紙だけが入った「信書」だった可能性もある。だが税関は、信書ではないと判断して開封した。
「開封」は「通信の秘密」の権利に触れる重大な行為であるにもかかわらず、その基準は極めてあいまいなのだ。

 税関による基準が明確でない検査は、北朝鮮へ出入国する日本人・在日朝鮮人に対する日本の空港での荷物検査でも行われてきた。日朝関係が極度に緊張した時には日本出国時に、北朝鮮へ向かう乗客の荷物を、税関職員が厳しい検査をした。しかもその場所は航空会社のチェックインカウンター横であるため、通行人が見たり撮影したりできる状態でトランクを開けて入念な検査をしたのだ。個人のプライバシーなどまったく考えていない。

 また北朝鮮から日本へ戻った人への、空港での厳しい検査が続けられてきた。アントニオ猪木が、切手・新聞・タオルなどを没収されたときはニュースになった。ホテルのアメニティグッズまで没収するのは、その愚かさを嘲笑すれば良いだけのことだ。しかし、朝鮮学校の子どもたちのみやげ物を取り上げるのは、幼い心を傷つける非人間的行為である。

 日本政府は、北朝鮮へ制裁しようとしても打つ手がない。そのため北朝鮮とのやり取りや行き来をする個人に対し、陰湿な嫌がらせや腹いせを続けているのだ。それは市民の人権と権利を大きく侵害する行為であるにもかかわらず、その自覚がまったくない。「人権後進国・日本」の姿がここにもある。

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危機は「北朝鮮の挑発」によるものなのか?

 朝鮮半島は、憂慮すべき危険な事態に陥っている。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国・米国との間で、いつ偶発的な戦闘が起きてもおかしくない。

非武装地帯と韓国軍陣地
非武装地帯とその中にある韓国軍陣地(2007年8月19日撮影)

 北朝鮮は3月3日にロケット弾、10日に短距離弾道ミサイル、15日に弾道ミサイルの大気圏再突入の模擬実験、18日に中距離弾道ミサイルの発射実験を実施。これら一連の実験は、7日から始まった米韓合同軍事演習に対抗したものだ。

 韓国軍は21日には、北朝鮮の重要施設を攻撃する訓練を実施。北朝鮮の戦闘機を撃墜した上で爆撃し、輸送機で特殊部隊を送り込むという。韓国国防省報道官は「北の挑発を抑えるための訓練」とした。

 これに対し、北朝鮮の「祖国平和統一委員会」は23日に「重大報道」を発表。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記ら指導部を狙った訓練は容認できないとし、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領を「この地から除去する」ための「正義の報復戦に向かう」とした。

 こうした事態は、毎年のように繰り返されてきた。その原因は、3月上旬から約2カ月間にわたって実施してきた最新兵器を投入した米韓合同の大規模軍事演習である。「北の挑発を抑える」との名目の軍事演習が、北朝鮮の軍事行動を招いているのだ。

 つまり、「北朝鮮の挑発」によってこの危険な状況が引き起こされたとはいえない。どの国家でも敵対国に対して、相手の挑発を理由に自らの軍事行動を正当化する。

 国家はそうであっても、国家間の過熱したやり取りを冷静に捉えて報道するのがメディアの役割だ。ところが日本のマスメディアはそれを放棄し、政府発表をそのまま流している。

 日本と直接的な関係がない国での出来事については、まだ自らの視点による冷静な報道が出来ている。ところが北朝鮮についてそうならないのは、「反北朝鮮」を前提としているからだ。

 「北朝鮮を批判しないような記事は掲載できない」と、ある編集者は私にはっきりと語った。北朝鮮に関する出来事への客観的な判断を放棄し、「大本営発表」を流し続けるならば、ジャーナリズムの墓穴を掘ることになると認識すべきだ。

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北朝鮮で取材した日本軍性奴隷被害者の番組を放送

 韓国のインターネット放送「ニュース打破(タパ)」で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の日本軍性奴隷被害者(日本軍「慰安婦」)と、今も残る「日本軍慰安所」についての番組「悲しい帰郷」(第1部・第2部)を放送している。
第1部
第2部
第1部予告編
第2部予告編

朴英深
中国・昆明の捕虜収容所で、米軍撮影の被害女性たちの写真を持つ朴英深(パク・ヨンシム)さん。右端が本人(2000年9月13日撮影)

 私は韓国・北朝鮮・フィリピン・インドネシアなどで、多くの性奴隷被害者を取材してきた。それらは多くの雑誌に掲載したもののテレビでの放送は限られていが、まとまった形で発表することができた。

 インターネット放送「ニュース打破」は、韓国のテレビ局KBSとMBCから解職された記者らによって運営されている。日本軍性奴隷被害者に関するいくつもの番組を制作している。
日本軍慰安婦を記録した日本人
故金学順ハルモニの最後の証言

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さらに被害を受ける在日朝鮮人

 私が『週刊金曜日』2016年2月19日号に執筆した記事「日本政府が朝鮮民主主義人民共和国への独自制裁を強化 さらに被害を受ける在日朝鮮人」を掲載する。

万景峰92号
朝鮮・元山(ウォンサン)港に係留されたままの「万景峰92号」

 日本政府は今月10日、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対する独自制裁措置の強化を決定した。

 そして韓国政府は同日、南北協力事業である「開城(ケソン)工業団地」の操業を全面中断すると発表。それに対して朝鮮は同団地を「軍事統制区域」とし、韓国企業124社の資産を凍結。残っていた韓国人関係者約280人を追放した。

 また米国は、制裁法案を10日に上院、12日に下院で可決している。「核・ミサイル」だけでなくサイバー攻撃や人権侵害などに関わった個人・企業の資産凍結といった厳しい内容である。これら日米韓の独自制裁は、国連安全保障理事会決議にもとづく制裁が中国・ロシアの慎重姿勢によって決まらないため、連携して踏み切ったものだ。

 米国・韓国の制裁は朝鮮そのものへダメージを与えるのが目的だが、日本のものには大きな違いがある。日本による独自制裁は、拉致問題での朝鮮への圧力として2004年6月の「特定船舶入港禁止法」成立から始まった。06年7月の朝鮮によるロケット発射でそれが実施され、次第に項目を増やした。

 「ヒト」への制限としては、朝鮮当局者の日本入国禁止、朝鮮総連幹部の日本への再入国禁止、航空機チャーター便の乗り入れ禁止、そして朝鮮への渡航の自粛要請。「モノ」については「万景峰(マンギョンボン)92号」を含む朝鮮籍船舶の入港禁止と輸出入の全面禁止。「カネ」では朝鮮への10万円を超える現金の持ち出しと300万円を超える送金の届け出義務という内容だった。

 とりわけ輸出入の禁止は、米国・韓国でも実施しなかった厳しい措置だ。日本の朝鮮からの輸入は06年11月から、輸出は09年7月からまったくなくなった。平壌(ピョンヤン)市内の商店で輸入品を探すと、日本製ばかりだったのが、今では中国やEU諸国のものが取って代わっている。

 制裁で深刻な被害を受けたのは、朝鮮との貿易や朝鮮で事業をしていた在日朝鮮人らの企業で、その多くが廃業せざるを得なくなった。また税関検査が厳しくなり、朝鮮から戻った乗客への空港での朝鮮製品の没収が相次いだ。1月に筆者へ届いた朝鮮からの郵便物は、税関によって開封されていた。

 朝鮮へ親族・祖国訪問をした在日朝鮮人は、制裁前の05年は4000人近くいたが、制裁後はその約半分にまで減少。その最大の理由は「万景峰92号」での往来ができなくなったからだ。航空便は中国かロシアを経由するため、費用は船での2倍近くの約25万円かかり、高齢者は乗り換えでの肉体的負担が大きい。朝鮮へ直接的に制裁する方法がない日本は、代わりに在日朝鮮人いじめをしてきたのである。

 14年5月29日の「日朝ストックホルム合意」で、人的往来・送金についての報告の規制と人道目的の朝鮮籍船舶の入港禁止が解除。しかしそれから現在までに、送金や人道目的での入港が1件もなかったことからわかるように、重要ではないものばかりの解除だった。

●制裁の破綻は明らか
 今回の制裁強化策では、一昨年の解除項目を復活させ、人道目的かつ10万円以下を除く送金と朝鮮へ寄港した第三国籍船舶の入港の禁止、再入国禁止対象を拡大して在日外国人の「核・ミサイル」技術者への適用などを追加。これは、昨年6月に自民党が作成した制裁案にほぼ沿った内容である。すでに、訪朝を予定していた朝鮮総聯副議長の再入国許可が取り消された。

 朝鮮はこの日本の制裁強化に対して12日、拉致被害者を含む日本人調査の中止と同委員会の解体を表明。日朝関係は、過去最悪の危険な状況に陥った。

 制裁開始からの10年間を振り返れば、制裁強化で朝鮮が屈することは考えられない。もはや圧力路線が破綻したのは明白だ。日本は米国と異なり、朝鮮との間で解決すべき多くの重要課題を抱える。政府は戦略的視点に立って「核・ミサイル」問題を切り離した独自の対話路線へ転換するとともに、米国に対して朝鮮戦争の休戦協定を平和条約にするよう働きかけるべきだ。

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北朝鮮への制裁の破綻が明確に

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、2月7日午前9時(日本時間午前9時30分)に、東倉里(トンチャンリ)にある「西海衛星発射場」から「光明星(クァンミョンソン)4号」ロケットを打ち上げた。

ロケット模型
「金日成・金正日花展示館」のロケット模型(2012年4月14日撮影)

 米国国防総省・韓国国防省や中谷元・防衛相は、飛翔体が宇宙空間の軌道に乗ったと判断。「北米航空宇宙防衛司令部」は、軌道を回る2個の物体に「41332」と「41333」の衛星カタログ番号をつけた。打ち上げは成功したようである。

 2012年12月に実施された前回の発射時と同じように、日本政府はあまりにも過剰な対応をした。「破壊措置命令」を出して、地対空ミサイル「PAC3」や海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス艦を配置。
 そして発射直後には、地方自治体へ「エムネット」や「Jアラート」で情報を伝えた。沖縄県では防災行政無線が注意を呼びかけたり、携帯電話の緊急速報メールが一斉に鳴ったりした。

 2013年1月に韓国が打ち上げた「羅老(ナロ)3号」ロケットも日本の上空を通過したが、日本政府は北朝鮮の打ち上げに対するような措置を取っていない。

 異常な空騒ぎをしたのは政府だけではない。発射直後には、テレビ各社は通常番組を中断して臨時ニュースを流し、号外を出した新聞社もある。マスメディアも、危機を煽り続ける安倍政権に完全に踊らされている。

 日本政府は、独自制裁策を近く発表するとしている。また韓国は、中国が反発している「高高度防衛ミサイル」の配備に向けて米国との協議を始めると発表した。

 1月6日の核実験と今回のロケット発射で明らかになったことがある。国連安保理や日米韓などによる独自制裁は10年間も続けられてきたにもかかわらず、北朝鮮の核開発を止めることはできなかった。それを継続しても、効果はまったくないということだ。

 もし、北朝鮮への石油や食糧を絶つような強力な制裁を実施したならば、おそらく数百万人の民間人の餓死・凍死者が出るだろう。そして、戦争や大規模な軍事衝突の危険性が一気に高まるのは確かだ。

 米国のオバマ政権は、「戦略的忍耐」という名のもとに北朝鮮に対して何もしなかった。東北アジアの平和のためには、米国が直接対話に踏み出し、北朝鮮の体制保障と引き換えの核廃棄という方法しかもはや残されていない。

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北朝鮮の「衛星管制指揮所」を突撃取材!

 先を争って建物に駆け込むと、小銃を持った二人の兵士が立っていた。金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記を描いた大きな肖像画を、なだれ込んだ外国人から警護しているのだ。その前を走り過ぎて狭い階段を上る。撮影機材が重い。

指揮所前
レーダーが設置された「衛星管制総合指揮所」の建物と世界各国からのメディア(2012年4月11日撮影)

 2階からは、1階の体育館のように広い空間を見下ろすことができるようになっている。良い場所はカメラマンですでにいっぱいなので、一瞬ためらったもののソファーの上に靴のままで立つ。

 続けてやって来たたくさんのカメラマンと記者が、前に出ようとグイグイと押してくる。またたく間に、まったく身動きできなくなる。1階へ転落しないように気をつけながら、吹き出す汗を拭く余裕もないまま写真とビデオの撮影を始めた。

管制室内
「指揮所」内部とモニターに映し出されたロケット(2012年4月11日撮影)

 最初に目に入ったのは、正面の巨大モニターに映された映像。それは、発射台に据えつけられたロケットである。発射場のある東倉里(トンチャンリ)から送られてきたライブ映像のようだ。室内にはたくさんの管制卓が整然と並び、白衣を着た人たちがその前に座っている。

 ここは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の平壌(ピョンヤン)市郊外にある「衛星管制総合指揮所」。2012年4月11日、世界各国からやって来たメディア約170人に、ロケット発射の準備作業が公開された時のようすだ。

 1月29日に日本政府は、北朝鮮に「長距離弾道ミサイル」の発射準備を進めている兆候があるとして、その迎撃を可能とする「自衛隊法」に基づく「破壊措置命令」を出した。

 これを受けて防衛省は、地対空ミサイル「PAC3」を東京・市谷の同省敷地内に搬入し、北朝鮮の方角へ向けて設置。北朝鮮の「ミサイル」が飛来する恐れがある沖縄や都市部にも部隊を配置するという。また防衛省は、海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス艦を日本周辺海域に配置した。

 そもそも、北朝鮮が発射しようとしているものを「長距離弾道ミサイル」と決めつけていることが間違いである。どの国の人工衛星打上げロケットであっても、その技術を弾道ミサイルに転用できる。

 「弾道ミサイルも人工衛星も、ロケットエンジンを使って飛ばす技術・構造は基本的に同じで、先端の搭載物が弾頭か衛星かの違い」(「毎日新聞」2012年12月12日付)

 しかし、北朝鮮が今までに実施した打ち上げはロケットばかりである。2012年12月に発射されたものによって人工衛星が軌道に乗ったことを、北朝鮮だけでなく「北米航空宇宙防衛司令部」も発表。この発射を海外メディアは「ロケット」としたが、日本メディアだけが「ミサイル」とした。

 「米国防総省当局者は28日(現地時間)、AFP通信に『北朝鮮が何らかの発射を準備しているように見える情況がある』とし『人工衛星、あるいは(人工衛星を搭載した)宇宙発射体である可能性もある。様々な推測がある』と明らかにした。この当局者は、発射の動きが『弾道ミサイルと関連している』兆しは何も見られないと付け加えた」(「the hankyoreh」1月30日付)

 このように、米国防総省や韓国メディアは冷静に判断している。今の時点では、ミサイルが打ち上げられると断定できる情報はなく、どちらかなのかはまったく分からないのだ。

 日本を戦争ができる国にしようとしている安倍政権は、北朝鮮に対する恐怖心をこの発射で煽ろうとしているのだろう。

 だが日本のどのマスメディアもそのお先棒を担ぎ、まるで北朝鮮が日本に向けて「ミサイル」を撃ち込む可能性があるかのような報道をしている。こうしたことは、今までにもあった。客観的な判断による報道を完全に放棄していることに、疑問を抱かないのだろうか。

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北朝鮮の日本軍「慰安婦」問題は放置されたまま

 12月28日にソウルで日韓外相会談が行われ、「合意」文書が発表された。岸田文雄外相は、政府予算から10億円程度を拠出して設立する新たな「財団」による被害女性への支援は「賠償ではない」と明言した。

 安倍政権と朴槿恵(パク・クネ)政権の双方が大きな譲歩をした最大の理由は、日米韓の軍事同盟強化をはかる米国の強い圧力によるものだ。

 この「合意」での日本政府の姿勢をひと言でいえば、再び金を出すので韓国は2度とこの問題を蒸し返すなということだ。そもそも被害女性たちは、韓国の政府・地方自治体などによるさまざまな支援を受けており、日本からの金を必要としているような人はいない。

 日本政府は1995年、「アジア女性基金」を発足させ民間からの募金を被害女性たちに渡す事業を実施。だが日本政府の謝罪の気持が伝わらない「基金」は、韓国やフィリピンでは受け取り拒否が続出。

 そればかりか、名乗り出てからは互いに慰めあって暮していた被害女性たちに深刻な分裂をもたらした。にもかかわらず、財団の運用は韓国政府がおこなうものの、日本政府は再び中途半端な事業をしようとしている。

 韓国政府に登録された被害女性は238人で、生存者はもはや46人しかいない。死を目前にした彼女たちは、日本政府からの明確な謝罪を受けることで心安く死を迎えたいという思いなのだ。

 そのため、「謝罪」は首相の「手紙」などではなく、国会決議といった日本の国家としての意思を示す形で行われるべきだ。韓国国内では、大きな妥協をした朴槿恵大統領への大きな批判が起こるだろう。

 私は、韓国で金学順(キム・ハクスン)さんが名乗り出た1992年から、韓国・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)・台湾・フィリピン・インドネシアなどをひんぱんに訪れ、約90人の被害女性たちを取材。

朴英深さん
北朝鮮で名乗り出た朴英深(パク・ヨンシム)さん。中国・昆明の捕虜収容所で米軍が撮影した記録写真の右端に写っている(2000年9月12日撮影)

 日韓間では、内容に大きな問題があるにせよ日本軍「慰安婦」問題が協議された。ところが、日本政府がまったく無視しているのが北朝鮮である。

 「アジア女性基金」の北朝鮮での実施について、受け入れを打診するためにある民間人が訪朝したことはあるが、日本政府は協議さえ行なわなかった。北朝鮮と同じように国交のない台湾に対しては、「アジア女性基金」や被爆者への援護措置は実施されている。

 つまり日本政府は、北朝鮮に対しては何もしようとしていないのである。これは政策というよりも、敵対する国家である北朝鮮との厄介な外交交渉を、政権・政治家と官僚が後回しにしているということだろう。その姿勢は「拉致問題」にも表れている。

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北朝鮮・テロ対策と警察国家

 2016年5月の「伊勢志摩サミット」と2020年の「東京オリンピック」開催のためとして、テロ対策の訓練がさまざまな場所で連日のように実施されている。

国旗
平壌(ピョンヤン)の街に掲げられた北朝鮮国旗(2015年6月18日撮影)

 日本は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国の軍事的「脅威」を口実に、軍備を着実に強化してきた。外交的にそれらの国との関係改善をはかるべきだが、偏狭な安倍政権の外交政策がうまくいくはずもない。

 ひたすら米国に追従する安倍政権は、日本を「イスラム国」の攻撃対象にしてしまった。その責任を取ることもなく、次にテロ対策として社会的自由を制限し警察国家にしようとしている。この暴走に対して、マスメディアによる批判はほとんどない。

 「国防」や「治安対策」の名のもとに、自衛隊や警察の予算は増え組織は強大になる。そして、それに群がる「死の商人」などの大企業が多額の利益を得る。こうした政治が行き着く先は、間違いなく“戦争”しかないだろう。

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北朝鮮で見たたくさんの木造船

 多くのマスメディアが、日本への木造船の漂着について報じている。10月と11月で11隻にもなり、その船内には25人の遺体があった。この2年間では、175隻の木造船が見つかっているという。

木造漁船
清津港に係留されているたくさんの木造の漁船(2012年8月31日撮影)

 私は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の清津(チョンジン)港を見下ろす展望台から、港にびっしりと係留された木造の漁船を見たことがある。それらの船の中には、日本へ流れ着いたものとほぼ同じ外観のものがある。

 漂着した船には、国旗の一部が残っていたり「朝鮮人民軍」と書かれた標識があったりするため、北朝鮮からのものばかりなのは確かだ。

 軍隊が漁業をしていることを、経済や食糧事情が悪いためとする報道がある。それは「朝鮮人民軍」についての理解が足りない。この軍隊は戦闘をするためだけのものではなく、農業や漁業による食糧生産や建設作業も行う組織である。

 またどのマスメディアも、船が木造であることや機械設備が古いといったことを強調している。それが一因となって、多くの海難事故が起きているのは残念なことである。

 だが外国が置かれている現状を、日本と単純に比較するのは間違いだ。どの国も政治や経済の状況はさまざまである。それを冷ややかに指摘することに、ごう慢さを感じる。またどの報道にも、亡くなった多くの漁民を悼むという視線がない。

 まだ「大国」である日本がすべきことは、隣国の漁民たちが少しでも安全な漁が出来るように支援することがではないか。

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北朝鮮で見た日本の朝鮮支配(4)

  『週刊金曜日』2015年8月7日・21日号の「朝鮮民主主義人民共和国で見た清算されていない日本の朝鮮支配」を4回に分けて掲載する。

羅津「慰安所」跡
羅津の「慰安所」と思われる日本家屋跡(2015年6月22日撮影)

●新たな「慰安所」跡か
 清津市の羅南(ラナム)区域に陸軍の「慰安所」地区が見つかったと聞いて訪ねたのは2002年。羅南は陸軍が新たに建設した都市で、「第19師団」の施設が市街地の多くを占める。

 その郊外の、小高い山と鉄道の高架に四方を囲まれた場所に「美輪の里」が造られた。民間人が運営する十数棟の「遊郭」に、日本人・朝鮮人を合わせ約120~200人弱の女性がいた。そのうち、朝鮮人は約60人とする文献もある。

 この「美輪の里」の近くで、1941年から4年間暮らした京都府在住の男性(1929年-)に、この取材へ出る直前に話を聞いた。
 「私は子どもでしたので『美輪の里』の中を自由に行き来していました。日曜日になると、道路が兵隊でいっぱいになったほどです。ここは軍人のための『慰安所』というかね。民間人が使うことはなかったですよ」
 「美輪の里」は「遊郭」だったものの、軍の「慰安所」としての役割を果たしていたようだ。

 朝鮮の最北端にある羅先(ラソン)特別市。その「人民委員会」が、羅津(ラジン)地区安和洞(アンファドン)に残る「慰安所」跡へ案内してくれた。地元では、以前から存在は知られていたという。

 車から降りると、この近くで暮らしている金明姫(キムミョンヒ)さん(1948年-)が、孫を伴って待ち構えていた。二人は先頭に立って細い坂道を登って行く。市街地を見下ろす傾斜地に、建物の基礎部分だけが残っている。金さんは、亡くなった父親から聞いたということを話し始めた。

 「この建物のすぐ下に日本軍将校の住宅地があって、そこから将校たちが階段を上がって来たそうです。朝鮮戦争での米軍の爆撃で、建物の上の部分が失われました」
 建物中央にコンクリートの通路があり、その両側に同じ広さの小部屋が並んでいるのがはっきりと分かる。直線距離で約13キロメートル離れた芳津の「慰安所」と、極めて似た構造である。この近くには他にも「慰安所」があったという。この日本家屋跡が「慰安所」だった可能性はある。だが目撃者はもういないため、これ以上のことは分からなかった。金さんは次のように語る。

 「父親は、日本の罪悪を忘れないためにこの『慰安所』跡を後世に残すべきだと言い続けていました。私も、子や孫にここの話をしています」

 芳津と羅南に残る「慰安所」の建物の風化は進み、撤去されてしまったものもある。この事について「咸鏡北道人民委員会対外事業局」の二人から話があった。韓成虎(カンソンホ)課長は率直に語る。
 「朝鮮は日本に対し過去の清算を要求していますが、日本による加害の歴史の証拠である『慰安所』の保存に関心を持たずにいました」

 日本は敗戦後生まれが80パーセントを越えたが、朝鮮でも植民地支配を知らない世代が増えている。尹国燮(ユングクソプ)副局長は48歳。
 「今まで、性奴隷被害者のことにそれほど関心はありませんでした。今回、伊藤先生の取材を受け入れるため、芳津と羅南の『慰安所』へ初めて行き、その実態を知りました。日本との間で、こうした不幸な歴史が再び繰り返されないように願っています」

●過去の清算と国交正常化
 平壌へ戻ると「平壌6月9日竜北(リョンブ)高級中学校」へ行った。学んでいるのは14~16歳。歴史の授業をしている教室へ入ると「日帝の朝鮮占領と反日義兵闘争・愛国文化運動」とホワイトボードに書かれている。授業後、学生たちに話を聞いた。

歴史の授業
「平壌6月9日竜北高級中学校」での授業(2015年6月29日撮影)

 「日本は、朝鮮人の名前と文字を奪ったあくどい侵略者であることが分かった」と女子学生。「大変残念なことだが、日本は目的を達成するにはいかなる行為もいとわない勢力」と男子学生が語る。韓慇姫(ハンウンヒ)先生にもインタビューをする。

 「日帝の朝鮮侵略を教えるカリキュラムは、3年間で33時間です。新しい世代は、植民地支配について肌で感じることがまったくないため、すぐには理解できないこともあります。そのため、当時の品物や写真が展示されている『朝鮮革命博物館』などへも連れて行きます」

 長い時が過ぎ体験者が亡くなるにつれ、歴史的事実は風化する。加害の側はその歴史を美化し、戦争への道を再び歩むこともある。一方の被害を受けた側は体験の継承を繰り返すうちに、簡略化だけでなく誇張してしまう危険性を持つ。両者の関係改善が遅くなるほど和解はより困難になるのだ。

 昨年5月の「日朝ストックホルム合意」で、日本政府は次のように表明。
 「北朝鮮側と共に、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて明らかにし、日朝間の信頼を醸成し関係改善を目指すため、誠実に臨むこととした」

 植民地支配の40年間、その終焉から70年間。合わせて110年もの間、隣国との関係が不正常のままだ。日朝間の最大の課題は、植民地支配の清算である。この実現による日朝国交正常化は、東アジアに大きな安定と平和もたらすだろう。日本政府は戦略的視点から「ストックホルム合意」を大胆に前へ進めるべきだ。この機会を逃せば、再び長期にわたって日朝間のいかなる課題の解決もできないだろう。

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北朝鮮で見た日本の朝鮮支配(3)

 『週刊金曜日』2015年8月7日・21日号の「朝鮮民主主義人民共和国で見た清算されていない日本の朝鮮支配」を4回に分けて掲載する。

羅南「慰安所」
羅南地区に残る元「慰安所」の日本家屋と地元の人たち(2015年6月日撮影)

 朝鮮民主主義人民共和国でかつて見つかった日本軍「慰安所」は、今はどうなっているのか。学校では、日本による植民地支配をどのように教えているのか。15日間にわたり、平壌と地方都市で取材した。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の首都・平壌(ピョンヤン)の街には、「祖国解放70周年」の看板がいたるところに掲げられている。

 「朝鮮中央テレビ」では、「防弾壁」という抗日武装闘争についての全14話の連続ドラマを、午後8時半からのゴールデンタイムに放送。異例にも予告編を流し、日本人役の俳優に日本語を話させて朝鮮語の字幕を入れる、というほど制作に力が入っている。

●今も残る「慰安所」の建物
 日本はアジア太平洋戦争を遂行するため、植民地支配をしていた朝鮮から膨大な数の青年を本人の意思に反して連行。中でも、多くの朝鮮人女性を日本軍専用の性奴隷にしたことは、朝鮮での植民地政策の暴力性・非人間性を具現したものである。

 日本軍は「慰安所」を、軍事占領した国だけではなく朝鮮にも設けた。朝鮮半島で「慰安所」の建物が初めて確認されたのは、咸鏡北道(ハンギョンブクド)清津(チョンジン)市青岩(チョンアム)区域芳津洞(パンジンドン)。

 日本支配期の芳津は約150世帯の寒村で、近くに大きな街はなかった。約1キロメートル離れた海軍基地「羅津方面特別根拠地隊」のための施設としか考えられえない。民間人が運営するものの、海軍が管理する軍人・軍属専用の「慰安所」なのは明白である(詳細は『週刊金曜日』1999年9月10日号「発見された日本海軍『慰安所』」)。

芳津「慰安所」
「銀月楼」と呼ばれた元「慰安所」の建物(2015年6月日撮影)

 私がここを、外国人して初めて取材をしたのは16年前。それ以来の訪問である。「銀月楼」と呼ばれた元「慰安所」の前で車を降りる。解放後は「芳津診療所」として使われており、建設時と外観はほとんど変っていないという。

 この元「慰安所」の向かいに、軍医が女性たちの性病検査をした建物の跡があったが見当たらない。少し離れた場所に残っていたもう1棟の「慰安所」である「豊海楼」跡も、畑になっている。歴史的に貴重な証拠が失われたのは、実に残念である。

 日本支配期から芳津で暮らし、この「慰安所」について詳細に説明をしてくれた人たちはすでに亡くなっていた。何人かの住民に話を聞いたが、当時の具体的な状況を知る人はもはやいない。(続く)

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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