北朝鮮で見た日本の朝鮮支配(2)

 『週刊金曜日』2015年8月7日・21日号の「朝鮮民主主義人民共和国で見た清算されていない日本の朝鮮支配」を4回に分けて掲載する。

被爆者
朴文淑さん(左)と李桂先さん(2015年6月18日撮影)

●被爆者が要求する政府の謝罪と補償
 長崎で被爆した朴文淑(パクムンスク)さん(1943年-)と最初に会ったのは1998年で、今回は11回目。「毎月1~2回の心臓発作を起こし、病院へ運ばれている」と言う。

 朴さんは「朝鮮被爆者協会」の副会長を務めている。1992年に「原水禁大会」参加のために日本へ行った際、「被爆者健康手帳(手帳)」の交付を受けた。日本政府は「被爆者援護法」にもとづき、広島・長崎での被爆者に対し国籍を問わず健康管理手当支給などの援護措置を実施する義務がある。国交のない台湾を含めた海外の被爆者にも行っている。

 広島で被爆した李桂先(リ・ゲソン)さん(1941年-)と会うのは9回目。胃腸や胆嚢・すい臓が悪く、私と会うために点滴を受けてきたという。
 李さんの母親が「手帳」を取得した際の文書に、娘も一緒に被爆した旨の記載がある。そのため李さんは、申請をすれば「手帳」取得が可能と思われる。私が監督した映画「ヒロシマ・ピョンヤン」(2009年公開)の中で、李さんは「手帳は被爆の証」として取得を強く望んでいた。ところが今回、「私たちが死ぬのを待っているような日本政府には、もう何も期待をしていない」と言うのだ。それに畳み掛けるように朴さんが語った。

 「長らく多くの日本人に働きかけたものの、日本政府は何もしませんでした。今では、こちらから何か要求する気はありません」
 朝鮮には、「手帳」取得ができる可能性が高い被爆者は、李さんを含め少なくても8人いるという。そのため、取得によって在朝被爆者も援護を受けられるようにしようという民間での運動がある。また日本政府や広島県医師会が、医療支援に向けて動いた時期もあった。しかしそれらは、何ひとつ実現していないのである。そうした日本に大きな期待を持っていた朝鮮の被爆者たちは、結果として翻弄されることになった。

李福順さん
平壌市内の自宅で家族と一緒の李福順さん(左から2人目、1998年6月1日撮影)

 「広島で被爆した李福順(リ・ボクスン)さんに会いに行くと、毛細血管が破裂して顔が腫れていました。日本から謝罪と補償を受け、被爆2世のことも解決して欲しいと言われました。それを聞いた三日後に亡くなったんです」

 この話は朴さんから何度も聞かされている。よほど無念なのだろう。李さんと朴さんの今回の発言は、在朝被爆者は謝罪と補償だけを求めるとの原則的な立場へ戻った、という表明なのだろう。

 「朝鮮被爆者協会」などが2007年に実施した調査では、1911人の被爆者を確認したもののすでに1529人が死亡していた。今では、健在な人は極めて少なくなっているだろう。

美林乗馬クラブ
平壌郊外の「美林(ミリム)乗馬クラブ」で、結婚写真のためにポーズを取るカップル(2015年6月28日撮影)

●負の歴史と向き合う
 日本軍によって性奴隷にされた女性で、朝鮮において名乗り出たのは219人。そのうち名前と顔を明らかにしたのは46人で、私は14人を取材している(拙著『無窮花の哀しみ』に被害女性らの詳細な体験を収録)。だが13人がすでに死亡しており、生存している女性も会える状態ではないという。

 日本政府は、性奴隷にしたアジア諸国の女性たちに「女性のためのアジア平和国民基金」の事業を実施。民間から集めた金を支給し、国家による補償ではないこの措置は、韓国などの被害女性たちに大きな混乱をたらした。私も強く反対した事業だが、朝鮮で実施しないまま2007年に終了。日本政府はこの問題においても、朝鮮だけを除外したのである。

 今回の取材で、私が以前に会った被害者や目撃者の多くは亡くなっていることが分かった。だがそうした人が一人もいなくなったとしても、日本は負の歴史と正面から向き合って清算をしなければならない。そのことは被害者のためだけではなく、日本の未来にとって必要なことだからである。(続く)

e_04.gif
関連記事
広告
広告
広告
プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: