歴史的・大局的視点で設立された朝鮮の「日本研究所」

 昨年12月、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に「日本研究所」という機関があることが相次いで報じられた。3日付の朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」はその存在を明らかにしただけだったが、21日付の朝鮮政府機関紙「民主朝鮮」は「日本研究所」研究員による論評を掲載した。日本政府が、朝鮮の弾道ミサイル発射に対して住民参加の避難訓練を検討していることを非難する内容だった。

曺喜勝
インタビューに答える曺喜勝氏(2017年4月13日撮影)

 2014年5月の「日朝ストックホルム合意」に基づき、朝鮮に「特別調査委員会」が設置され、「日本人調査」が進められた。ところが、2016年1月に朝鮮が行なった核実験を理由に日本は追加制裁を実施。そのため朝鮮は「特別調査委員会」を解体した。それ以降、日朝政府間での動きは止まったままだ。

 そうした時に突如として、「日本研究所」の存在が明らかにされた。この最悪の日朝関係の中で日本の何を研究しようというのか。日本への何らかのサインなのか・・・。さまざまな憶測が飛び交った。

朝日関係研究の必要性

 そうしたこともあり、今年4月の朝鮮取材では「日本研究所」について説明してくれる人へのインタビューもリクエストしていた。それについて、歴史学者の曺喜勝(チョ・ヒスン)さんから13日に話を聞くことになった。

 私の朝鮮での取材は歴史的出来事に関するものが多いため、歴史学者からたびたび話を聞いてきた。曺さんとは、2007年に知り合ってから何度も会っている。曺さんは、日本敗戦の混乱の中で死亡した日本人の埋葬地調査を中心になって行い、2012年から訪問が始まった埋葬地への墓参団を案内して回った。

 今回、改めてもらった名刺の肩書はさらに増え、「歴史学会常任委員長」「社会科学院歴史研究所元所長」など八つもある。その中に新しく「日本研究所上級研究員」というものがあった。

 最近の朝鮮でのインタビューは、その人が日本語が上手であっても通訳を通して答えることが多くなった。ところが曺さんは、最初から流ちょうな日本語で答えてくれた。

――「日本研究所」は学者だけの研究機関なのか。
曺  そうではなく、外務省の外交官・学者・言論関係のジャーナリストなどでつくられた。所長は、外務省の車成日(チャ・ソンイル)日本担当副局長がやっている。設立したのは昨年12月。

――設立した理由は。
曺  日本には朝鮮の、中国には日本というように研究機関がある。朝鮮には今まで、日本について研究する機関がなかった。朝鮮と日本は、歴史的にみても切っても切れない絆がある。だから政治・経済・社会や歴史・文化など、さまざまな面で日本をよく研究しようという趣旨でつくられた。

――研究対象は、日本の植民地時代のことが中心になるのか。
曺  植民地時代だけでなく、古代から中世・近代・現代における朝日関係はどうだったかという研究がやはり必要。また歴史的なことだけでなく、現在の日本の政治・文化や今後の朝日関係についても研究する必要があるとの考えだ。

――近代になると、日本に批判的な内容ばかりになるのでは。
曺  言いづらいけれど、そうならざるを得ない。なぜかといえば、日本による加害行為を仕方がなかったとか、朝鮮を植民地にして良かったという話しが出る。また、植民地支配への謝罪もしないし賠償もしない。それでは批判をせざるを得ない。
 ただ朝鮮と日本との2000年、 3000年の間に、悪いことばかりあったのではない。とくに文化交流の面では「朝鮮通信史」などとても良い場面がたくさんあった。そうしたことについても研究する。

――植民地時代に関する研究内容は。
曺  日本帝国主義による蛮行について。朝鮮人の強制労働・強制連行とか「慰安婦」、細菌戦などに力を入れている。

――日本人埋葬地や残留日本人といったことも扱うのか。
曺  ええ、そうだ。

日本語講座
閑散とした「人民大学習堂」の日本語講座(2016年8月23日撮影)

 また曺さんは、日本語を習うことに関心を持たない若者が増えたと言った。「平壌外国語大学」の日本語「学部」は、希望者が減ったために「学科」になってしまっている。
 昨年8月に私は、朝鮮で最も大きい図書館である「人民大学習堂」へ、社会人を対象とした外国語講座のようすを見に行った。大きな教室に溢れんばかりの聴講生がいたのが中国語で、熱気に満ちていた。その次が英語。そして日本語は、小さな教室にわずか十数人しかいなかった。

 これは言語だけのことではない。私はこの数年の取材の中で、朝鮮の社会が日本に対する関心を急速に失っていると感じていた。曺さんが次のように語った。
 「新しい世代には、日本について何も知らない人がたくさんいる。朝鮮と日本は『近くて遠い国』といわれているけど、今は『遠くて遠い国』になった」

目先の問題しか見えない日本

 朝鮮はどのような日朝関係であっても、日本を歴史的・大局的視点から客観的に捉えようと努力しているようだ。ところが日本は「拉致・核・ミサイル」という現在の問題、つまり自らの利益に関わる目先のことでしか朝鮮との関係を考えることが出来ない。

 日本による朝鮮植民地支配、南北分断・朝鮮戦争といった歴史の上に、核・ミサイル開発をせざるを得なくなった朝鮮がある。そうした歴史を認識・理解しようとせずに、現在の核・ミサイル問題を理由に対話を頑なに拒んでいたのでは、危機的状況の日朝関係はどれほどの歳月が過ぎようとも変わらないだろう。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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