北朝鮮が「反米」を掲げる理由とは

「週刊金曜日」2017年5月19日号に掲載した記事を紹介する。

朝鮮が米国に求め続けてきたのは平和条約の締結

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が5月14日早朝、新型弾道ミサイルを発射した。朝鮮はなぜ、「反米」を掲げ、核・ミサイル開発を続けるのか。緊張が高まり始めた4月、14日間に及ぶ現地取材を敢行したジャーナリストがその理由に迫った。

軍事パレードの兵士
軍事パレードでの一糸乱れぬ行進(2017年4月15日撮影)

 地面が振動で小刻みに揺れている。さまざまな軍服の兵士集団が、高く振り上げた足で地面を叩きながら行進しているからだ。2017年4月15日、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の首都・平壌(ピョンヤン)。金日成(キム・イルソン)主席生誕105年の祝賀行事での最大の見せ場として、軍事パレード(閲兵式)が行われた。

 パレード後半では、米国本土まで到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる新型ミサイルなど最新兵器が公開された。朝鮮外務省が、祝賀行事の取材のために入国を認めた海外メディアは123人。そのうちの最多は23人の米国である。今回のパレードは、米国・トランプ政権への強力な威嚇として行われた。

 だが平壌だけでなく地方都市でも、軍事的緊張や制裁の影響はまったく感じられない。それどころか、車で通り過ぎたほとんどの地方都市では、図書館など公共施設の建設工事が盛んに行われている。また、地方の幹線道路をたくさんの大型トレーラーが行き来しているのも見た。舗装状態が悪い道路は多いが、物流は活発に行われているようだ。

反米教育のための博物館

 昨年11月8日の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選。私は新大統領への朝鮮の評価を取材するため、昨年12月初旬と年明けに取材申請をしたものの認められなかった。今回、4月8日~21日までの許可が出たのは、トランプ政権への評価が定まったからだ。

信川博物館
「信川の血の教訓を忘れるな!」とのスローガンを掲げた信川博物館(2017年4月14日撮影)

 朝鮮には、米国をどのように捉えているのかが明確に分かる場所がある。米国との歴史について展示しているいくつかの博物館だ。

 そのうちの一つの「信川(シンチョン)博物館」は黄海南道(ファンヘナムド)信川郡にあり、平壌市から車で約90分。雨の中を女性の解説員が出迎えてくれた。
 「この博物館は反帝・反米教育の重要拠点の一つです。金日成主席は(朝鮮)戦争休戦の17日後にこの信川を軍服姿で訪れました。そして米国の蛮行を暴露する博物館を建てるようにと指導され、1960年6月に開館しました」。

 朝鮮戦争は1950年 6 月25日に始まり、53 年7月27日に休戦。米軍が一時的に占領した38度線以北の数多くの場所で、住民が集団虐殺されたという。そのうち、もっとも死者が多いのは信川である。米軍占領下の50年10月17日から12月7日までの間に、3万5383人が殺されたという。パブロ・ピカソが51年に発表した「朝鮮の虐殺」という絵は、この事件を描いたものだ。

 「信川博物館」の年間参観者は国内からは30~40万人で、海外からは約2万人。朝鮮戦争をともに戦った中国やロシア(当時はソ連)だけでなく、米国・英国・オーストラリアなどの「敵国」だった国からも訪れるという。

 「金正恩(キム・ジョンウン)委員長は2014年11月、新しい時代の反帝・反米教育をするため立派に建て直すようにと現地指導されました。翌年2月に着工してから4カ月間足らずで完成したんです」
 このことに、金委員長の米国との対決姿勢が明確に表われている。「信川博物館」と同じように米国に関する展示をしている「朝鮮革命博物館」(1948年開館)と「祖国解放戦争勝利記念館」(53年開館)も建物の老朽化がひどかった。だが金正恩時代になると、全面的な改装・改築を実施。米国との敵対関係の解消にはまだ長い時間がかかるとの判断と、大国に翻弄されてきた歴史を若い世代へ伝承することが理由だろう。

 以前の「信川博物館」には、何カ所もある虐殺現場での発掘時の写真や人々の遺品が数多く展示されていた。新博物館はそれに加え、非常にリアルな人形を使った精巧なジオラマを多用して凄惨な事件現場を再現している。

 展示は、信川での住民虐殺は「米軍による戦争犯罪」との主張が貫かれている。だが韓国には、社会主義政権と対立していた住民らによるものとの説がある。また77年に平壌で出版された『アメリカ帝国主義は朝鮮戦争の挑発者』には、信川を占領した米軍司令官が「反動的地主、悪質宗教者、高利貸業者、やくざ者など人間の屑をかき集めて、虐殺蛮行にかり立てた」と記している。私は解説員に、米軍と民間人のどちらによる虐殺が多かったのかと聞くと「キリスト教徒による虐殺の事実もあるが、基本的に米軍が張本人」との答えだった。米国との敵対関係が長期に及ぶ中で、「米軍による虐殺」と単純化されてきたようだ。

 どの博物館も「朝鮮人民の不倶戴天の敵」として米国を徹底的に批判し「反米」を煽っている。それは米国と友好的な関係になる日まで、この国を守るために必要なのだろう。

米国との対決の歴史

 朝鮮が米国と決定的な敵対関係になったのは、朝鮮戦争で激しく戦ったからである。朝鮮側の死者は、軍民合わせた約250万人と中国軍の約100万人。韓国側は軍民約150万人と米軍の約5万人と推定される。また物的被害は、米軍による徹底した無差別の空爆・砲撃により38度線以北は完全に焦土と化した。そして米軍は細菌兵器も使用。日本陸軍「731部隊」が行なった細菌戦研究を利用し、コレラ菌・ペスト菌などで汚染させた昆虫を詰めた爆弾を各地に投下したと非難している。

 米国はその後も、朝鮮への軍事攻撃を何度も実行しようとした。68年1月、米国海軍の情報収集艦「プエブロ号」が朝鮮人民軍によって拿捕。米国は報復として70キロトンの原爆を投下することを検討した。93年、朝鮮は「国際原子力機関」による特別査察を拒否。そして「核拡散防止条約」と「国際原子力機関」からの脱退を表明した。これに対して米国・クリントン政権は、寧辺(ニョンビョン)の核施設への空爆を準備。だが朝鮮による反撃で、米韓軍と民間人150万人以上が死亡すると推計されたために攻撃は断念された。

 朝鮮にすれば、少しでも油断したら圧倒的な軍事力を持つ米韓によって核兵器を含む攻撃を受け占領されるという状況が続いてきた。そのためそれを防ぐ「最強の抑止力」として、核兵器とその運搬手段の開発を進めているという。昨年6月にインタビューした朝鮮外務省の趙炳哲(チョ・ビョンチョル)研究員は「わが国が核兵器開発をしなければならないよう押しやったのは米国である」と述べた。

 朝鮮が米国に求め続けてきたのは、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和条約」にすること。それによって、米国からの日常的な軍事的脅威をなくしたいのだ。このごく当然な要求を、朝鮮戦争休戦から64年間も米国は拒み続けてきた。米国は朝鮮戦争で、多大な人的被害を出しながらも朝鮮に勝てなかった。そして「プエブロ号」事件では、謝罪文に調印するという敗北を味わった。この「屈辱の歴史」が、朝鮮戦争の終結に米国が取り組まなかったことの背景にある。

 現在の米朝の軍事的緊張は、第2の朝鮮戦争を引き起こしかねない。明確な朝鮮政策のないトランプ政権は、最大の軍事的威嚇を実施。対する朝鮮は、戦争を覚悟して米国との交渉実現のための賭けに打って出た。5月14日には、新型の中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12型」を発射した。韓国では朝鮮との対話路線を打ち出す文在寅(ムン・ジェイン)大統領が誕生し、5月8日~9日に米朝が非公式協議。そのことで生まれた緊張緩和の期待に冷水を浴びせた。朝鮮は、核・ミサイル開発が完成した状態での米国との交渉でなければ目的を達成できないと考えているのだろう。

日本の対米追随を批判

 4月20日に単独インタビューした宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は、米国に関係しても積極的な発言をした。
 「15日の閲兵式で登場した戦車などには『朝鮮人民の敵である米帝を徹底的に消滅しよう』と書かれていました。他国は米国の脅しに屈することがあっても、わが国は米国ととことんやるという立場です。その状況は成熟しています」

 このような米国への強気の発言に続けて日本について言及した。
「問題は日本が米国に追随していること。米国よりも先に、日本を攻撃してもおかしくないのが今の状況です。我が国が忍耐強く我慢しているのは、朝日人民の友好を大切にしているからです」

 安倍政権はこの状況においても「北朝鮮の脅威」を煽り、トランプ政権による朝鮮への軍事的冒険に積極的な支持と自衛隊による軍事協力をしている。その極めて軽率で危険な行為に対し、マスメディアは積極的な批判をせず、広汎な市民運動も起きていない。日本がするべきことは、トランプ政権の朝鮮への強硬姿勢を制止し、朝鮮との対話へ踏み出すように働きかけることだ。そして日朝間の諸問題を解決するために、朝鮮との独自の外交交渉を始めるべきだろう。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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