メディアは北朝鮮の現地取材をすべき!

 2月13日に死亡した金正男(キム・ジョンナム)氏について、錯綜した報道が続いている。テレビ各局には、近年は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を訪れたことがない「北朝鮮評論家」のほぼすべてが登場。

 彼らの金正男氏死亡に関する話は推測ばかりである。そもそも情報が少ないので無理はない。スタジオに呼ばれてコメントを求められたら、確信がなくても、無理やりでも何らかの発言をせざるを得ないということがある。問題は、その発言が「事実」として広がることだ。

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主体(チュチェ)思想塔とマスゲームの練習が行われている金日成(キム・イルソン)広場(2016年8月23日撮影)

 新聞とテレビの多くは、金正男氏の死亡を「北朝鮮による毒殺」と事実上の断定をしている。だが、マレーシア当局の発表がない現在(2月18日午前11時)、それは推測でしかない。結果がどうであれ、確たる証拠がない現状では「容疑」とすべきだ。その危うさを、マスメディアは百も承知で報道している。「北朝鮮バッシング」は人々に関心が持たれ、雑誌の発行部数やテレビの視聴率が上がるからだ。

 2月17日、「東京新聞」編集委員の五味洋治氏が、「外国人特派員協会」で会見を開いた。五味氏は2012年5月に「父・金正日と私 金正男独占告白」という金正男氏への取材を本にしている。出版に先立つ1月28日には「東京新聞」へインタビュー内容を掲載。本には、記事掲載後に金正男氏から届いたメール内容が紹介されている。

 「東京新聞に掲載された記事内容が北朝鮮を刺激したようです。一種の警告を受けました。追加の記事掲載は当分保留して下さい」(「父・金正日と私」143頁)

 記事と本が出たことで、金正男氏と北朝鮮との関係は決定的に悪くなったと私は思う。五味氏はそれについて、会見で次のように述べた。

 「金正男氏には、私がこれまで積み重ねてきた取材、Eメールについて、本にしてもいいかということについては許可を受けています。ただし、『タイミングが、今は悪い、ちょっと待ってほしい』と言われたのは事実です。私はタイミング的には非常に微妙な時期ではありましたが、彼の思想や北朝鮮に関する考え方、人間性を伝えることこそ、北朝鮮に関する関心を高め、理解が進み日本だけでなく他の国との関係が改善されるという信念のもとに、本を出版いたしました」(アンダーラインは筆者)

 これは完全に言い訳でしかない。スクープ取材を発表したいという五味氏の記者としての気持ちは痛いほど分かる。だが、「本の出版を一番反対したのは、私の妻です」と述べているように、出版は金正男氏にとって非常に大きなリスクになることを十分に認識していたが、それでも出版に踏み切った。このことについて五味氏は会見で次のように語っている。

 「『北朝鮮は経済の改革開放、中国式の改革開放しか生きる道はない』とも言っていました。この発言を報道したり、本にしたことで彼が暗殺されたとみなさまがお考えなら、むしろこういう発言で1人の人間を抹殺するという、そちらの方法に焦点が当てられるべきでしょう」(アンダーラインは筆者)

 これは「北朝鮮による犯行」を持ち出すことで、自らの判断を不問にしようとするものだ。ただ、共感できる発言もあった。

 「この3日間、英語圏・中国圏・韓国語圏、数百件の電話をいただきました。私はみなさまがたにお勧めします。私に対してすべての答えを得ようとせず、ご自分で直接ソースにあたって、取材をしてみてください。それが北朝鮮を変える力になります」

 「北朝鮮を変える力」ではなく「北朝鮮の実態に迫る」ということだと思うが、日本や海外のメディアは自ら北朝鮮取材をすべきである。現状は、北朝鮮へ取材に行きもせず、怪しげな情報に飛びついて不正確や間違った報道をしている。

 私は山ほど出した取材申請のほとんどを断られながらも、何とか35回の現地取材を実現させた。北朝鮮取材には大きな制約があるが、それでも現地でさまざまな取材を実現させるための努力をするべきだ。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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