北朝鮮の文化財が日本にある!

 1月26日に、韓国の大田(テジョン)地方裁判所が下した判決に注目が集まっている。2012年に長崎県対馬市の観音寺から韓国人の窃盗グループによって「観世音菩薩坐像」が盗まれた。

 現在は韓国政府が保管するその仏像について、所有権を主張する韓国中部の浮石(プソク)寺への引き渡しを命じたのだ。韓国政府は、判決を不服として控訴した。

 判決は仏像内部から見つかった文書により、この仏像が1330年に浮石寺で作られたとしている。そして、「浮石寺がある地域では、1352年から1381年の間に倭寇(日本の海賊)が5回にわたって侵入したという記録が『高麗史』に残っている」とし、仏像は観音寺創建の1526年よりも前に「贈与や売買など正常ではない方法で対馬へ運ばれたとみられる」とする。

 私は、日本にある朝鮮半島からの文化財について長らく取材してきた。その立場からいくつか指摘する。まず、この仏像が日本へ渡った経緯については、さまざまな主張がある。

 浮石寺は「倭寇によって略奪されたもの」とし、判決もそれを認めている。韓国のニュース専門テレビ局「YTN」は、豊臣秀吉による朝鮮侵攻である文禄・慶長の役(文禄の役1597-1593年、慶長の役1597-1598年)の際に流出したとする。これはどちらも、日本による略奪ということでは共通している。

 一方の日本である。観音寺の田中節孝・元住職は、李氏朝鮮時代(1392-1910年)の仏教弾圧から逃れるために対馬へ持ち込まれたものとしている。このように日本へ渡った理由は「略奪」「保護」と大きく異なり、時期もさまざまなのである。

 つまり今となっては、日本へ渡ってきた経緯の解明は不可能に近いのである。決定的証拠がない中で、裁判所の倭寇によるものとの断定にはかなりの無理がある。

 この判決を伝える日本のマスメディアの報道には、いくつかの問題点がある。浮石寺の住職が判決後の記者会見で、日本にある朝鮮半島からの文化財について触れたことについて、韓国への文化財返還は「日韓条約」で終わっていると報じたテレビ局があったが、それは正しくない。そしてどのマスメディアも、今回の仏像返還問題の背景について触れようとしていない。

 1965年6月22日、「日韓条約」の関連諸条約として「日韓文化財及び文化協力に関する協定」が結ばれた。返還対象となったのは国有文化財のみで、民間所有のものは除外。また、国宝や重要文化財も全く含まれなかった。韓国政府が返還要求していたのは4479点だったが、引き渡されたのは359件1321点のみ。今も日本各地の「国立博物館」には、朝鮮半島南側からのたくさんの文化財が返還されることもなく展示されている。

 この「協定」締結時に日本政府は、「日本国民が保有する韓国に由来する文化財を、自発的に韓国へ寄贈することを国民に奨励する」と約束した。だがそれはまったく実施されずに現在に至っている。民間所有の文化財返還については、終わっていないのだ。

平壌 石塔
「大倉集古館」にある「平壌栗里寺址石塔」(2006年8月13日撮影)

 韓国の仏教界などの民間からは、いくつもの文化財返還の要求が出されている。「大倉集古館」の庭園には、植民地時代に朝鮮から運んだたくさんの石造物が並ぶ。その中の「利川(イチョン)五重石塔」については、利川市民たちが2006年から「ホテル・オークラ」と返還交渉を行ってきたが、合意に至っていない。

 この石碑と並んで「平壌(ピョンヤン)栗里寺址石塔」が建っている。これは現在の北朝鮮 (朝鮮民主主義人民共和国)である朝鮮半島北側から運ばれたものだ。「京大学考古学研究室」には、平壌近郊の楽浪(ラクラン)古墳群などから発掘した膨大な量の副葬品が保管されている。「国立博物館」が、朝鮮半島北側からの文化財585点を所蔵していることが私の取材で判明している。

 文化財は、民族や国家にとって文化と歴史の重要な記録である。日本国内には朝鮮半島北側からの文化財もたくさん存在する。だが、日朝国交正常化交渉が止まっているため、文化財の返還交渉もまったく進んでいない。だがいつかは交渉を行い、北朝鮮へ返還しなければならないのだ。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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