さらに被害を受ける在日朝鮮人

 私が『週刊金曜日』2016年2月19日号に執筆した記事「日本政府が朝鮮民主主義人民共和国への独自制裁を強化 さらに被害を受ける在日朝鮮人」を掲載する。

万景峰92号
朝鮮・元山(ウォンサン)港に係留されたままの「万景峰92号」

 日本政府は今月10日、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対する独自制裁措置の強化を決定した。

 そして韓国政府は同日、南北協力事業である「開城(ケソン)工業団地」の操業を全面中断すると発表。それに対して朝鮮は同団地を「軍事統制区域」とし、韓国企業124社の資産を凍結。残っていた韓国人関係者約280人を追放した。

 また米国は、制裁法案を10日に上院、12日に下院で可決している。「核・ミサイル」だけでなくサイバー攻撃や人権侵害などに関わった個人・企業の資産凍結といった厳しい内容である。これら日米韓の独自制裁は、国連安全保障理事会決議にもとづく制裁が中国・ロシアの慎重姿勢によって決まらないため、連携して踏み切ったものだ。

 米国・韓国の制裁は朝鮮そのものへダメージを与えるのが目的だが、日本のものには大きな違いがある。日本による独自制裁は、拉致問題での朝鮮への圧力として2004年6月の「特定船舶入港禁止法」成立から始まった。06年7月の朝鮮によるロケット発射でそれが実施され、次第に項目を増やした。

 「ヒト」への制限としては、朝鮮当局者の日本入国禁止、朝鮮総連幹部の日本への再入国禁止、航空機チャーター便の乗り入れ禁止、そして朝鮮への渡航の自粛要請。「モノ」については「万景峰(マンギョンボン)92号」を含む朝鮮籍船舶の入港禁止と輸出入の全面禁止。「カネ」では朝鮮への10万円を超える現金の持ち出しと300万円を超える送金の届け出義務という内容だった。

 とりわけ輸出入の禁止は、米国・韓国でも実施しなかった厳しい措置だ。日本の朝鮮からの輸入は06年11月から、輸出は09年7月からまったくなくなった。平壌(ピョンヤン)市内の商店で輸入品を探すと、日本製ばかりだったのが、今では中国やEU諸国のものが取って代わっている。

 制裁で深刻な被害を受けたのは、朝鮮との貿易や朝鮮で事業をしていた在日朝鮮人らの企業で、その多くが廃業せざるを得なくなった。また税関検査が厳しくなり、朝鮮から戻った乗客への空港での朝鮮製品の没収が相次いだ。1月に筆者へ届いた朝鮮からの郵便物は、税関によって開封されていた。

 朝鮮へ親族・祖国訪問をした在日朝鮮人は、制裁前の05年は4000人近くいたが、制裁後はその約半分にまで減少。その最大の理由は「万景峰92号」での往来ができなくなったからだ。航空便は中国かロシアを経由するため、費用は船での2倍近くの約25万円かかり、高齢者は乗り換えでの肉体的負担が大きい。朝鮮へ直接的に制裁する方法がない日本は、代わりに在日朝鮮人いじめをしてきたのである。

 14年5月29日の「日朝ストックホルム合意」で、人的往来・送金についての報告の規制と人道目的の朝鮮籍船舶の入港禁止が解除。しかしそれから現在までに、送金や人道目的での入港が1件もなかったことからわかるように、重要ではないものばかりの解除だった。

●制裁の破綻は明らか
 今回の制裁強化策では、一昨年の解除項目を復活させ、人道目的かつ10万円以下を除く送金と朝鮮へ寄港した第三国籍船舶の入港の禁止、再入国禁止対象を拡大して在日外国人の「核・ミサイル」技術者への適用などを追加。これは、昨年6月に自民党が作成した制裁案にほぼ沿った内容である。すでに、訪朝を予定していた朝鮮総聯副議長の再入国許可が取り消された。

 朝鮮はこの日本の制裁強化に対して12日、拉致被害者を含む日本人調査の中止と同委員会の解体を表明。日朝関係は、過去最悪の危険な状況に陥った。

 制裁開始からの10年間を振り返れば、制裁強化で朝鮮が屈することは考えられない。もはや圧力路線が破綻したのは明白だ。日本は米国と異なり、朝鮮との間で解決すべき多くの重要課題を抱える。政府は戦略的視点に立って「核・ミサイル」問題を切り離した独自の対話路線へ転換するとともに、米国に対して朝鮮戦争の休戦協定を平和条約にするよう働きかけるべきだ。

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北朝鮮 安保理制裁では非核化は実現できない

 25日の国連安全保障理事会で、米国と中国が合意した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への追加制裁決議案の草案が回覧された。中国が米国案に沿った強力な制裁に同意したのは、米国による高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備の延期と引き換えにしたからだ。制裁案のおもな内容は次のようである。

平壌の街並
平壌の街並(2015年6月27日撮影)

●北朝鮮への航空機・ロケット燃料の輸出禁止
●北朝鮮からの石炭・鉄鉱石の輸入制限と、金・チタン・レアアースなどの輸入禁止
●北朝鮮を出入りする貨物の検査の義務化
●北朝鮮との小型兵器を含む兵器の取引禁止
●渡航禁止・資産凍結対象に北朝鮮の12機関・個人17人を追加
●不正に関わった北朝鮮外交官の国外追放

 中国の意向で、安保理制裁は北朝鮮住民に影響を与えるものではないとしている。だがこの制裁に対し国連の「人道問題調整事務所」のギング局長は、北朝鮮は物資不足で深刻な人道状況に陥っているとして十分な配慮を求めた。北朝鮮経済が悪化すれば多くの餓死・凍死者が出るのは過去をみれば明らかだ。

 3月に実施される最大規模の米韓合同軍事演習では、北朝鮮内陸部の核・ミサイル施設を破壊するための訓練が強化される。米国は1994年に、寧辺(ヨンビョン)の核施設への爆撃を実施しようとしたことがあり、この演習は脅しではなく実際の攻撃につながる可能性がある。

 そして韓国内では、元軍人や閣僚経験者からそれらへの攻撃が必要との声が出ているという。またいくつものマスメディアが、韓国の核兵器保有を主張するようになっている。この安保理制裁によって、大規模な軍事衝突や全面戦争の危険性が確実に高まろうとしている。

 中国の王毅外相は17日、朝鮮半島の非核化とともに朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に変えることを同時に進める協議を提案した。朝鮮戦争が終結しておらず、北朝鮮が極めて不安定な状態に置かれてきたことが、現在の状況を招いているからだ。

 ところが米国のラッセル国務次官補は26日、北朝鮮に対しては平和条約交渉よりも非核化を最重視していると表明。中国の意向に反して、米国だけでなく日本・韓国も制裁一辺倒で突き進もうとしているのだ。

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北朝鮮核実験は米朝接触決裂の結果

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への国連安保理による制裁決議への動きが活発になっている中で、昨年12月末に北朝鮮と米国が接触していたことが明らかになった。

板門店
北朝鮮側から見た板門店(2007年8月19日撮影)

 米国務省のカービー報道官は21日、北朝鮮から平和協定締結の交渉を提案してきたことを公表。そして、交渉では非核化も議論すべきと伝えたところ北朝鮮が拒絶したために交渉に至らなかったとした。その結果、1月6日に北朝鮮は核実験を実施した。

 朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にするための北朝鮮による米国への提案は絶えず行われてきた。米国が今回、交渉のための接触に応じた理由は「戦略的忍耐」という名のもとで何もしないという北朝鮮政策の結果、北朝鮮の「核・ミサイル」開発だけが着実に進んだことへのオバマ政権のあせりによるものだろう。

 こうした動きの中で日本の安倍晋三首相は、北朝鮮との外交交渉を重視していないことが改めて明らかになった。

 2月9日、北朝鮮による長距離ロケットの発射に関して日米首脳が電話で会談した。その際にオバマ大統領は、安倍首相が5月上旬に予定しているロシア訪問を自粛するよう要請。だが在任中に「北方領土問題」の解決を目指す安倍首相は、予定通りに訪ロするという。

 独立国家としての体面をかなぐり捨て、対米追随の外交政策を続けてきた安倍首相。にもかかわらず「北方領土問題」では、米国からの再三の自粛要請があったにもかかわらずそれに応じないという決断をした。

 そうであるならば、「北方領土問題」よりも早く解決しなければならない多くの重要課題がある北朝鮮との交渉を進める方が先ではないか。

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北朝鮮への制裁の破綻が明確に

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、2月7日午前9時(日本時間午前9時30分)に、東倉里(トンチャンリ)にある「西海衛星発射場」から「光明星(クァンミョンソン)4号」ロケットを打ち上げた。

ロケット模型
「金日成・金正日花展示館」のロケット模型(2012年4月14日撮影)

 米国国防総省・韓国国防省や中谷元・防衛相は、飛翔体が宇宙空間の軌道に乗ったと判断。「北米航空宇宙防衛司令部」は、軌道を回る2個の物体に「41332」と「41333」の衛星カタログ番号をつけた。打ち上げは成功したようである。

 2012年12月に実施された前回の発射時と同じように、日本政府はあまりにも過剰な対応をした。「破壊措置命令」を出して、地対空ミサイル「PAC3」や海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス艦を配置。
 そして発射直後には、地方自治体へ「エムネット」や「Jアラート」で情報を伝えた。沖縄県では防災行政無線が注意を呼びかけたり、携帯電話の緊急速報メールが一斉に鳴ったりした。

 2013年1月に韓国が打ち上げた「羅老(ナロ)3号」ロケットも日本の上空を通過したが、日本政府は北朝鮮の打ち上げに対するような措置を取っていない。

 異常な空騒ぎをしたのは政府だけではない。発射直後には、テレビ各社は通常番組を中断して臨時ニュースを流し、号外を出した新聞社もある。マスメディアも、危機を煽り続ける安倍政権に完全に踊らされている。

 日本政府は、独自制裁策を近く発表するとしている。また韓国は、中国が反発している「高高度防衛ミサイル」の配備に向けて米国との協議を始めると発表した。

 1月6日の核実験と今回のロケット発射で明らかになったことがある。国連安保理や日米韓などによる独自制裁は10年間も続けられてきたにもかかわらず、北朝鮮の核開発を止めることはできなかった。それを継続しても、効果はまったくないということだ。

 もし、北朝鮮への石油や食糧を絶つような強力な制裁を実施したならば、おそらく数百万人の民間人の餓死・凍死者が出るだろう。そして、戦争や大規模な軍事衝突の危険性が一気に高まるのは確かだ。

 米国のオバマ政権は、「戦略的忍耐」という名のもとに北朝鮮に対して何もしなかった。東北アジアの平和のためには、米国が直接対話に踏み出し、北朝鮮の体制保障と引き換えの核廃棄という方法しかもはや残されていない。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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