北朝鮮の「衛星管制指揮所」を突撃取材!

 先を争って建物に駆け込むと、小銃を持った二人の兵士が立っていた。金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記を描いた大きな肖像画を、なだれ込んだ外国人から警護しているのだ。その前を走り過ぎて狭い階段を上る。撮影機材が重い。

指揮所前
レーダーが設置された「衛星管制総合指揮所」の建物と世界各国からのメディア(2012年4月11日撮影)

 2階からは、1階の体育館のように広い空間を見下ろすことができるようになっている。良い場所はカメラマンですでにいっぱいなので、一瞬ためらったもののソファーの上に靴のままで立つ。

 続けてやって来たたくさんのカメラマンと記者が、前に出ようとグイグイと押してくる。またたく間に、まったく身動きできなくなる。1階へ転落しないように気をつけながら、吹き出す汗を拭く余裕もないまま写真とビデオの撮影を始めた。

管制室内
「指揮所」内部とモニターに映し出されたロケット(2012年4月11日撮影)

 最初に目に入ったのは、正面の巨大モニターに映された映像。それは、発射台に据えつけられたロケットである。発射場のある東倉里(トンチャンリ)から送られてきたライブ映像のようだ。室内にはたくさんの管制卓が整然と並び、白衣を着た人たちがその前に座っている。

 ここは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の平壌(ピョンヤン)市郊外にある「衛星管制総合指揮所」。2012年4月11日、世界各国からやって来たメディア約170人に、ロケット発射の準備作業が公開された時のようすだ。

 1月29日に日本政府は、北朝鮮に「長距離弾道ミサイル」の発射準備を進めている兆候があるとして、その迎撃を可能とする「自衛隊法」に基づく「破壊措置命令」を出した。

 これを受けて防衛省は、地対空ミサイル「PAC3」を東京・市谷の同省敷地内に搬入し、北朝鮮の方角へ向けて設置。北朝鮮の「ミサイル」が飛来する恐れがある沖縄や都市部にも部隊を配置するという。また防衛省は、海上配備型迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス艦を日本周辺海域に配置した。

 そもそも、北朝鮮が発射しようとしているものを「長距離弾道ミサイル」と決めつけていることが間違いである。どの国の人工衛星打上げロケットであっても、その技術を弾道ミサイルに転用できる。

 「弾道ミサイルも人工衛星も、ロケットエンジンを使って飛ばす技術・構造は基本的に同じで、先端の搭載物が弾頭か衛星かの違い」(「毎日新聞」2012年12月12日付)

 しかし、北朝鮮が今までに実施した打ち上げはロケットばかりである。2012年12月に発射されたものによって人工衛星が軌道に乗ったことを、北朝鮮だけでなく「北米航空宇宙防衛司令部」も発表。この発射を海外メディアは「ロケット」としたが、日本メディアだけが「ミサイル」とした。

 「米国防総省当局者は28日(現地時間)、AFP通信に『北朝鮮が何らかの発射を準備しているように見える情況がある』とし『人工衛星、あるいは(人工衛星を搭載した)宇宙発射体である可能性もある。様々な推測がある』と明らかにした。この当局者は、発射の動きが『弾道ミサイルと関連している』兆しは何も見られないと付け加えた」(「the hankyoreh」1月30日付)

 このように、米国防総省や韓国メディアは冷静に判断している。今の時点では、ミサイルが打ち上げられると断定できる情報はなく、どちらかなのかはまったく分からないのだ。

 日本を戦争ができる国にしようとしている安倍政権は、北朝鮮に対する恐怖心をこの発射で煽ろうとしているのだろう。

 だが日本のどのマスメディアもそのお先棒を担ぎ、まるで北朝鮮が日本に向けて「ミサイル」を撃ち込む可能性があるかのような報道をしている。こうしたことは、今までにもあった。客観的な判断による報道を完全に放棄していることに、疑問を抱かないのだろうか。

e_04.gif

北朝鮮核実験③ 北朝鮮が核実験中止の条件を提案!

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への制裁について、日本・米国・韓国と中国・ロシアとの考えの違いが明確になってきた。

 今月8日、中国外務省の華春瑩報道官が「北朝鮮核問題の本質的な責任は米国にある」と明確に述べた。このように認識しているため、制裁強化のための日米韓による執拗な働きかけを受けながらも慎重な姿勢を続けている。これはロシアも同じである。

米国批判の切手 (2)
ロシアとの友好のために、2015年に発行された北朝鮮切手

 「ロシアと中国は、日本や米国、韓国と異なり、北朝鮮の崩壊や、政権交代を有益と見なしていない。露中はミサイルや核など具体的な軍事計画に対しては制裁を導入することに賛成だが、経済の民間部門を窒息させるようなそれを望んではいない」

 14日のロシア国営通信の「スプートニク」は、「ロシア科学アカデミー東洋学研究所」のアレクサンドル・ヴォロンツォフ朝鮮研究室長のこのようなインタビューを掲載。これはロシア政府の見解と思われる。そして米国の責任について言及。

 「1953年の古い(筆者補足:朝鮮戦争の)停戦合意を脱し、北朝鮮と米日韓の間に平和条約が締結され、外交関係が樹立されねばならない。こうしたプロセスの中で、米国は北朝鮮に保証を与えるだろう。攻撃しない、という保証、軍事的手段で政権を交代させない、という保証を。しかし米国は、様々な理由を設けて、頑なに保証を拒んでいる」

 つまりロシアは北朝鮮への制裁強化に否定的で、米日韓が北朝鮮と平和条約を締結して体制保障をすべきというのだ。

 15日には、北朝鮮外務省が重要な談話を発表した。

 「米国の合同軍事演習中止対われわれの核実験中止の提案を含むすべての提案は今も有効である」

 米韓合同軍事演習を中止するならば核実験を一時中止するという内容で、昨年1月に米国へ伝えられたものを改めて表明した。1年前とは状況がまったく異なる核実験直後の提案であり、極めて重要だ。

 米国と韓国は2月に予定している合同軍事演習を中止し、北朝鮮との対話に踏み出すことが最善の策だろう。

e_04.gif

北朝鮮核実験② 核開発を止めることはできる!

 1月6日に核実験を行った北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対し、力による対抗措置が進行している。

 韓国政府は、軍事境界線での宣伝放送を再開し、米国は10日に核弾頭を搭載できる戦略爆撃機B52を韓国上空で飛行させ、横須賀基地を母港とする原子力空母「ロナルド・レーガン」を派遣しようとしている。

咸鏡北道銅像
核実験が行なわれた咸鏡北道(ハムギョンブクド)にある最高指導者の銅像(2015年6月19日撮影)

 そして「国連安全保障理事会(安保理)」は、追加制裁のための決議の検討に入り、米国や日本などは独自の強力な追加制裁を実施しようとしている。

 日本政府は「ストックホルム合意」によって解除した一部の制裁を復活させるばかりか、自民党案の実施を検討している。「人道目的」の10万円以下を除いた送金の原則禁止や、朝鮮総連の中央常任委員会・中央委員会の委員と核・ミサイル技術者の再入国禁止、そして朝鮮学校への地方自治体による補助金支出の全面停止を指導するといった内容である。

 この自民党案は、北朝鮮ではなく在日朝鮮人を標的としたものだ。北朝鮮そのものへの制裁が困難であるため、日本国内で暮らす朝鮮人を代わりに攻撃するというとんでもない措置だ。こうした差別的で非人道的な政策は、日本の民主主義を大きく後退させることになる。

 米国・日本や韓国は、中国に対し北朝鮮への実効のある制裁を強く求めている。13日に韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、制裁強化には「中国の役割が重要」として中国の積極的関与を強く求めた。また同日には「6カ国協議」の日米韓代表が緊急会合を開き、「安保理」での強力な制裁決議採択のために中国とロシアに協力を求めると表明。

羅津港
羅津(ラジン)港での、ロシアからの石炭の積み出し作業(2015年6月23日撮影)

 日米韓の中国頼みは、北朝鮮の貿易額の約90パーセント以上を占める中国が動かない限り、実効ある制裁ができないと考えているからだ。だが、中朝貿易によって中国も大きな利益を得ている。そしてロシアは、積極的な投資を始めたばかりである。中国とロシアが、制裁強化に積極的な協力をすることはあり得ない。

 そもそも制裁というものは、エスカレートしていけば軍事衝突に発展する可能性があるだけではなく、政治的・外交的解決を放棄することになってしまう。

 米国は実験として広島・長崎という都市へ原爆を投下したが、どの核保有国も敵対する国からの軍事攻撃を抑止する手段として核兵器を開発・保有してきた。

 朝鮮戦争が休戦状態の中で、北朝鮮は米国からの軍事攻撃の脅威を受け続けてきた。米国・韓国は毎年、休戦ラインに近い場所で大規模な合同軍事演習を実施しており、それがそのまま北朝鮮への攻撃になる可能性が十分にある。そのため、北朝鮮は「自衛的措置」として核開発を進めてきた。

 そもそも米国とその「同盟国」は、「核拡散防止条約(NPT)」で核保有を認められた米国・ロシア・中国・フランス・英国だけでなく、インド・パキスタン・イスラエルの核兵器を容認している。

 それらの国の核弾頭の数は少なくても1万6000発以上にもなる。にもかかわらず、北朝鮮の核保有は認めないという二重基準を取り続けている。

 「6カ国協議」は、2005年には北朝鮮の核兵器開発の放棄で合意して「共同声明」を出すなど進展はあった。だが、その後も北朝鮮の核放棄が先決とする米国の姿勢が変わらず協議は暗礁に乗り上げた。

 北朝鮮政府が1月6日に発表した声明は「米国の朝鮮敵視が根絶されない限り、核開発中断も、核放棄もあり得ない」としている。北朝鮮の核開発を止めるのは、難しいことではない。米国が、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和条約」にすれば良いのだ。

 このように簡単で正当な解決策を米国が頑なに拒み続けている理由は、朝鮮戦争で北朝鮮に勝つことができず、「プエブロ号事件」で大きな譲歩をして屈辱を味わったからだ。米国のプライドのために、東北アジアの安定と平和が脅かされてきた。

 そしてこうした屈折した米国の対北朝鮮政策に、日本などの「同盟国」は追随してきた。またマスメディアも、この政策を批判してこなかった。

 参加国のさまざまな思惑で左右されてきた「6カ国協議」での解決は困難だ。もはや米朝の直接交渉しか残されていない。日本・韓国・中国・ロシアがすべきことは、米国に対し北朝鮮との交渉の席に着くよう説得することである。

e_04.gif

北朝鮮核実験① すぐに送られてきた日本語の「政府声明」

 1月6日午前10時30分(朝鮮時間午前10時)、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が4回目の核実験を実施した。

 「朝鮮中央テレビ」は午後0時30分(朝鮮時間正午)から「特別重大報道」として「水爆実験成功に関する政府声明」を放送。それによれば水爆実験だという。

声明日本語文書
「朝鮮対外文化連絡協会」から送られてきた日本語の「政府声明」

 「政府声明」がテレビで発表されてから5時間後の午後5時30分に、北朝鮮の政府機関から私あてにメールが送られてきた。それは「政府声明」の公式の日本語訳だった。

 こうしたことは今までにない異例の対応であり、あらかじめ訳文が準備されていた可能性が高い。この核実験は、さまざまな周到な準備の上に実施されたのは確かだ。

 この核実験によって、東アジアの安定は遠のくだろう。日本政府は、一昨年に解除した人的往来・送金の規制を再実施するなど制裁強化をただちに表明。拉致問題を含む「日朝合意」の履行はさらに先が見えなくなった。

 北朝鮮へは、関係改善を模索していた中国・韓国だけでなく、多くの国からの厳しい対応が予想される。海外からの投資や観光客は極端に減るだろう。徐々にではあるが確実に発展していた経済は、大きく減速すると予想される。

 そうした極めて大きなダメージを承知で、核実験は実施された。マスメディアや「北朝鮮専門家」たちは、この核実験実施が唐突であるとする。だが大きな視点から見れば、この時期に行われた理由が分かる。

 「政府声明」では核実験実施の理由を明確に述べている。

 わが共和国が行った水爆実験は、米国をはじめとする敵対勢力の日を追って増大する核脅威と恐喝から国の自主権と民族の生存権を徹底的に守り、朝鮮半島の平和と地域の安全を頼もしく保証するための自衛的措置である。

 北朝鮮は、体制の安定のためには米国との「平和条約」を結ぶことが不可欠としている。それなくして米国による軍事侵攻の脅威はなくならないし、外国からの大規模投資や国際金融機関の融資を得て大きな経済発展をすることは不可能だからだ。

 この核実験は、昨年12月12日の「モランボン楽団」の北京公演中止で中国との関係悪化がきっかけとなっている。中国に配慮する必要がなくなったため、オバマ政権に対話を決断させるために核実験実施を決断した。

 米国のオバマ政権は、発足当初の予想を裏切って北朝鮮に対して何の政策も打ち出せずにきた。この危機的状況を劇的に変えることができるのは、米国の対話路線への転換だけである。(続く)

e_04.gif
広告
広告
広告
プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: