拉致問題解決を投げ出した安倍首相

 3月26日、神奈川県警・京都府警・山口県警・島根県警の合同捜査本部は「外為法」違反容疑で貿易会社「東方」の社長と社員を逮捕した。

 この2人は2010年9月に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)産のマツタケ1200キログラムを中国・上海経由で日本へ輸入したという。
 このことが、2006年から日本政府が実施している北朝鮮への経済制裁の一環である「輸入の全面禁止」に違反しているというのが逮捕理由だ。

 またこの事件に関係した疑いがあるとして、朝鮮総連中央本部の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長と南昇祐(ナム・スンウ)副議長の自宅など6カ所を家宅捜索した。

 昨年5月にはこの事件に関し、京都府警などが朝鮮総連の傘下企業・商社20社への家宅捜索を実施。葬儀中の個人宅で8時間もの捜索をするなど、徹底したものだった。今回の家宅捜索はそれに続くものである。

 議長宅への捜索は「マツタケ事件密輸事件」の「関係先」として行われたが、その根拠は明らかにされていない。押収物は、議長宅では何ひとつなく、副議長宅からは写真数枚と妻のノートパソコン1台などが押収されただけだという。

 総連中央本部統一国際局は私の取材に対し「この不当捜索で、日本政府は『対話と圧力』の方針を『圧力』へと大きく転換した」と述べた。

 昨年5月、日朝政府間で拉致被害者を含む日本人調査について合意。それが進まないことに対して圧力をかけるのを目的とした、極めて政治的な家宅捜索である。

 政府はこの家宅捜索と同じ日に、総連が中央本部ビルを継続使用できるようになった経緯について調査に乗り出す方針を固めたという。

 そして政府は、4月に期限を迎える日本独自で実施している北朝鮮への経済制裁の2年間延長の方針をすでに固め、近く閣議決定する予定だ。

 転売資金の捻出に総連の資金が使われていたならば、金融庁は「整理回収機構(RCC)」を通じて支払いを求める方針だ。今回の家宅捜索は、そのための情報収集の可能性もある。

 日本で北朝鮮大使館のような役割を果たしてきた総連のトップであり、北朝鮮の国会にあたる「最高人民会議」の代議員でもある議長宅への家宅捜索。総連だけでなく、北朝鮮政府も極めて強く反発するのを承知での決断だ。

 総連中央常任委員会の声明は「両国の政府間合意を日本側が一方的に破棄したのも同然」としている。北朝鮮の「特別調査委員会」による日本人調査の継続は、風前の灯になってしまった。

 安倍政権は、拉致問題解決の唯一の方策である北朝鮮との対話方針を投げ出し、以前の圧力一辺倒政策に戻りつつある。それは、政権末期の米国・オバマ政権が北朝鮮問題への関心をさらに失ったことが影響しているのだろう。

 かつては、日本の食卓を賑わした香りが良くい安価な北朝鮮産マツタケ。北朝鮮への経済制裁措置によって、その輸入を“重大犯罪”としていることが異常である。

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朝鮮半島を縦断した日本人探検家(上)

 今月11日、米国の女性活動家であるグロリア・スタイネムさん(81)が国連本部で記者会見をした。朝鮮半島の平和と統一を願い、12カ国の女性30人が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国を隔てる非武装地帯(DMZ)を徒歩で越える計画を発表したのである。

 これは非武装地帯だけを北から南へと渡るというものだが、北朝鮮の白頭山(ペクトゥサン)から韓国の釜山(プサン)まで、朝鮮半島を完全に縦断した日本人探検家がいる。

非武装地帯の関野吉晴
非武装地帯の「朝鮮人民軍」監視所で説明を受ける関野吉晴さん(2007年8月19日)

 探検家の関野吉晴さんは、人類発祥の地であるアフリカのタンザニアをめざし、南米・チリの南端から旅をした。それは1993年から2002年までかけて、約五万キロメートルを徒歩・自転車・カヤックなどの人力で行われた。
このようすは、フジテレビで「グレートジャーニー」として八回にわたって放送された。

 関野さんは次の挑戦として、日本へ人類が渡ってきた三つのルートをたどる旅「新グレートジャーニー 日本人の来た道」を開始。
 その一つの「南方ルート」は、ヒマラヤからインドシナ半島を経て中国へ入り、朝鮮半島を通って対馬を目指すというものだ。

 朝鮮半島縦断の可否は、北朝鮮を旅する許可を得ること出来るかどうかにかかっている。関野さんの旅のテレビ番組を制作してきたプロダクションが、いくつかのルートで北朝鮮と交渉をしたものの成功しなかった。

 そのため2007年1月になり、私に交渉依頼をしてきた。それだけでなく、北朝鮮の北端から韓国の南端までの旅のコーディネートをして欲しいという。

 それまでの北朝鮮取材での経験を踏まえてプランを作成し、北朝鮮の受け入れ機関へ送った。ところが内容を欲張りすぎたために、「実現できない」としてあっさりと断られてしまったのである。こうなれば直談判するしかない。

 私一人で6月に訪朝し、内容を絞り込んだ新たなプランを説明。はっきりとした返事が得られないまま帰国したが、しばらくして許可の連絡が届いた。

 そして8月8日、私だけが一足先に平壌(ピョンヤン)へ。ある程度は覚悟していたが、さまざまなトラブルが待ち構えていた。

 翌日、日本から連絡があった。中国・瀋陽(シェンヤン)から平壌まで関野さんが搭乗する予定の高麗(コリョ)航空は、120センチ以下の自転車しか積んでくれないというのだ。
 日本の旅行代理店へ電話したものの、同じ返事である。そのため平壌市内にある高麗航空本社へ行き、ここでも直談判をした。その結果、例外として許可が出たのである。

 自転車は、関野さんと一緒に走る地元青年のものと2台が必要だが、急遽、1台は平壌で調達することになった。

 百貨店ならばあると思ったが、どこにも置いていない。「自転車の看板を掲げている店を見たような気がする」という受け入れ機関スタッフのあいまいな記憶を頼りに探しに行く。
 すると、マウンテンバイクの絵を掲げた立派な店舗があったのである。それは、北朝鮮で自転車生産をしている中国との合弁企業のショールームだった。

 ここにはさまざまな種類の自転車が並んでいる。私が関心を持ったのは、150キログラムもの荷物を積むことが可能なとんでもなくしっかりした自転車。北朝鮮では、こうしたものが活躍するのだろう。
 この店で、マウンテンバイクを75ユーロ(当時は約1万2000円)で購入した。

 関野さんとカメラマンは8月11日に空港へ到着。ところが空港から市内へ向かう車の中で、とんでもない事態が判明した。関野さんが、自分の自転車のクランク軸を忘れてきたのだ。これがなければ自転車は動かない。(続く)

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北朝鮮「特別調査委員会」の拉致調査に大きな動き

 2月28日、北朝鮮で行われている拉致調査に大きな動きがあった。「特別調査委員会」は「よど号グループ」から提出を受けていた資料を当事者たちへ返却し、「すべて目を通したので、あなたたちの調査を始めたい」と伝えたという。

 北朝鮮に残る「グループ」は6人。そのうちの3人が、ヨーロッパでの日本人3人への拉致に関与している疑いがあるとして警視庁から国際手配されている。「グループ」は、それを否定するための膨大な資料を提出していた。
 
 「グループ」のスポークスマンである若林盛亮さんは、「来週(3月1日以降)くらいから調査が始まるのではないかと思う」としている。

 「特別調査委員会」の「日本人」調査の活動内容は断片的にしか伝わって来ないが、「よど号グループ」に対しては積極的に取り組んでいるようだ。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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