北朝鮮から届いた郵便物

 昨年10月に訪朝した際、平壌(ピョンヤン)の「高麗(コリョ)ホテル」の近くにある「切手博物館」へ行った。切手蒐集の趣味はないが、どのような切手が新しく出たのか知りたかったからだ。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の政治・社会の動きは、次々と発行される切手からも知ることができる。

 ここでは、さまざまなポストカードも販売されており、その中からもっとも“過激”な絵が描かれているものを選んで自分あてに出してみた。郵便料金は120朝鮮ウォン。9日後に自宅へ届いた。

自分宛のポストカード
「将軍様の女性衛兵たち!戦闘ごとに無敵の勇気を奮え!」と書かれている自分あてのポストカード。

 日本政府は北朝鮮への経済制裁の重要な柱として、輸出入を全面的に禁止している。そのため、観光客が北朝鮮で購入した切手のような極めて低価格のものであっても、日本の税関は帰国時に没収をしてきた。

 この措置は、ホテルのバスルームに置いてある無料のアメニティーグッズまで対象にするなど、北朝鮮への渡航者に対する陰湿な嫌がらせである。こんなことを国の政策として実施するのを、政府関係者は恥ずかしくないのだろうか。

 昨年5月の日朝合意に基づき制裁の一部は解除されたが、あまり重要でない事項ばかりだった。輸出入の禁止は継続されており、隣国との貿易がまったくないという極めて異常な状況が続いている。

 その禁止対象には郵便物も含まれている。2009年6月16日の閣議決定によって、「外国為替及び外国貿易法」に基づく北朝鮮への「禁輸貨物」に郵便物も含まれたのである。

 経済産業省の貿易経済協力局貿易管理部貿易管理課によれば、「受取人の個人的使用に供される衣料、食糧、書籍類等」は措置の例外となっている。1カ月間に1回に限り、小包を出すことができるという。

 だが郵便物への制限を実施した直後には、在日朝鮮人が北朝鮮の親族へ出した小包が日本の税関から戻されることが続いた。国際取引が禁止されていたり動物・植物検疫に引っかかったりするものはそもそも送ることはできないが、北朝鮮向けにはそれを厳格に適用したのだろう。

 また「受取人の個人的使用に供される」という条件によって、北朝鮮の政府機関や事業所あての郵便物はまったく送ることが出来ない。そうしたものに対しては、「禁輸貨物」となるので「輸出できない」との連絡が、日本の税関から差し出し人へ郵便で行われている。

年賀状
北朝鮮から届いた今年の年賀状。左手前が「よど号グループ」からのもの。

 こうした中で、北朝鮮からは今年も年賀状が届いた。昨秋に取材した「よど号グループ」、取材の窓口となっている外務省の外郭団体、そして平壌へ行ったら必ず食事に行くレストランからのものもある。消印からすると、投函されてから6日~9日間で届いている。

 日本の北朝鮮への徹底的な経済制裁は、日本での社会的自由を間違いなく奪ってきた。そのことを伝えようとしないマスメディアに、強い危機感を持つ。

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辻出紀子さん失踪を「よど号グループ」に質した(下)

 警察庁の「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者」リストに載っている辻出紀子さん。「よど号グループ」が関係しているとする人もいる。

 「グループ」6人が暮らすのは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の首都・平壌(ピョンヤン)市郊外にある「日本人村」。2014年9月26日、その事務所において「グループ」のリーダーである小西隆裕さんに対し、アパートの彼の部屋でインタビューをした。

自宅の小西さん
自宅でインタビューに応じる小西隆裕さん(2014年9月26日撮影)

質 問  1988年に失踪した「特定失踪者」の辻出紀子さんについて知っていることはないか。
小 西  辻出紀子さん? 1988年? 正直言うて、辻出さんという名前はまったく知らないし、会ったことないですよ。まったく知らないですよ。まったく、本当に知らないです。
質 問  「よど号グループ」と関係なく自らの意思で北朝鮮へ渡ったかも知れないが、消息を知らないか。
小 西   まったく知らないです。

 このように、辻出さん失踪への関与を完全に否定しただけでなく、北朝鮮で会ったこともないと断言した。小西さんは驚いた表情をしながら答えたが、そこからは不自然さは感じられなかった。

 この失踪事件への北朝鮮の関与について、ライターの西牟田靖さんは、次のような結論を出している。

 北朝鮮の拉致については荒唐無稽な話だと思っている。特定失踪者問題調査会の人たちが失踪者のリストに載せたり、産経新聞が拉致の可能性をほのめかすような記事を書いてはいる。しかし、彼らの主張は人づてによる間接的な情報であったりしてどれも信憑性に欠けるように思えた。
 例えば、調査会の関係者が、彼女が北朝鮮に行ったことを証拠づけるものとして、辻出さんが残したメーリングリストに残したメールのことを挙げている。 (略)証拠だと主張するメールは、彼女が単に悪のりして「北朝鮮に行きたい」と書いているだけで、彼女自身が行く手段を模索したり、回りのメンバーが彼女に抜け道的な特別な渡航方法を教えたり、といった書き込みはどこにも見当たらなかった。(「東京BREAKING NEWS」2014年12月4日)


 公表されている情報では、北朝鮮や「よど号グループ」が辻出さんを拉致ないしそれに関与した可能性などまったく考えられない。北朝鮮による拉致の規模を大きく見せたい、という政治的な思惑を持っている人たちが、辻出さん失踪を利用しているだけのようだ。

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辻出紀子さん失踪を「よど号グループ」に質した(上)

 1998年11月24日、三重県伊勢市で雑誌編集者の辻出紀子さん(当時24歳)が失踪。それから約10年後の2008年9月8日に、「産経新聞」が下記のような記事を掲載した。

北、新たな拉致疑惑 10年不明の辻出さん 政府に情報、再捜査へ
今年春ごろに政府関係者が北朝鮮事情に詳しい中朝関係筋から「辻出紀子さんという方が北朝鮮にいるのではないか」との情報が寄せられていた。この際、日本側は「辻出さんの『つ』の字も出さなかったのに、先方から辻出さんの名前をフルネームで言った」(関係者)という。


高層アパートと柳京ホテル
主体(チュチェ)思想塔からの平壌(ピョンヤン)市内(2014年9月25日撮影)

 辻出さん失踪に関して、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の名が突然、出てきたのである。それを受けて「特定失踪者問題調査会」はその日のうちに辻出さんの両親とともに記者会見し、同会の「不明者リスト」に登録していることを発表したのだ。

 そして失踪から16年後の2014年になり、新たな動きがあった。

 今年3月にはある行方不明者について注目すべき動きがあった。三重県で'98年に行方不明になった辻出紀子さんの名前が、密かに警察庁の「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者」リストに加えられたのだ。辻出さんは以前から拉致された疑いが濃厚だったが、これまでは北朝鮮に拉致されたとはみなされなかった。ところが、この3月に三重県警が辻出さん一家を訪ねて、家族に「辻出さんの名前をリストに入れてもいいか」と申し出たという。(「フライデー」2014年6月6日)

 このように辻出さんの失踪を、民間団体だけでなく警視庁も“北朝鮮による拉致の可能性”があるとしたのだ。
 ライターの西牟田靖さんの記事(「東京BREAKING NEWS」への連載)によれば、辻出さんは「トラベル・メーリングリスト」に入っていて北朝鮮について次のような投稿をしている。

――私も北挑戦、もとい北朝鮮、行きたい! 行きたい! インタビューするなら、やっぱ20世紀の負の遺産ともいえる? 金正日しかないでしょう! あの髪はカツラなのかも、ぜひ聞いてみて下さいまし。
――慶州の世界文化エキスポでの北朝鮮のパビリオンってどんなのでした? 興味あります。詳しく教えてください。北朝鮮の生活を再現したパビリオンなんでしょうか。
――平壌オフ。前代未聞の企画だ。エベレスト山腹でワイン持ってバーベキューするようなものですね。でも、行きた~い! 2000年を平壌で迎えるというのは如何?


 そして辻出さん失踪に「よど号グループ」が関係していると疑っている人たちがいるというのだ。
  西牟田さんは、「特定失踪者問題調査会の関係者であるM氏」から「辻出さんは北朝鮮に自ら渡り、よど号グループへのインタビューに成功した後、姿を消した」と聞いているという。そして「中朝関係者からの未確認情報によると、よど号グループのいた村に彼女が滞在していたという噂も聞いている」と書いている。

 「よど号グループ」に、自分から会いに行ったのであれば「拉致」ではない。だが私は「グループ」と会って、質してみることにした。(続く)

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北朝鮮「特別調査委員会」の「よど号」聴取が止まった

 米国のオバマ大統領は2日、「ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)」へのサイバー攻撃などへの対抗措置として、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の情報・工作機関である偵察総局など3組織と10人を制裁対象に追加指定した。

 アーネスト大統領報道官はこのことについて「われわれの対応の第1弾」と語り、北朝鮮へのさらなる措置の実施を示唆。米朝関係は、再び悪化の方向へ進むだろう。

よど号学習会
小西隆裕さんの執務室で学習会をする「よど号グループ」(9月29日撮影)

 北朝鮮の「特別調査委員会」は、平壌(ピョンヤン)で暮らす「よど号グループ」に対し、11月17日と20日に「欧州拉致疑惑」に関する事情聴取を実施。その後も、聴取は継続されるとみられていた。
 ところが2日の私の取材で、「よど号グループ」への事情聴取は止まっていることがわかった。

 「特別調査委員会」は、衆院選後の日本の動向を見極めた上で、「よど号グループ」を含む「日本人調査」の報告を出してくる可能性があるとみられていた。
 だがそうした時にオバマ大統領は、SPEへの大規模なサイバー攻撃を北朝鮮の犯行であると断定。そして、その証拠が極めて貧弱であるにもかかわらず、具体的な報復を開始したのである。またしても、大きな過ちを犯そうとしている。

 オバマ政権の北朝鮮への強攻策が、「特別調査委員会」による「日本人調査」とその報告にすでに影響を与え始めている可能性がある。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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