北朝鮮での隠し撮り映画はなぜ作られるのか?

 ロシア人のヴィタリー・マンスキー監督が制作した映画『太陽の下で-真実の北朝鮮-』が、来年1月に日本でも劇場公開される。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)から2年間かけて撮影許可を取り、平壌の一般家庭で1年間かけて撮影したという。

平壌の街
平壌の街(2016年8月26日撮影)

 監督は、8才の少女・ジンミを中心とした模範労働者一家の日常生活を描こうとした。だが、親の職業やクラスメイトとの会話はシナリオに沿ったもので、北朝鮮側の監督が一家に演技をつけたという。そこで目的を変更して、そうした「舞台裏」を隠し撮りしたというのだ。こうした手法での映画にロシア政府は、ヴィタリー・マンスキー監督への非難声明と上映禁止を発表した。

 北朝鮮で3本のドキュメンタリー映画を撮影したことのある私は、この監督の姿勢に大きな疑問がある。北朝鮮で制作されるドキュメンタリーは、被写体にいきなりカメラを向けるということはあり得ず、必ず相手の同意や許可を得て撮影されている。

 そのため、私が街頭で通行人へカメラを向けると、とんでもない剣幕で抗議されることがたびたびある。事業所での撮影の場合は、なぜ外国人が撮影希望をしているのかを私を受け入れている機関が時間をかけて説明し許可を得ている。朝鮮では、ドキュメンタリー映画であれ劇映画であれ、そのような方法で作るのがルールなのだ。

 自分の国と北朝鮮とでルールが異なるからといって、完全に無視するのは間違いである。かつてのソ連でも、今の北朝鮮と同じようなルールで撮影していたはずだ。

 実は私の1本目の映画撮影の際も、撮影許可を出した地方都市の人民委員会がさまざまな準備をしていた。例えば、労働者の通勤風景を撮りたいと希望したところ、たくさんの労働者が行進するように一斉に歩いて来た。

 こうしたことは、北朝鮮側のサービスなのである。少しでも、北朝鮮らしい映像を撮って欲しいのだ。そのことに気づいた私は、それをやめるように強く申し入れた。すでに撮影した過剰演出の部分は映画に使わなかった。2本目からは、極端なサービスはなくなった。

 ヴィタリー・マンスキー監督は、自分が受け入れられない演出だと思った段階で、北朝鮮の監督と話し合ったのだろうか。そうしなかったとしたら、制作に責任のある監督として失格である。話し合いが決裂したのであれば、そこで撮影を中止すべきだった。

 北朝鮮で撮影され、本来の目的と異なった内容のドキュメンタリー映画が今までに何本も発表されてきた。それらはどれも、北朝鮮を批判的に描いている。そのため、『太陽の下で』も最初からその手法で撮影しようとしていたのではないかと疑ってしまう。

 北朝鮮の内情を暴露するといった内容の映像は、メディアによってセンセーショナルに取り扱われ大きな利益をもたらす。だがそのことによって、さらに歪んだ北朝鮮像がつくられていく。ジャーナリストであるならば、目先の利益に踊らされて魂を売ってはならない。

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北朝鮮 安保理制裁では非核化は実現できない

 25日の国連安全保障理事会で、米国と中国が合意した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への追加制裁決議案の草案が回覧された。中国が米国案に沿った強力な制裁に同意したのは、米国による高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備の延期と引き換えにしたからだ。制裁案のおもな内容は次のようである。

平壌の街並
平壌の街並(2015年6月27日撮影)

●北朝鮮への航空機・ロケット燃料の輸出禁止
●北朝鮮からの石炭・鉄鉱石の輸入制限と、金・チタン・レアアースなどの輸入禁止
●北朝鮮を出入りする貨物の検査の義務化
●北朝鮮との小型兵器を含む兵器の取引禁止
●渡航禁止・資産凍結対象に北朝鮮の12機関・個人17人を追加
●不正に関わった北朝鮮外交官の国外追放

 中国の意向で、安保理制裁は北朝鮮住民に影響を与えるものではないとしている。だがこの制裁に対し国連の「人道問題調整事務所」のギング局長は、北朝鮮は物資不足で深刻な人道状況に陥っているとして十分な配慮を求めた。北朝鮮経済が悪化すれば多くの餓死・凍死者が出るのは過去をみれば明らかだ。

 3月に実施される最大規模の米韓合同軍事演習では、北朝鮮内陸部の核・ミサイル施設を破壊するための訓練が強化される。米国は1994年に、寧辺(ヨンビョン)の核施設への爆撃を実施しようとしたことがあり、この演習は脅しではなく実際の攻撃につながる可能性がある。

 そして韓国内では、元軍人や閣僚経験者からそれらへの攻撃が必要との声が出ているという。またいくつものマスメディアが、韓国の核兵器保有を主張するようになっている。この安保理制裁によって、大規模な軍事衝突や全面戦争の危険性が確実に高まろうとしている。

 中国の王毅外相は17日、朝鮮半島の非核化とともに朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に変えることを同時に進める協議を提案した。朝鮮戦争が終結しておらず、北朝鮮が極めて不安定な状態に置かれてきたことが、現在の状況を招いているからだ。

 ところが米国のラッセル国務次官補は26日、北朝鮮に対しては平和条約交渉よりも非核化を最重視していると表明。中国の意向に反して、米国だけでなく日本・韓国も制裁一辺倒で突き進もうとしているのだ。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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