米朝首脳会談直前の予断を許さない状況

 今月27日~28日にベトナムの首都ハノイで開催が予定されている米朝首脳再会談に向けた水面下での協議が難航している。

ホーチミン廟
金正恩(キム・ジョンウン)委員長が訪れる可能性があるホーチミン廟(2015年12月23日撮影)

 米国は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に、米朝2カ国による「不可侵宣言」や「平和宣言」を打診していることが判明したという。この「不可侵宣言」や「平和宣言」という拘束力のない「宣言」を、北朝鮮が受け入れることはあり得ないだろう。それは過去に、同じようなやり取りをしたものの失敗した経験があるからだ。

 2003年8月から、北朝鮮の核開発に関する「6カ国協議」が始まった。この時も米国は北朝鮮に「核兵器の完全で検証可能な形での不可逆的な放棄」を求めた。これに対して北朝鮮は、米国が先に見返りを出すべきだと強く反発し、2005年2月に「核兵器保有宣言」を行なうに至った。

 この事態に対して米国は、それまで拒否をしていた2国間協議に応じた。そして2005年9月の「6か国協議第4回協議会」において、「9・19共同声明」の発表となった。

 北朝鮮はすべての核兵器と核計画を放棄し、米国は朝鮮半島で核兵器を保有しないことと核兵器・通常兵器で北朝鮮を攻撃・侵略しないことを確認する、という内容だった。

 危機を乗り越えて生み出されたこの内容は画期的なものだったが、すぐに崩れ去った。米国財務省がマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に、北朝鮮が預けていた2500万ドルを凍結させたのである。
 もちろん北朝鮮は強く反発し、「共同声明」の合意は破綻。つまり北朝鮮とすれば、米国と法的拘束力のない口約束をしても、いとも簡単に破られてしまうということだ。

 北朝鮮が米国との交渉で最終的に求めているのは、米国からの侵攻を受けない明確な保障である。それは朝鮮戦争の「終戦宣言」と、米国との「平和条約」の締結である。その実現のために、市民生活の向上を後回しにしてまで核・ミサイル開発を進めてきた。

 北朝鮮の差しあたっての目標は、制裁の部分解除だろう。私は昨年、2月・6月・9月と北朝鮮取材を行ない、首都・平壌だけでなくいくつかの地方都市も訪問。自動車数はそれ以前と変わらず、「ピョンハッタン」の高層アパート群では派手な夜間ライトアップが続いていた。しかし、今の極めて厳しい制裁がこれからも続けば、かなりのダメージを受けるのは確かだ。

 今月6日~8日に平壌(ピョンヤン)を訪れたスティーブン・ビーガン米国務省対北朝鮮政策特別代表に対し北朝鮮は、首脳会談前に制裁解除についての米国による明確な立場表明を求めたという。つまり部分的な制裁解除であっても、その可否によって対応を変えるということだろう。首脳会談まで2週間を切ったが、直前での延期・中止といった事態を含め、まだまだ予断を許さない状況だ。


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第2回米朝首脳会談を前にトランプをどうみるか

 今月末の第2回米朝首脳会談の日程が、今週中に発表される。場所については、モンゴルとベトナムが受け入れを表明していた。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は平壌(ピョンヤン)か板門店(パンムンジョム)を希望していたものの、米国が提案したベトナム中部のダナンで同意したという。

友誼塔内部
朝鮮戦争での中国人民義勇軍の戦死者を追悼する「友誼塔」の内部(2018年7月1日撮影)

 米中首脳会談も、同じダナンで同時期の2月27日と28日に開催されるようだ。第2回米朝会談の合意内容の履行を、中国を加えることでより確実にしようとしているのだ。

 米朝首脳会談の内容について、スティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表が先月31日に触れた。「トランプ大統領は北朝鮮との戦争を終わらせる準備ができている。米国は北朝鮮へ侵攻や政権転覆を追及しない」と述べた。これは昨年6月の首脳会談での合意の履行を表明したものである。

 トランプ大統領は今月1日に、「中距離核戦力廃棄条約」破棄をロシアへ通告すると発表。中国を含めた、深刻な軍拡競争が再燃する危険性が出てきた。歴史から学ばない愚かで軽率な選択である。

 このように暴走が止まらないトランプ大統領に対し、日本や米国・韓国においても米朝首脳会談での妥協を危惧する声が上がっている。朝鮮戦争を終結して北朝鮮に安全の保障をしても、核廃棄は進展がないまま曖昧になってしまうのではないかというものだ。

 だが現在の米朝の動きは、今までの歴史的経緯から捉える必要がある。米国の歴代政権は事実上、問題解決の先送りをして朝鮮戦争を休戦状態のまま放置。それに対し、米国からの侵攻の脅威を受ける北朝鮮は、核兵器とそれを米国本土にまで運搬可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるという選択をした。

 米国の北朝鮮政策の失敗から、第2の朝鮮戦争が始まる寸前にまでなった。その状況を回避させたのは、米国の凝り固まった外交政策にこだわらないトランプ大統領の決断だったのは確かだ。米国第一主義に基づいて行動しているとはいえ、米朝関係を根本的に改善する可能性を持っている。結果はどうであれ、今はそれを期待して会談を見守るしかない。

北朝鮮と米国 ICBM廃棄と制裁解除を交換か

 2回目の米朝首脳会談開催の準備が進んでいる。米朝交渉が停滞してきたおもな原因は、昨年6月12日の第1回首脳会談の画期的合意内容を反故にしようとする米国内の動きによる。「朝鮮半島の非核化」ではなく、従来の「北朝鮮の非核化」にこだわっているのだ。

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軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイルKN-08(2017年4月15日撮影)

 昨年、米朝関係改善のために米国が実施した措置はほぼないが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は拘束していた米国人の釈放、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨返還や豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の坑道爆破を実施。これらの措置からは、朝鮮の関係改善への熱意と誠意が十分に伝わる。

 在日米軍司令部が北朝鮮を、15発以上の核兵器を保有する「核保有宣言国」と規定しているとことが今月14日に明らかになった。これは北朝鮮を、事実上の「核保有国」として認めた可能性がある。もしそうであれば、北朝鮮核保有という「不都合な真実」を認めることを頑なに拒否してきた米国にとって大きな政策転換になる。

 今月11日には、マイク・ポンペオ米国務長官が「米国の究極的な目標は米国国民の安全」とインタビューに答えてもいる。これらのことから考えられるのは、トランプ大統領は次の首脳会談で、米国本土まで到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄と制裁解除の交換を提案することだ。

北朝鮮 米国務省とトランプ大統領を区別

 米朝交渉が膠着状態に陥っている中で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「外務省米国研究所」の政策研究室長は12月16日に談話を発表した。

開城の街頭写真屋
開城(ケソン)市の街頭写真屋(2018年9月10日撮影)

 「シンガポール朝米首脳会談後の6カ月間、国務長官をはじめ米国の高位政客は毎日のようにわれわれを悪意に満ちて謗ったし、米国務省と財務省はマネーロンダリング(資金洗浄)だの、瀬取りだの、サイバー攻撃だのというさまざまな口実を設けて、わが国だけでなくロシア、中国など第3国の会社と個人、船舶におおよそ8回に及ぶ反朝鮮制裁措置を講じた。(中略)今、国際社会はわれわれが主動的に取った非核化措置を積極的に歓迎して米国がそれ相応に応えることを一様に要求しており、トランプ大統領自身も機会あるたびに朝米関係改善の意志を披瀝している」

 このように北朝鮮は、米朝関係改善において米国務省を“妨害勢力”とし、トランプ大統領を“推進者”と明確に区別するようになった。

 米国務省のマイク・ポンペオ長官は今年10月の4回目の訪朝後、「急ぐ必要はない」と表明。国務省が、大統領の足を引っ張る構図が明らかになった。

 国務省が北朝鮮への長年の敵視政策から抜け出せないのには大きな理由がある。朝鮮戦争において北朝鮮に勝つことができず、1968年に起きた「プエブロ号事件」では完全敗北をした。こうした“トラウマ”によって、北朝鮮への敵視政策を変更できずにきたのだ。

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米国・日本の北朝鮮交渉は混迷

 米朝交渉が難航している。その最大の原因は、6月12日の米朝首脳会談においてトランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)委員長に約束した朝鮮戦争の終結宣言への署名が行われていないからだ。

将校
板門店(パンムンジョム)の朝鮮人民軍将校(2016年8月21日撮影)

 首脳会談前にホワイトハウスを訪れた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長兼統一 戦線部長に対しても、同様の約束をしていた。これがあったため、北朝鮮は大胆な譲歩をすることを決断した。

 ところが現在、米国内ではジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)とジム・マティス国防長官らの北朝鮮への強硬派が巻き返した。つまり現在の膠着状態は、米国が国内事情によって約束を履行していないことにある。

 米朝の仲介役である韓国。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の外交ブレーンである文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は9月3日、朝鮮戦争の終結宣言は採択しても撤回可能と表明。トランプ大統領が約束を履行しやすいように後押しをした。

 米国だけでなく、日本の北朝鮮との交渉も混迷している。米国の「ワシントン・ポスト」(8月28日付)は、7月に日朝がベトナムにおいて極秘接触をしたと報じた。日本からは安倍首相の側近中の側近の北村滋内閣情報官で、北朝鮮は朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)策略室長。つまり、両国の情報機関による協議だった。

 日本の外務省は7月1日付で、北朝鮮を専門に担当する北東アジア第2課を創設したばかりだ。にもかかわらず、北朝鮮との交渉で外務省は外されて情報機関が行った。ベトナムでの極秘接触が明らかになったのは、これに不満を持った外務省関係者がリークした可能性が高い。

 米国と日本の政治家・官僚たちは、北朝鮮が核・ミサイル開発をしなければならなくなった理由をまったく理解していない。政府内で主導権争いをしていたならば、昨年の危機的状況を再び招くだろう。

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米国人死者を避けるための北朝鮮への軍事攻撃発言

 米国トランプ大統領の代弁者として発言してきた共和党のグラム上院議員が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への軍事攻撃について新たな発言をした。

米軍戦車
「祖国解放戦争勝利記念館」に展示されている米軍戦車(2017年4月12日撮影)

 12月14日の「米アトランティック誌」のインタビューで、「現時点でトランプ大統領が軍事行動を選択する確率は30パーセント。北朝鮮が新たな核実験を実施した場合は70パーセントに上がる。戦争になれば、ピンポイント攻撃でなく全面戦争になる」とした。

 そればかりか「東アジアで数百万人の命を危険にさらしても、米国人の死者を避けるために軍事行動には意味がある」と語った。

 8月1日にはトランプ大統領が、「核・ミサイル開発を阻止するための戦争は、現地(朝鮮半島)で起きる。死ぬのは向こうなので、米国では死者は出ない」と語ったことが明らかになった。

 「米国第1主義」を掲げるトランプ大統領は、他民族への極端な差別主義者である。米国の安全保障のためには、東アジアで膨大な死者が出ても構わないと確信しているようだ。安倍首相は、こうした妄言に抗議すべきではないか。

北朝鮮は交渉提案、米韓は軍事力で威嚇

 米国が韓国とともに、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へ危険な威嚇をしている。「史上最大規模」の米韓空軍による合同軍事演習「ビジラント・エース」が、12月4日から8日までの日程で始まった。

バス停の人々
平壌(ピョンヤン)市内でバスを待つ人々(2017年8月16日撮影)

 この演習には、約230機の航空機が参加。その中には、最新鋭ステルス戦闘機のF22とF35の24機が含まれている。これら戦闘機は、合同演習で自衛隊がその位置をまったくレーダーで補足できなかったというほどの性能がある。

 約230機のうちの75機が、岩国や嘉手納の在日米軍基地から参加している。米朝開戦になれば、確実にそれらの基地が攻撃を受けるのは確実だ。

 今回の演習の目的は、北朝鮮がソウルを狙うために軍事境界線に沿って配備している大量のロケット砲や、弾道ミサイル運搬のための移動式発射台への攻撃だという。

 米軍の先制攻撃に対する北朝鮮の反撃で、韓国と日本で甚大な被害が出る。米国ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」が出した被害想定は、最悪の場合の死者は「ソウルで203万人」「東京で180万人」という驚くべき数字だ。

 今回の演習は、北朝鮮のそうした反撃能力を奪おうとするものだ。しかし、文字通りの一触即発の米朝関係が続く中で行うこの軍事演習は、北朝鮮への「牽制」「圧力」などではなく、どうみても危険な「挑発」でしかない。中国とロシアはそれを批判しているが、日本国内からはマスメディアを含めてほとんど聞こえない。

 米軍がいくら北朝鮮の反撃能力を奪おうとしても、ソウルへ落ちるロケット弾は間違いなくある。そのため米軍は先制攻撃の前に、韓国で暮らす米国籍の米軍将兵家族と民間人の退避を行なうだろう。

 「米国上院軍事委員会」メンバーで共和党のリンゼー・グラハム上院議員は3日、軍事衝突が近づいているとの認識を述べ、「国防省は在韓米軍の家族を韓国外へ退避させるべき」とした。一部には、すでにトランプ大統領は、退避を決めているという話もある。

 北朝鮮は、トランプ政権発足の1月以降、米国のシンクタンク「カーネギー国際平和財団」のダグラス・パール副会長へ8回の会談を提案。また「米国中央情報局」で朝鮮半島担当をした「ヘリテージ財団」のブルース・クリングナー上級研究員にも働きかけをした。だがこれらは、米国側の拒否によって実現していない。

 そうした中で、国連の政治担当トップのフェルトマン事務次長が、北朝鮮側からの提案に応じて5~8日の日程で北朝鮮を訪問する。こうした北朝鮮の対応は、核・ミサイル開発が完成に近づき米国との対等な交渉ができる時期になったと判断しているからだろう。

「北朝鮮危機」を作り出して武器を売るトランプ政権

 米国のトランプ大統領は11月6日、安倍首相との共同記者会見において、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との軍事的危機によって日本へ武器を売り込もうとしている姿勢を明らかにした。

板門店の兵士
板門店で警備する朝鮮人民軍兵士(2016年8月21日撮影)

 「安倍首相が米国からより多くの兵器を購入すれば、北朝鮮のミサイルを上空で撃ち落とせるだろう。私が大事だと思うのは、安倍首相が米国から大量の兵器を購入すること。米国は世界最高の軍事装備を生産している。F35戦闘機でもミサイルでも、米国で多くの雇用が生まれ日本には安全をもたらすだろう」

 トランプ大統領はこのように述べ、日本がより多くの兵器を米国から購入するよう異例にも求めた。日本が購入を決めたイージス・アショアは1基1000億円以上もするが、日本全土のカバーには3~4基が必要。F35は1機147億円もする。また韓国が導入したTHAAD(サード)は、最低1000-1500億円だという。

 記者会見で、トランプ大統領の本音が明白になった。「危機」であれば高額な兵器が苦労せずに売れる。つまりトランプ大統領は、北朝鮮との軍事的な緊張を作り出してそれを少しでも継続させ、日本や韓国に高額な兵器を売りつけようとしているのだ。

 安倍首相はこれに対して、ステルス戦闘機F35Aや新型迎撃ミサイルSM3ブロック2Aなどを米国から購入すると述べた。そして、迎撃する必要のある北朝鮮の弾道ミサイルは打ち落とすとした。

 もはや日本はトランプ政権の金儲けの格好のカモと化し、米国の忠実な下僕として軍事的冒険に積極的な加担をしようとしている。

北朝鮮 大気圏核実験の危険性

 9月22日、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の李容浩(リ・ヨンホ)外相は、太平洋で水爆実験を実施する可能性を示唆した。つまり大気圏の内か外、ないしは水中で核実験をするかも知れないというのだ。

閲兵式の歩兵
金日成(キム・イルソン)広場での軍事パレードの歩兵(2017年4月15日撮影)

 これが報じられてから、それをはったりだとする見方が数多く出ているが、そうではない可能性もある。北朝鮮の核・ミサイル開発は、米国による体制保障を得るためのものだが、太平洋での大気圏核実験は今までの地下核実験と比べ米国に与えるインパクトは比較にならないほど大きい。

 米国本土へ届く核兵器搭載ミサイルの完成が近づき、北朝鮮は米国と対等に交渉できる時がきたと判断したようだ。トランプ大統領が就任した今年1月以降、北朝鮮当局者が米国の共和党関係者や政府当局者らとの非公式接触を続けてきた。

 現在、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソニ)北米局長が、モスクワでロシア外務省と会談を行なっている。米国との交渉の仲介を依頼していると思われる。これからは米国への核ミサイルでの威嚇をしながら、本格交渉開始に向けて積極的に動くだろう。だがそれが行き詰まれば、大気圏内核実験に踏み切る可能性は高い。

 1945年7月6日、米国が史上初の核実験を行ない、8月6日に広島、9日に長崎に原爆を投下。それ以降、ソ連・英国・フランス・中国・インド・パキスタン、そして北朝鮮が核実験を実施。その数は2379回にもなる。そのうち大気圏内核実験は502回で、1980年の中国の実施から止まっている。

 大気圏内核実験は、大量の放射性降下物(死の灰)を広範囲な地上と海上に振り撒いて放射能汚染を引き起こす。1954年3月1日、米国はマーシャル諸島共和国のビキニ環礁で、「ブラボー」と名付けた水爆実験を実施。日本の漁船856隻が被爆し、「第5福竜丸」の無線長だった久保山愛吉さんが半年後に死亡した。

 こうした大気圏内核実験によって、地球全体が放射能汚染された。福島の原発事故の後に報じられたように、その時に降り注いだプルトニウムが、いまでも測定できるほどだ。検証は難しいが、ガン・心臓病・脳卒中などの成人病が増えたのもその影響が疑わしい。

 人類とすべての生き物の未来のために、これ以上、地球を汚染してはならない。いかなる理由があっても、大気圏での核実験はやめるべきだ。もちろん、少なくても数百万人の命を奪う核戦争には絶対反対である。

北朝鮮 核・ミサイル開発の停止がみえてきた

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は9月15日、中距離弾道ミサイル「火星12」を発射。今回は、米国領グァムまで届く約3700キロメートルを飛行した。

宇宙開発局の説明会
「科学技術殿堂」で開催された「国家宇宙開発局」による説明会(2017年8月16日撮影)

 高度100キロメートル以上の宇宙空間を移動している人工衛星や国際宇宙ステーションなどは、領空侵犯とされていない。今回のミサイルの高度は約770キロメートルに達しており、日本の政府やマスメディアが「日本の上空を通過」とするのは極めて不自然である。

 今回も日本政府は「緊急情報ネットワークシステム」で情報を流し、さらに危機感を煽った。最近では、「防空ずきん」を被せて小学生にまで「防空演習」をし、廃線になった鉄道のトンネルを「防空壕」にしようとする地方自治体まででてきた。この異常な対応について、疑問や批判の声はあまり聞こえてこない。日本はすぐにでも戦争できそうな雰囲気になってきた。

 今回のミサイル発射訓練を視察した金正恩(キム・ジョンウン)委員長の発言を「朝鮮中央通信」(9月16日)が詳細に報じている。

 「われわれの最終目標は米国と実際の力のバランスを取って米国執権者の口からむやみにわが国家に対する軍事的選択だの、何のというたわごとが出ないようにすることだ。米国にとって対処不可能な核の反撃を加えられる軍事的攻撃能力を引き続き質的に固めながら、真っ直ぐに疾走しなければならないと語った(略)今やその終着点にほとんど到達したのだから、全国家的な力を集中して結末を見なければならないと力説した」

 この発言には重要な意味がある。国家の力を集中して続けてきた核・ミサイル開発は、その完成が近いとしたのだ。つまりそれらの実験は、それほど遠くない時期に停止される可能性が出てきた。

 そして「結末」という言葉は、米国との交渉を指しているのだろう。北朝鮮が、国民生活や外交関係などを犠牲にしながらも、核・ミサイル開発に国力を注いできたのは、米国による体制保障を得るためである。米国まで到達する核兵器搭載ミサイルが完成しなければ、その交渉は成功しないと考えているのだ。これは今までの最高指導者たちが、米国との交渉に失敗したことを教訓としているのだろう。

 「国連安保理」などがさらに厳しい制裁を実施しても、北朝鮮の核・ミサイル技術が完成することが明白になった。韓国や日本も核武装して核軍拡の泥沼へ進むのか、米国が北朝鮮との真剣な対話で妥協点を見出すのか。そのどちらかしか選択肢はない。

北朝鮮は制裁に耐えられる社会

 9月11日、「国連安全保障理事会」は、6回目の核実験を行なった北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対し、追加制裁の決議案を全会一致で採択。米国は中国とロシアの賛成を得るため、当初の厳しい内容を緩めた。

勝利化学連合企業所
羅先(ラソン)経済特区にある製油所「勝利化学連合企業所」(2015年6月22日撮影)

 決議内容は、北朝鮮へのガソリンと軽油などの石油関連品の輸出を30パーセント削減した200万バレルに制限し、年間7億6000万ドル(約830億円)と推定されている北朝鮮からの繊維製品の輸出を禁止した。

 「国連安保理」による北朝鮮への制裁は、2006年からこれで9回目。今回は石油輸出の制限といったかつてない厳しい内容だが、北朝鮮の核・ミサイル開発に打撃を与えることはまったくないだろう。

 それは北朝鮮という国は、輸出入に大きく依存しない自立した社会を長年にわたって目指してきたからだ。1950年代半ばに中国とソ連(当時)の対立が進む中で、北朝鮮はそれら大国に左右されない自力更生の道を模索。マルクス・レーニン主義を独自解釈したその考えを「主体(チュチェ)思想」とした。

 それ以来、政治・経済・文化などにおいて外国に左右されない社会づくりのために、地道な努力をしてきたのである。1990年代にはソ連崩壊や水害・干ばつの自然災害などがあって大きく後退したこともあるが、歩みはゆっくりではあるものの着実に独自の道を歩んできた。

 韓国銀行は7月21日、北朝鮮の2016年の国内総生産(GDP)が前年比で3・9パーセント増加したことを発表。今回の追加制裁でその経済成長率が続くのは困難と思われるが、制裁で大きく後退することはあり得ない。

 13日に北朝鮮は、追加制裁に対して「外務省報道」を発表。「わが国の正々堂々たる自衛権を剥奪し、全面的な経済封鎖でわが国家と人民を完全に窒息させることを狙った極悪非道な挑発行為の産物。峻烈に断罪・糾弾し、全面的に排撃する」と非難した。

 おそらく北朝鮮は、核・ミサイルが完成するまで新たな実験を続けるだろう。米国は制裁強化や軍事攻撃の威嚇によって北朝鮮を力で屈服させようとしているが、その行きつく先は韓国と日本を巻き込んだ戦争である。トランプ政権がそれを避けようとするなら、対話へと舵を切るしか選択肢はないのだ。

北朝鮮への米国の軍事攻撃に反対の声を!

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と米国との軍事的緊張は極限状態になった。核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮への新たな制裁として原油供給の停止が焦点となっており、安部首相が米国よりもその推進に積極的だ。

平壌市内の通行人
平壌市内の裏通りを行き来する市民たち(2017年8月16日撮影)

 しかし、原油供給停止という制裁は極めて危険だ。1941年に日本がアジア太平洋戦争へ突入した理由のひとつが、米国による日本への原油の全面輸出禁止だった。

 もし北朝鮮への原油供給が止まったら、農業生産低下による餓死と冬の寒さによる凍死で相当な数の死者が出るだろう。極めて非人道的な措置である。

 トランプ政権はこうした制裁強化だけでなく、北朝鮮の核・ミサイル施設への限定軍事攻撃を真剣に検討しているのは間違いない。

 それに踏み切った場合の北朝鮮による反撃で、米国・韓国・日本の被害がどれだけ出るかを最大の判断基準としていることだろう。1968年の「プエブロ号事件」や1994年の「核危機」などで、米国は北朝鮮への核兵器を含む軍事攻撃を真剣に検討した。ところが、韓国での死亡者数があまりにも多いために攻撃を断念してきた。

 完成しているかどうかはともかく、核兵器とその運搬手段をほぼ獲得した北朝鮮への軍事攻撃は、もはや不可能になったと判断するのが妥当だろう。だが迷走飛行をしているトランプ大統領が、そう思うかどうかは極めて未知数だ。米国の安全のためには、極東アジアで膨大な数のアジア人が死ぬことも仕方ないと判断する可能性がある。

 今の危機は、北朝鮮と米国のチキンレースによるものだ。体制保証を得ようとする北朝鮮が、それに応じなければ核・ミサイルで攻撃するとしているのはグァムや米本土である。日本への威嚇は、安倍政権があまりにもトランプ政権に追随しているためだ。

 こうした危機に陥っているにもかかわらず、日本の中で米国による軍事攻撃に反対する声がほとんど聞こえてこない。米朝対決の状況の中で、米国を批判することは間違いだとでも思っているのだろうか?!

 北朝鮮に対する評価は異なっていても、米国による軍事攻撃に反対する声を直ちに上げるべきだ。ベトナム戦争の際の「殺すな!」というスローガンを再び掲げるべき時がまさに今だ。

北朝鮮が「反米」を掲げる理由とは

「週刊金曜日」2017年5月19日号に掲載した記事を紹介する。

朝鮮が米国に求め続けてきたのは平和条約の締結

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が5月14日早朝、新型弾道ミサイルを発射した。朝鮮はなぜ、「反米」を掲げ、核・ミサイル開発を続けるのか。緊張が高まり始めた4月、14日間に及ぶ現地取材を敢行したジャーナリストがその理由に迫った。

軍事パレードの兵士
軍事パレードでの一糸乱れぬ行進(2017年4月15日撮影)

 地面が振動で小刻みに揺れている。さまざまな軍服の兵士集団が、高く振り上げた足で地面を叩きながら行進しているからだ。2017年4月15日、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の首都・平壌(ピョンヤン)。金日成(キム・イルソン)主席生誕105年の祝賀行事での最大の見せ場として、軍事パレード(閲兵式)が行われた。

 パレード後半では、米国本土まで到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる新型ミサイルなど最新兵器が公開された。朝鮮外務省が、祝賀行事の取材のために入国を認めた海外メディアは123人。そのうちの最多は23人の米国である。今回のパレードは、米国・トランプ政権への強力な威嚇として行われた。

 だが平壌だけでなく地方都市でも、軍事的緊張や制裁の影響はまったく感じられない。それどころか、車で通り過ぎたほとんどの地方都市では、図書館など公共施設の建設工事が盛んに行われている。また、地方の幹線道路をたくさんの大型トレーラーが行き来しているのも見た。舗装状態が悪い道路は多いが、物流は活発に行われているようだ。

反米教育のための博物館

 昨年11月8日の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選。私は新大統領への朝鮮の評価を取材するため、昨年12月初旬と年明けに取材申請をしたものの認められなかった。今回、4月8日~21日までの許可が出たのは、トランプ政権への評価が定まったからだ。

信川博物館
「信川の血の教訓を忘れるな!」とのスローガンを掲げた信川博物館(2017年4月14日撮影)

 朝鮮には、米国をどのように捉えているのかが明確に分かる場所がある。米国との歴史について展示しているいくつかの博物館だ。

 そのうちの一つの「信川(シンチョン)博物館」は黄海南道(ファンヘナムド)信川郡にあり、平壌市から車で約90分。雨の中を女性の解説員が出迎えてくれた。
 「この博物館は反帝・反米教育の重要拠点の一つです。金日成主席は(朝鮮)戦争休戦の17日後にこの信川を軍服姿で訪れました。そして米国の蛮行を暴露する博物館を建てるようにと指導され、1960年6月に開館しました」。

 朝鮮戦争は1950年 6 月25日に始まり、53 年7月27日に休戦。米軍が一時的に占領した38度線以北の数多くの場所で、住民が集団虐殺されたという。そのうち、もっとも死者が多いのは信川である。米軍占領下の50年10月17日から12月7日までの間に、3万5383人が殺されたという。パブロ・ピカソが51年に発表した「朝鮮の虐殺」という絵は、この事件を描いたものだ。

 「信川博物館」の年間参観者は国内からは30~40万人で、海外からは約2万人。朝鮮戦争をともに戦った中国やロシア(当時はソ連)だけでなく、米国・英国・オーストラリアなどの「敵国」だった国からも訪れるという。

 「金正恩(キム・ジョンウン)委員長は2014年11月、新しい時代の反帝・反米教育をするため立派に建て直すようにと現地指導されました。翌年2月に着工してから4カ月間足らずで完成したんです」
 このことに、金委員長の米国との対決姿勢が明確に表われている。「信川博物館」と同じように米国に関する展示をしている「朝鮮革命博物館」(1948年開館)と「祖国解放戦争勝利記念館」(53年開館)も建物の老朽化がひどかった。だが金正恩時代になると、全面的な改装・改築を実施。米国との敵対関係の解消にはまだ長い時間がかかるとの判断と、大国に翻弄されてきた歴史を若い世代へ伝承することが理由だろう。

 以前の「信川博物館」には、何カ所もある虐殺現場での発掘時の写真や人々の遺品が数多く展示されていた。新博物館はそれに加え、非常にリアルな人形を使った精巧なジオラマを多用して凄惨な事件現場を再現している。

 展示は、信川での住民虐殺は「米軍による戦争犯罪」との主張が貫かれている。だが韓国には、社会主義政権と対立していた住民らによるものとの説がある。また77年に平壌で出版された『アメリカ帝国主義は朝鮮戦争の挑発者』には、信川を占領した米軍司令官が「反動的地主、悪質宗教者、高利貸業者、やくざ者など人間の屑をかき集めて、虐殺蛮行にかり立てた」と記している。私は解説員に、米軍と民間人のどちらによる虐殺が多かったのかと聞くと「キリスト教徒による虐殺の事実もあるが、基本的に米軍が張本人」との答えだった。米国との敵対関係が長期に及ぶ中で、「米軍による虐殺」と単純化されてきたようだ。

 どの博物館も「朝鮮人民の不倶戴天の敵」として米国を徹底的に批判し「反米」を煽っている。それは米国と友好的な関係になる日まで、この国を守るために必要なのだろう。

米国との対決の歴史

 朝鮮が米国と決定的な敵対関係になったのは、朝鮮戦争で激しく戦ったからである。朝鮮側の死者は、軍民合わせた約250万人と中国軍の約100万人。韓国側は軍民約150万人と米軍の約5万人と推定される。また物的被害は、米軍による徹底した無差別の空爆・砲撃により38度線以北は完全に焦土と化した。そして米軍は細菌兵器も使用。日本陸軍「731部隊」が行なった細菌戦研究を利用し、コレラ菌・ペスト菌などで汚染させた昆虫を詰めた爆弾を各地に投下したと非難している。

 米国はその後も、朝鮮への軍事攻撃を何度も実行しようとした。68年1月、米国海軍の情報収集艦「プエブロ号」が朝鮮人民軍によって拿捕。米国は報復として70キロトンの原爆を投下することを検討した。93年、朝鮮は「国際原子力機関」による特別査察を拒否。そして「核拡散防止条約」と「国際原子力機関」からの脱退を表明した。これに対して米国・クリントン政権は、寧辺(ニョンビョン)の核施設への空爆を準備。だが朝鮮による反撃で、米韓軍と民間人150万人以上が死亡すると推計されたために攻撃は断念された。

 朝鮮にすれば、少しでも油断したら圧倒的な軍事力を持つ米韓によって核兵器を含む攻撃を受け占領されるという状況が続いてきた。そのためそれを防ぐ「最強の抑止力」として、核兵器とその運搬手段の開発を進めているという。昨年6月にインタビューした朝鮮外務省の趙炳哲(チョ・ビョンチョル)研究員は「わが国が核兵器開発をしなければならないよう押しやったのは米国である」と述べた。

 朝鮮が米国に求め続けてきたのは、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和条約」にすること。それによって、米国からの日常的な軍事的脅威をなくしたいのだ。このごく当然な要求を、朝鮮戦争休戦から64年間も米国は拒み続けてきた。米国は朝鮮戦争で、多大な人的被害を出しながらも朝鮮に勝てなかった。そして「プエブロ号」事件では、謝罪文に調印するという敗北を味わった。この「屈辱の歴史」が、朝鮮戦争の終結に米国が取り組まなかったことの背景にある。

 現在の米朝の軍事的緊張は、第2の朝鮮戦争を引き起こしかねない。明確な朝鮮政策のないトランプ政権は、最大の軍事的威嚇を実施。対する朝鮮は、戦争を覚悟して米国との交渉実現のための賭けに打って出た。5月14日には、新型の中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12型」を発射した。韓国では朝鮮との対話路線を打ち出す文在寅(ムン・ジェイン)大統領が誕生し、5月8日~9日に米朝が非公式協議。そのことで生まれた緊張緩和の期待に冷水を浴びせた。朝鮮は、核・ミサイル開発が完成した状態での米国との交渉でなければ目的を達成できないと考えているのだろう。

日本の対米追随を批判

 4月20日に単独インタビューした宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は、米国に関係しても積極的な発言をした。
 「15日の閲兵式で登場した戦車などには『朝鮮人民の敵である米帝を徹底的に消滅しよう』と書かれていました。他国は米国の脅しに屈することがあっても、わが国は米国ととことんやるという立場です。その状況は成熟しています」

 このような米国への強気の発言に続けて日本について言及した。
「問題は日本が米国に追随していること。米国よりも先に、日本を攻撃してもおかしくないのが今の状況です。我が国が忍耐強く我慢しているのは、朝日人民の友好を大切にしているからです」

 安倍政権はこの状況においても「北朝鮮の脅威」を煽り、トランプ政権による朝鮮への軍事的冒険に積極的な支持と自衛隊による軍事協力をしている。その極めて軽率で危険な行為に対し、マスメディアは積極的な批判をせず、広汎な市民運動も起きていない。日本がするべきことは、トランプ政権の朝鮮への強硬姿勢を制止し、朝鮮との対話へ踏み出すように働きかけることだ。そして日朝間の諸問題を解決するために、朝鮮との独自の外交交渉を始めるべきだろう。

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北朝鮮 「北風」ではなく「太陽」が必要

 韓国大統領選挙で、最大野党「共に民主党」前代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選した。米国・トランプ政権は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との対話路線を進めようとする文氏の当選を見越して、その前に北朝鮮への最大限の軍事的圧力を加えていた。

編隊飛行
「金日成(キム・イルソン)主席生誕105年」を祝しての編隊飛行(2017年4月15日撮影)

 そしてトランプ政権は韓国の新大統領就任に合わせ、圧力一辺倒の方針を手直ししようとしている。米国のティラーソン国務長官は5月3日の講演で、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合の約束を公表。この内容は中国にも伝えられたという。

(1)体制転換を求めない
(2)金正恩(キム・ジョンウン)政権崩壊を目指さない
(3)北緯38度線を越えて米軍は侵攻しない
(4)朝鮮半島の再統一を急がない

 ティラーソン提案は一定の評価はできるが、北朝鮮がこれを簡単に受け入れることは考えられない。北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄するとしたら、米国から絶対に軍事攻撃を受けない状況が完全に担保されること。そのためには朝鮮戦争の終結と、米国との国交正常化が必要だろう。トランプ大統領が、そこまで踏み込んだ交渉をする決意があるかどうかだ。

 ノルウェーで、北朝鮮外務省で対米交渉を担当する崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と、米国の民間代表団とが非公式接触を実施。米朝の妥協点を見出すために、重要な役割を果たすかも知れない。

 先に、平壌(ピョンヤン)市内のガソリンスタンドに車の列が出来ているとの報道があった。しかし8日に北朝鮮から帰国した人の話では、そのような状況はなかったという。「ガソリン供給が止まる」という風評が一時的に流れたのかも知れない。

 北朝鮮に対する制裁は確実に強化されつつあるが、私が4月中旬に見た平壌や地方都市のようすからすれば、まだまだ持ちこたえることが出来るだろう。軍事力や制裁の強化といった「北風政策」ではなく「太陽政策」でなければ、北朝鮮との緊張緩和が進まないのは確かだ。

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北朝鮮 「核兵器禁止条約」賛成から不参加への理由

 核兵器削減が一向に進まない中で、「核兵器禁止条約」は核兵器を法的に禁止する条約を制定しようという画期的な取り組みである。

原爆ドーム
広島の原爆ドーム(2009年4月1日撮影)

 昨年10月、「国連総会第1委員会」での「核兵器禁止条約」制定交渉開始を定めた決議採択に、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は賛成した。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は5月の労働党大会で「世界の非核化実現のために努力する」と表明したことの反映と思われる。

 今年3月27日から、100カ国以上が参加して国連本部でその交渉が始まった。米国などの核保有国や約20カ国は参加しないばかりか、条約に反対して参加国を批判。原爆被爆国である日本もそれに追随して参加しなかった。

 岸田外務大臣は、核兵器保有国が参加していない交渉は、非保有国との対立を深め逆効果になりかねないと不参加の理由を説明。これは詭弁でしかなく、米国の核の傘にすがるみじめな日本の姿が世界中にさらけ出された。「日本被団協」など被爆者たちは、この日本政府の対応を厳しく批判した。

 そして、昨年は「条約」交渉に賛成していた北朝鮮も参加しなかった。「朝鮮中央通信」(24日付)は、米国が大規模で侵略的な合同軍事演習をしているため、核兵器を中心とした国防力強化が死活的なので参加しないことにしたと説明する。

 米国による軍事攻撃の可能性が高まる中で、それを防ぐ最大の抑止力としての核兵器をより強化しようとしているのだ。6回目の核実験の準備は完了したといわれている。つまり、北朝鮮が方針を転換した理由は、トランプ政権になって米国との軍事的緊張状態が一気に高まったからだ。

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北朝鮮 米国務長官の「20年間」発言の意味

 3月15日、米韓合同軍事演習に参加している米軍の戦略爆撃機「B1」2機が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と中国への威嚇のために韓国上空を飛行。同日には原子力空母「カール・ビンソン」が釜山へ入港した。

板門店将校
板門店(パンムンジョム)の人民軍将校(2016年8月21日撮影)

 その同じ日、レックス・ティラーソン米国務長官が来日。17日には訪韓し、北朝鮮へのトランプ政権の姿勢を次々と表明した。

 注目すべきは「米国政府のこの20年間の北朝鮮政策は失敗で、異なるアプローチが必要。あらゆる選択肢がテーブルにある」と述べたことだ。この「20年」とはどういう意味があるのか。

 北朝鮮は1993年に「核拡散防止条約(NPT)」から脱退を表明。交渉に失敗したクリントン政権は、寧辺(ヨンビョン)にある核関連施設を空爆する準備をした。だが北朝鮮の報復によって100万人以上の韓国人が死亡すると推定されて、韓国の金泳三(キム・ヨンサンム)大統領が反対。そのため攻撃は中止された。結局、クリントン政権「米朝枠組み合意」を行い、核開発凍結の見返りとして電力供給のための軽水炉の供与に踏み切った。

 その後のジョージ・W・ブッシュ大統領は、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難するなど強硬策を行ったが、政権末期になって「テロ支援国家指定」を解除するなど対話へと転換した。

 次に誕生したオバマ政権は、米国との「平和条約」締結を求めて核・ミサイル開発を推進する北朝鮮に対して「戦略的忍耐」の名の下に何の対応もしなかった。ティラーソン長官は、こうした交渉と破たん、そして放置という「20年間」を否定し、北朝鮮政策を大きく転換するとしているのだ。

 またティラーソン長官は「今は北朝鮮と対話をする時ではない。挑発をエスカレートさせたら適切な措置を取る」と述べており、政策転換によって選択するのは軍事的対応と推定される。

 米国が北朝鮮へ軍事攻撃をした場合、それへの反撃によって韓国や日本に甚大な被害が出る。ティラーソン長官は「軍事的な葛藤までいくことを望んでいない」とも語っており、北朝鮮への軍事攻撃の脅しは牽制することが目的とみることもできる。

 だが外交経験が不足し政策が不安定なトランプ大統領が、「イスラム教徒の入国禁止」のような信じられないほど愚かな選択をする可能性はある。また、軍事的な緊張を極限まで高めていることは、偶発的な衝突が大規模戦闘へと発展する危険性がある。

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北朝鮮 ゴルフではなく危機回避の働きかけを

 米国・トランプ政権の動向を世界が注視しているが、朝鮮半島で緊張が極度に高まっていることへの関心は低い。そうした中で、米軍の戦略兵器が朝鮮半島周辺に次々と配備されている。

平壌市内
大規模な建設工事が続く平壌市内(2016年8月23日撮影)

 「朝鮮日報」2月11日付によれば、6日に「B1Bランサー戦略爆撃機」数機がグアムのアンダーセン空軍基地に再配備。6日~7日にはステルス戦闘機「F22ラプター」約10機が米国本土から日本へ移動。このF22は、韓国・烏山(オサン)の米空軍基地からわずか7分で平壌(ピョンヤン)への精密爆撃ができるという。

 そして10日には原子力空母「カール・ビンソン」(排水量9万3000トン)がグアムに到着した。80-90機もの艦載機と約10隻の護衛艦を擁する空母機動部隊が、西太平洋で活動するのは異例とのこと。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が、2月16日の金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日に、衛星打上げロケットないし大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を実施する可能性がある。

 朝鮮半島周辺へ配備された米戦略部隊は、この発射実験を牽制し3月からの米韓合同軍事演習「キーリゾルブ」と「フォールイーグル」に参加するとみられる。

 マティス米国防長官が最初の外国訪問先として韓国を選んだのは、北朝鮮が米国本土に到達する核搭載の弾道ミサイルを完成させようとしているからだ。マティス長官と韓国・韓民求(ハン・ミング)国防省は、「キーリゾルブ」を例年よりも強化することで合意した。

 トランプ政権は北朝鮮に対し、対話よりも軍事攻撃での「解決」を選択する方向へ進みつつある。近く予想される衛星打上げロケットないしICBMの発射実験へ米国が強硬措置をとるならば、韓国だけでなく日本も一気に激流に巻き込まれるだろう。

 安倍首相は、トランプ大統領とゴルフをしている場合ではない。「第2の朝鮮戦争」を回避するために、北朝鮮との対話を働きかけるべきだ。

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トランプ政権は北朝鮮へ3月に軍事攻撃か?

 米国トランプ大統領が政権スタート時には北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との対話を模索するのではとの希望的観測は見事に打ち破られ、米朝関係は一気に極めて危険な状況に突入しようとしている。

将校
板門店(パンムンジョム)の朝鮮人民軍将校(2016年8月21日撮影)

 ジェームズ・マティス米国防長官は、就任後の初訪問地として韓国と日本を選んだ。トランプ政権は北朝鮮の米国へ到達する核・ミサイルを深刻に捉え、その開発を阻止するという決意の表明である。

 マティス国防長官は韓国で「米韓同盟はアジア太平洋地域の平和と安定を支える重要な柱。いかなる核兵器使用に対しても効果的・圧倒的に対応する」と表明。そして、サ-ド(THAAD・高高度ミサイル防衛システム)の計画通りの配備を確認し、3月の米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」をさらに強化して実施することに合意した。

 今までも米韓合同軍事演習は南北間の軍事的緊張状態を極めて高め、一色触発の状態だった。それは「演習」という名目で、最新兵器や特殊部隊が北朝鮮にそのまま攻め入ることが出来てしまうからだ。

 それでもオバマ政権時代は、北朝鮮を軍事的に威圧するための恒例行事的なものだった。だがトランプ政権は、それを変えるかも知れない。南北間で極度に緊張が高まっていない状況であっても、侵略として国連や国際社会から非難されるのを承知の上でいきなり軍事攻撃する可能性がある。

 韓国の大統領選挙は4月下旬か5月上旬に実施される。2月1日、有力候補の潘基文(バン・ギムン)前国連事務総長が出馬断念を表明。これで最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表が極めて有利になった。

 文在寅氏であれ、その次に支持率の高い李在明(イ・ジェミョン)城南(ソンナム)市長であれ、北朝鮮との対話・融和政策へ舵を切るのは確実。つまり韓国で新政権が誕生したならば、トランプ政権は北朝鮮への軍事攻撃の機会を失うのだ。その前に、北朝鮮へダメージを与えようとするかも知れない。

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トランプ政権の北朝鮮政策が見えてきた!

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、1月1日に「新年の辞」を発表。金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代は「労働新聞」などの「共同社説」として施政方針を打ち出していたが、2013年からは金委員長が演説で公表するようになった。

平壌高層ビル群
「主体(チュチェ)思想塔」からの平壌市内(2015年6月27日撮影)

 今年の内容にも注目すべき点がいくつかある。まず一つは、演説の最後に異例にも最高指導者としての苦悩を語ったことだ。

 「新しい一年が始まるこの場に立つと、私を固く信じ、一心同体となって熱烈に支持してくれる、この世で一番素晴らしいわが人民を、どうすれば神聖に、より高く戴くことができるかという心配で心が重くなります。いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られながら昨年を送りましたが、今年は一層奮発して全身全霊を打ち込み、人民のためにより多くの仕事をするつもりです」

 他の注目点は、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」の発射実験の現状に触れたことだ。
 「帝国主義者の日増しに悪らつになる核戦争の脅威に対処したわれわれの初の水爆実験とさまざまな攻撃手段の試験発射、核弾頭爆発実験が成功裏に行われ、先端武力装備の開発が活発化し大陸間弾道ロケット試験発射準備が最終段階に入ったことをはじめ、国防力強化のための驚異的な出来事が相次いで連続して起きたことによって、祖国と民族の運命を守り、社会主義強国建設の偉業を勝利に向けて前進させていくことのできる強力な軍事的保証がもたらされました」

 北朝鮮は米国による体制保障を得るために核・ミサイル開発を進めてきたのであり、これはトランプ次期政権に対話を求めるメッセージである。これに対して米国務省のカービー報道官は「(北朝鮮は)現時点で核弾頭を大陸間弾道ミサイルに搭載する技術を持っていない」とした。

 そしてトランプ次期大統領は3日、ツイッターで発言。「北朝鮮は米国本土まで到達可能な核兵器開発の最終段階に入ったと宣言したが、米国政府としてはそうはさせない(North Korea just stated that it is in the final stages of developing a nuclear weapon capable of reaching parts of the U.S. It won't happen!)」とした。これは明らかに北朝鮮への強い牽制である。

 この発言に対して中国政府はその日の記者会見で、北朝鮮問題をエスカレートさせることは避けるように願うとした。

 韓国の「朝鮮日報」(1月4日付)によれば、トランプ次期大統領が先月に米情報機関から初めて受け取った機密報告書は北朝鮮の核問題に関するものだった。また先月末には、同氏に最も近い人物が訪韓して「国家情報院」の李炳浩(イ・ビョンホ)院長と極秘で会ったという。

 このことはトランプ政権が外交政策において、北朝鮮を極めて重視している可能性があることを示している。

 日本では、トランプ政権が北朝鮮との対話路線に踏み出すのではという希望的観測がまだ多い。だがトランプ政権は北朝鮮への強硬派が支えようとしており、たとえ対話を試みたとしても成功する可能性は低いだろう。

 対話路線が破たんすれば、米韓が訓練を繰り返してきた北朝鮮への軍事攻撃を実行する可能性がある。その布石のような動きが韓国にある。4日に韓国「国防省」は、「国防政策報告」を公表。「朝鮮半島有事の際に、平壌(ピョンヤン)などへ潜入し北朝鮮指導部を排除する特殊部隊を、今年の早い時期に創設する」とした。この「斬首作戦」部隊創設は、予定を2年前倒しにしたものだ。

 朝鮮半島情勢は、一気に危険な状態に陥るかも知れない。今の日本のあり方では、北朝鮮へ米韓が軍事攻撃をすればそれに加担することになり、報復を受ける可能性もある。今こそ日本外交は、戦略的な視点に立ち対米追随から脱却すべきだ。

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トランプ政権の北朝鮮政策を予測する

 選挙公約と実際の政策とは異なるのではないか、という日本などの希望的観測を打ち砕き、米国のドナルド・トランプ次期大統領はメキシコ国境への壁の建設や就任初日の「環太平洋連携協定(TPP)」離脱を改めて表明した。東北アジアの安定と平和を左右する、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対するトランプ氏の北朝鮮政策はどうなるのか。

プエブロ号
平壌(ピョンヤン)市内に係留されている「プエブロ号」(2016年8月22日撮影)

 今年1月6日の北朝鮮による核実験に対し、トランプ氏はその翌日に「金正恩(キム・ジョンウン)は頭がおかしい。これ以上、核でいたずらできないように終わらせなければならない」と述べた。

 しかし5月17日には「金正恩氏と話し合うことに何の問題もない」とし、6月15日には「金正恩氏が米国へ来れば、ハンバーガーを食べながらより良い交渉をする。核開発をしないように説得できる可能性は10~20パーセントある」と語った。両極端の主張をしてきたトランプ氏には、明確な北朝鮮政策がなかったのは確かだ。

 トランプ氏のハンバーガー交渉発言に対し、翌日の16日には楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ)最高人民会議常任委員会副委員長は「悪いことではない」と述べた。だが北朝鮮は、トランプ次期政権への評価を公式にはまだ行っていない。

 私は今年6月1日に、北朝鮮外務省の趙炳哲(チョン・ビョンチョル)日本担当研究員(当時)へインタビューを行った。その中で、トランプ氏が北朝鮮との交渉に話に積極的な発言をしたことについて、どのように受け止めているかについても聞いた。

 すると「米国政府の朝鮮敵視政策が続く中で、トランプが選挙のために何を話しても相手にしない」とのそっけない返答だった。北朝鮮外務省内でこの時までに、トランプ政権を想定した議論はされていなかったようだ。

 北朝鮮はトランプ氏当選が決まってから、去りゆくオバマ大統領への批判を次々と発表。
 「核放棄まで制裁・圧力を加えながら待つというオバマの『戦略的忍耐』は『戦略的敗北』に終わった。今や、東方の核強国(北朝鮮)をいかに相手にすべきか決心すべき時」(『朝鮮中央通信』11月9日付)
 「(オバマ政権は)核保有国と対峙するという困難な責任を、次期政権に負わせた」(『労働新聞』11月10日付)
オバマ現政権を批判することで、トランプ新政権に対して非核化を前提とした対話には応じないとの基本姿勢を改めて示したのである。

 その後、トランプ次期政権に向けてのメッセージを出すようになった。11月18日には徐世平(ソ・セピョン)国連代表部大使が、米国が在韓米軍を撤退させ朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和条約の締結の姿勢を示せば、関係正常化に向かう可能性があるとした。トランプ氏が選挙戦中に、在韓米軍の撤収を語ったことを意識してのものだ。

 そして、北朝鮮の核・ミサイル開発での原則的立場を立て続けに表明している。
「朝鮮半島の情勢激化の根源がわれわれの核・ミサイル実験にあるのではなく、まさに米国の対朝鮮敵視政策と核脅威にある」(外務省「備忘録」11月21日)
 「われわれの核抑止力は、協議のテーブルの上にあげて論議する政治的駆け引き物や経済的取引物ではない」(『労働新聞』11月25日付)

 オバマ政権が8年間も北朝鮮との交渉を頑なに拒んできたため、北朝鮮は自衛のためとして核・ミサイル開発を続けてきた。その結果、核ミサイルを米国へ打ち込むことが出来るほど、その能力を飛躍的に高めた。もはや交渉か、全面戦争を覚悟した軍事的圧力強化のどちらかを選択することが迫られている。

 トランプ氏が、政権スタート時に北朝鮮との交渉をしようとする可能性はある。もしそうであれば、関係国での調整に手間がかかる「6カ国協議」ではなく、2国間での直接交渉を選択するだろう。

 首脳会談になるかどうかはともかく、米朝交渉が実現した場合に北朝鮮が受け入れる結果は決まっている。それは米国が朝鮮戦争の休戦状態に終止符を打ち、米朝平和条約を締結して北朝鮮の体制保障をすることだ。それが実現したならば、米朝関係の急速な改善と東北アジアの非核化が進むだろう。

 だが、この米朝交渉の実現はそう容易ではない。次々と発表されているトランプ次期政権の重要ポストには保守強硬派が目立ち、トランプ氏の北朝鮮政策を左右するだろう。

 11月16日には国務長官の有力候補であるジョン・ボルトン元国連大使は、韓国が多くの対価を払う北朝鮮への先制攻撃はないが米朝対話の意向はないとした。18日には、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に決まったマイケル・フリン元国防情報局長は「米韓は核心的同盟であり、トランプ政権は北朝鮮の核問題を優先的に扱う」と言及。

 そしてトランプ氏の外交安全保障顧問を務める元CIA長官のジム・ウールジー氏は、北朝鮮の核関連施設への爆撃を主張している。これらの人たちは、北朝鮮の核開発の解決方法は政権の転覆だとする。

 トランプ政権が交渉での解決に踏み出せなかったり失敗したりした場合、朝鮮半島の軍事的緊張は極めて危険な状態になるだろう。米韓はすでに、北朝鮮へいつでも先制攻撃が出来る状態になっている。

 米韓両軍は合同で北朝鮮内陸部へ潜入する「チーク・ナイフ」演習を1990年代から実施。今年は、10月13日から26日まで韓国・群山(クンサン)で行われた。

 参加した米軍は、嘉手納基地を拠点にして約800人の兵力を有する「空軍第353特殊作戦群」。韓国空軍の輸送機で米特殊部隊が降下訓練を行った。この時、北朝鮮への威嚇のために核弾頭装備の弾道ミサイル搭載の米海軍原子力潜水艦「ペンシルバニア」をグアムに寄港させている。

 この演習の目的は、核・ミサイル施設を破壊する陸軍特殊部隊と物資を目標へ正確に送り込むためのもの。先制攻撃をすることになった場合に備えて、今までより踏み込んだ演習内容となった。米韓はこの他にも、10月10日から21日の「レッド・フラッグ・アラスカ」など、特殊部隊の合同演習を繰り返して実施している。

 10月20日の「米韓定期安保協議」では、米軍の戦略爆撃機や原子力潜水艦などの戦略兵器の朝鮮半島への常時配備を推進することが決まった。米韓は北朝鮮に対し、先制攻撃の実施と政権転覆ための準備を着実に進めているのだ。

 このように、1976年に始まった米韓合同軍事演習は内容を大きく変え、核・ミサイル施設の破壊や金正恩委員長など政府首脳部を狙った訓練を繰り返し実施するようになった。

 米国による北朝鮮への軍事攻撃は、決して絵空事ではない。1968年1月23日、米海軍の情報収集艦「プエブロ号」が、元山(ウォンサン)沖で北朝鮮に拿捕された。その際、乗組員82人のうち一人が銃撃を受けて死亡。

 米国はリンドン・ジョンソン大統領の指示で、報復攻撃を検討。米軍戦闘機が70キロトンの核爆弾を投下するという「フリーダムドロップ」作戦が計画された。しかしベトナム戦争が泥沼化し、北朝鮮への攻撃はソ連の参戦があり得る状況だったため、米国は板門店(パンムンジョム)で謝罪文書に署名。深刻な危機は回避された。

 そして1994年3月、北朝鮮は「国際原子力機関(IAEA)」による査察の一部を拒否し、6月には寧辺(ニョンビョン)の実験炉から燃料棒の抜き取りを行った。ウラン濃縮を行うためだ。

 これに対して米国のビル・クリントン大統領は、核施設への空爆を指示。推定100万人の死者を覚悟で、全面戦争へ突入しようとしたのだ。だが韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が、韓国も深刻な被害を受けるとして中止を要請したため攻撃は実施されなかった。このように、米国による北朝鮮への核兵器を含む軍事攻撃は、かろうじて回避されてきたにすぎない。

 米韓政府が軍事攻撃を公然と語るようになり、そのための軍事演習を頻繁に実施するようになったのは、一気に進む北朝鮮の核・ミサイル開発に対しては先制攻撃しかないと考えているからだ。こうした危険な状況に陥っている中で誕生するトランプ政権は、交渉による平和的解決の道を選択することがはたして出来るのだろうか。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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