北朝鮮はなぜ南北首脳会談に同意したのか

 韓国大統領府は3月6日、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との首脳会談を4月後半に板門店(パンムンジョム)で実施すると発表した。また北朝鮮は、軍事的脅威がなくなり体制の安全が保障されるならば、核を保有する理由はないと表明したという。

黎明通り夜景
ライトアップが続く黎明通り(2018年3月2日撮影)

 そして南北対話中は核・ミサイル実験をせず、米国と非核化や関係正常化に向けた対話をする意向があるとも表明した。

 河野太郎外務大臣はその発表の前に、北朝鮮が「ほほえみ外交」をするのは制裁が効いているからだとした。しかし2月20日から3月3日まで北朝鮮で取材をした私は、そうではないと断言する。

 首都・平壌(ピョンヤン)だけでなく地方都市においても、車の通行量はほとんど減っていなかった。また、街ごとライトアップしている黎明(リョミョン)通りなどを見ても電力事情に変化はなかった。

 北朝鮮が南北首脳会談に応じたのは、米国・トランプ大統領がまともに交渉できる相手かどうか分からない状況の中で、韓国との関係改善を先に進めようと方針転換したのだ。

 南北首脳会談では、開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光の再開が話し合われるのは確かで、おそらくそれは合意に至るだろう。

五輪での北朝鮮・韓国の融和を戦争回避へ

 2月9日の「平昌(ピョンチャン)五輪」の開会式は実に感動的だった。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国の選手・役員たちが「統一旗」を掲げて合同で入場行進し、アイスホッケー選手2人が聖火をともに運んだ。

祖国統一3大憲章記念塔
平壌(ピョンヤン)市に建つ南北統一のための文書を記念した「祖国統一3大憲章記念塔」(2012年4月11日撮影)

 この日、平壌から航空機で、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党宣伝扇動部副部長など北朝鮮の高官級代表団が韓国へ入った。北朝鮮は一足先に「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」や応援団などを送り込んでおり、並々ならぬ意気込みだ。

 安倍首相は、韓国政府に「北朝鮮のほほえみ外交に騙されるな」と牽制し、南北融和の動きを懸命に阻止しようとしている。

 米国・トランプ政権は、東アジアで膨大な死傷者が出ることを承知で、北朝鮮への先制攻撃作戦「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」を検討している。1月31日の米軍情報誌「ミリタリー・タイムズ」は、米国のヘーゲル元防長官が、米国が限定攻撃を実施した場合、北朝鮮による反撃で全面的な核戦争に発展する懸念が強いと報じた。

 「パラリンピック」が終了すれば、米国は延期している「米韓合同軍事演習」を実施しようとしている。そうすれば危険な緊張状態が戻り、最悪の場合は米国の先制攻撃が行われる可能性がある。

 こうした第2の朝鮮戦争を止めるには、トランプ大統領と安倍首相が語る「北朝鮮への最大限の圧力」ではない。長期の制裁の中で経済発展までさせてきた北朝鮮は、これからも耐え続けるだろう。

 米国の「ジョンズ・ホプキンズ大学」の北朝鮮分析サイト「38ノース」が出した米朝での戦争による被害想定は、最悪の場合の死者は「ソウルで203万人」「東京で180万人」。これには、米軍基地がある他の都市や、北朝鮮での被害が入っていないので、数百万人で済まない可能性は高い。

 戦争以外の選択肢は、南北の融和を米朝対話へとつなげるしかないのだ。日本の政府とマスメディアはこの動きの足を引っ張り続けているが、これ以外の方法があると思っているのか。

五輪南北交流でトランプ政権は北朝鮮との対話へ進むか

 1月1日の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩(キム・ジョンウン)委員長による「新年の辞」によって、南北関係が一気に緊張緩和へ向けて動き始めている。

祖国統一3大憲章記念塔
平壌(ピョンヤン)市に建つ南北統一のための文書を記念した「祖国統一3大憲章記念塔」(2012年4月11日撮影)

 「新年の辞」は「アメリカ本土全域がわれわれの核打撃射程圏にあり、核ボタンが常に私の事務室の机の上に置かれているということ、これは決して威嚇ではなく、現実であることをはっきり知るべきです」と米国に対しては強い姿勢を示した。

 その一方で韓国に対しては次のように述べた。「今年は、朝鮮人民が共和国創建70周年を大慶事として記念し、南朝鮮では冬期オリンピック競技大会が開催されることにより、北と南にとってともに意義のある年です。(略)われわれは代表団の派遣を含めて必要な措置を講じる用意があり、そのために北と南の当局が至急会うこともできるでしょう」。そして3日には、南北の直通電話が約2年ぶりに再開された。

 現在、米国・トランプ政権による北朝鮮への軍事攻撃がいつ行われるか分からないという状況にある。だがこのオリンピックでの南北交流は、その危険な状況を一気に転換させる可能性がある。南北関係の改善が進めば、トランプ大統領は北朝鮮への軍事攻撃を断念し対話に転じるしか選択肢はなくなるのだ。

 ただ不安要素はある。米国メディアは、北朝鮮が数日以内に人工衛星打上げロケットを発射する可能性を報じている。北朝鮮はこのロケットと弾道ミサイルを明確に区別している。昨年8月には、国際行事への海外からの参加者約200人に対し、「国家宇宙開発局」の技術者たちによる詳細な説明会を「科学技術殿堂」で開催している。

 だが、北朝鮮に弾道ミサイル計画に関わる全ての活動停止を要求する「国連安保理決議1695」は、この人工衛星打上げロケットをその対象に含めている。北朝鮮が自らの主張を通すために、南北の緊張緩和へ向かいつつある状況の中であっても打ち上げる可能性はある。もしそうなった場合、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権が米国と日本からの圧力に耐えて、オリンピックでの南北交流を推進できるかどうかである。

北朝鮮 平壌で見たピカチュウ

 7月22日から日本でもスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の配信が始まった。まだサービスが開始されていない韓国でも、軍事境界線に近い束草(ソクチョ)などでは利用できる。

 北朝鮮と韓国の境界は北緯3 8度線だったが、朝鮮戦争によって軍事境界線に代わった。その位置は、東側地域では38度線より北側にある。このゲームはGPSを使用しているため、38度線以北を韓国ではない地域として設定されているようだ。

 つまり北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)でも、「ポケモンGO」ができる状態にあると思われる。だだし、インターネットに接続できるスマートフォンが必要である。

 取材のために平壌(ピョンヤン)市内の帰国者の自宅へ行くと、居間に置かれたピアノの上にピカチュウがいた。

ピカチュウ
帰国者が大切にしているピカチュウ(2009年4月16日撮影)

 これは帰国者の女性が、日本にいる母親から送ってもらったものだという。大切に飾られているピカチュウから、会うことのできない母親への思いが伝わってきた。

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米韓合同軍事演習は北朝鮮への危険な挑発

 朝鮮半島は、大規模戦闘や戦争の危機に瀕している。

祖国解放戦争勝利記念館
平壌(ピョンヤン)にある朝鮮戦争の博物館「祖国解放戦争勝利記念館」(2014年4月30日撮影)

 米国と韓国は3月7日から過去最大規模の合同軍事演習を開始した。韓国軍30万人、米軍1万7000人が参加。そして米軍は原子力空母や原子力潜水艦、核ミサイルを搭載可能なB2ステルス爆撃機や最新鋭のF22ステルス戦闘機などの戦略兵器を投入する。

 また北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の内陸部へ進攻するための上陸作戦の訓練も行なう。そして米韓の特殊部隊が、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記などの指導部を殺害したり、核関連施設などを破壊・制圧したりする「作戦計画5015」の訓練も実施するという。

 米日韓などは北朝鮮の「核実験・ミサイル発射」を「挑発」としているが、この米韓合同軍事演習はそれと比較にならないほど大規模な挑発行為である。

 今回の軍事演習は北朝鮮への威圧のためというよりも、体制の軍事的壊滅を目指した準備だろう。それに対して北朝鮮の国防委員会は7日、「先制攻撃的な軍事的対応方式を取る」と表明した。

 毎年実施されてきた米韓合同軍事演習によって、大規模な軍事衝突の危機にたびたび陥ったものの、かろうじて回避されてきた。だが今回は、それらの時と状況が大きく異なる。北朝鮮が核兵器の小型化とその運搬手段を獲得し、国連安保理などの厳しい制裁が発動された直後だからである。

 米国・韓国は、軍事衝突を引き起こす危険性を承知で大規模な軍事演習を実施している。そして日本国内にも、その大規模な軍事衝突に日本も備えるべきとか、拉致被害者の米軍による「救出」を望むといった主張が出てきた。

 大規模戦闘や戦争になれば、北朝鮮だけでなく米国も核兵器を使用する可能性がある。そうなれば、朝鮮半島などで数十万、数百万人が死亡するだろう。日本は、南北の緊張をさらに煽るようなことをするのではなく、根本的解決である米朝対話の場を設けるために動くべきだ。

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北朝鮮と韓国の「祖国解放70周年」

 今年は日本による朝鮮植民地支配の終焉から70年。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国では祖国解放70周年である。

「解放70年」の看板
平壌市内の47階建てアパートの前に掲げられた「祖国解放70周年」の看板(2015年6月27日撮影)

「70周年」 記念切手
北朝鮮で発行された解放70周年の記念切手。日本政府の経済制裁により、日本へ持ち帰ると「外為法」違反となるため平壌で複写した(2015年6月27日撮影)

 6月の北朝鮮での取材に続き、8月15日の「光復節」を韓国で6日間にわたって取材した。

 南北は、共同での記念行事が実現しなかったばかりか、非武装地帯での地雷爆発事件や、北朝鮮の8月15日より標準時を30分遅らせる措置などで、最悪な状況に置かれている。


大極旗の風車
ソウル市中心部の多くのビルの壁面には巨大な大極旗が張られた(2015年8月12日撮影)

 そうした中で韓国では、政府・民間でさまざまな記念行事が行われた。ソウルだけでなく、地方都市でも街の中にはあきれるほど大量の大極旗が飾られた。

水曜デモ
日本大使館前の路上で行われた集会(2015年8月12日撮影)

 12日には、ソウルの日本大使館前で日本軍性奴隷被害者3人が参加し「水曜デモ」が行われた。主催者発表で2500人が参加。その多くが、グループで参加した若者たちである。小学生たちもステージに上がった。

 韓国では、性奴隷被害者が日本に謝罪と補償を求めていることへの関心と支持が非常に高い。これは韓国のいかなる政権でも、無視することは出来ない。日本政府が日韓関係を改善しようとするならば、この問題での根本的解決が不可欠であることを痛感した。

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北朝鮮と韓国の戦争記念館はそっくり

 同じ民族同士で戦った朝鮮戦争の記念館が、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国の双方の首都にあります。今年4月に平壌(ピョンヤン)の「祖国解放戦争勝利記念館」を見たこともあり、ソウルにある「戦争記念館」をどうしても見たくなりました。

韓国戦争記念館軍艦
ソウルの「戦争記念館」の軍艦(2014年9月10日撮影)

 ひとことで言うと、体制がまったく異なるにも関わらず、この二つの記念館はコンセプトがそっくりなのです。超豪華で巨大な展示館があり、その前には軍艦から航空機や戦車などの大型兵器が、これでどうだ!というほどたくさん並ぶ。そして戦う兵士らの大きなブロンズ像が置かれている。8月16日のこのブログに掲載した平壌での写真と比較してみてください。

 これは偶然でも、どちらかが真似たということでもないでしょう。南北合わせて70回以上も取材に行き、それぞれの社会を細かく観察してきた私としては、これは“民族性”によるものだと思います。南北分断から来年で70年。同民族なので当然のことですが、まったく異なる社会体制が長期にわたって続いてきたにもかかわらず、物事の捉え方や考え方は同じなのです。戦争で“敵”に勝利したという記念館までが、同じ発想で創られているとは・・・。これは悲しい現実です。

韓国戦争記念館兵士像
「戦争記念館」の戦う兵士のモニュメント(2014年9月10日撮影)

 9月19日のメディア各社の報道によれば、北朝鮮による拉致被害者を含む「日本人調査」の第1回報告が、大幅に遅れそうです。日朝の水面下での交渉で、北朝鮮が求める「万景峰92号」日本入港などの制裁解除追加について合意できなかったことが原因のようです。そもそも「調査は1年程度」とされているにもかかわらず、マスメディアが煽ったこともあり、日本側はあまりにも最初の報告に期待し過ぎていました。
 私は、日朝関係の変化に振り回されることなく、両国間に横たわる諸問題についてマイペースで取材を続けていきます。時にはスクープを狙いながらも・・・。

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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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