米朝首脳会談直前の予断を許さない状況

 今月27日~28日にベトナムの首都ハノイで開催が予定されている米朝首脳再会談に向けた水面下での協議が難航している。

ホーチミン廟
金正恩(キム・ジョンウン)委員長が訪れる可能性があるホーチミン廟(2015年12月23日撮影)

 米国は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に、米朝2カ国による「不可侵宣言」や「平和宣言」を打診していることが判明したという。この「不可侵宣言」や「平和宣言」という拘束力のない「宣言」を、北朝鮮が受け入れることはあり得ないだろう。それは過去に、同じようなやり取りをしたものの失敗した経験があるからだ。

 2003年8月から、北朝鮮の核開発に関する「6カ国協議」が始まった。この時も米国は北朝鮮に「核兵器の完全で検証可能な形での不可逆的な放棄」を求めた。これに対して北朝鮮は、米国が先に見返りを出すべきだと強く反発し、2005年2月に「核兵器保有宣言」を行なうに至った。

 この事態に対して米国は、それまで拒否をしていた2国間協議に応じた。そして2005年9月の「6か国協議第4回協議会」において、「9・19共同声明」の発表となった。

 北朝鮮はすべての核兵器と核計画を放棄し、米国は朝鮮半島で核兵器を保有しないことと核兵器・通常兵器で北朝鮮を攻撃・侵略しないことを確認する、という内容だった。

 危機を乗り越えて生み出されたこの内容は画期的なものだったが、すぐに崩れ去った。米国財務省がマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に、北朝鮮が預けていた2500万ドルを凍結させたのである。
 もちろん北朝鮮は強く反発し、「共同声明」の合意は破綻。つまり北朝鮮とすれば、米国と法的拘束力のない口約束をしても、いとも簡単に破られてしまうということだ。

 北朝鮮が米国との交渉で最終的に求めているのは、米国からの侵攻を受けない明確な保障である。それは朝鮮戦争の「終戦宣言」と、米国との「平和条約」の締結である。その実現のために、市民生活の向上を後回しにしてまで核・ミサイル開発を進めてきた。

 北朝鮮の差しあたっての目標は、制裁の部分解除だろう。私は昨年、2月・6月・9月と北朝鮮取材を行ない、首都・平壌だけでなくいくつかの地方都市も訪問。自動車数はそれ以前と変わらず、「ピョンハッタン」の高層アパート群では派手な夜間ライトアップが続いていた。しかし、今の極めて厳しい制裁がこれからも続けば、かなりのダメージを受けるのは確かだ。

 今月6日~8日に平壌(ピョンヤン)を訪れたスティーブン・ビーガン米国務省対北朝鮮政策特別代表に対し北朝鮮は、首脳会談前に制裁解除についての米国による明確な立場表明を求めたという。つまり部分的な制裁解除であっても、その可否によって対応を変えるということだろう。首脳会談まで2週間を切ったが、直前での延期・中止といった事態を含め、まだまだ予断を許さない状況だ。


『朝鮮民主主義人民共和国 米国との対決と核・ミサイル開発の理由』(一葉社、1200円+税)

第2回米朝首脳会談を前にトランプをどうみるか

 今月末の第2回米朝首脳会談の日程が、今週中に発表される。場所については、モンゴルとベトナムが受け入れを表明していた。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は平壌(ピョンヤン)か板門店(パンムンジョム)を希望していたものの、米国が提案したベトナム中部のダナンで同意したという。

友誼塔内部
朝鮮戦争での中国人民義勇軍の戦死者を追悼する「友誼塔」の内部(2018年7月1日撮影)

 米中首脳会談も、同じダナンで同時期の2月27日と28日に開催されるようだ。第2回米朝会談の合意内容の履行を、中国を加えることでより確実にしようとしているのだ。

 米朝首脳会談の内容について、スティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表が先月31日に触れた。「トランプ大統領は北朝鮮との戦争を終わらせる準備ができている。米国は北朝鮮へ侵攻や政権転覆を追及しない」と述べた。これは昨年6月の首脳会談での合意の履行を表明したものである。

 トランプ大統領は今月1日に、「中距離核戦力廃棄条約」破棄をロシアへ通告すると発表。中国を含めた、深刻な軍拡競争が再燃する危険性が出てきた。歴史から学ばない愚かで軽率な選択である。

 このように暴走が止まらないトランプ大統領に対し、日本や米国・韓国においても米朝首脳会談での妥協を危惧する声が上がっている。朝鮮戦争を終結して北朝鮮に安全の保障をしても、核廃棄は進展がないまま曖昧になってしまうのではないかというものだ。

 だが現在の米朝の動きは、今までの歴史的経緯から捉える必要がある。米国の歴代政権は事実上、問題解決の先送りをして朝鮮戦争を休戦状態のまま放置。それに対し、米国からの侵攻の脅威を受ける北朝鮮は、核兵器とそれを米国本土にまで運搬可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるという選択をした。

 米国の北朝鮮政策の失敗から、第2の朝鮮戦争が始まる寸前にまでなった。その状況を回避させたのは、米国の凝り固まった外交政策にこだわらないトランプ大統領の決断だったのは確かだ。米国第一主義に基づいて行動しているとはいえ、米朝関係を根本的に改善する可能性を持っている。結果はどうであれ、今はそれを期待して会談を見守るしかない。

北朝鮮と米国 ICBM廃棄と制裁解除を交換か

 2回目の米朝首脳会談開催の準備が進んでいる。米朝交渉が停滞してきたおもな原因は、昨年6月12日の第1回首脳会談の画期的合意内容を反故にしようとする米国内の動きによる。「朝鮮半島の非核化」ではなく、従来の「北朝鮮の非核化」にこだわっているのだ。

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軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイルKN-08(2017年4月15日撮影)

 昨年、米朝関係改善のために米国が実施した措置はほぼないが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は拘束していた米国人の釈放、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨返還や豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の坑道爆破を実施。これらの措置からは、朝鮮の関係改善への熱意と誠意が十分に伝わる。

 在日米軍司令部が北朝鮮を、15発以上の核兵器を保有する「核保有宣言国」と規定しているとことが今月14日に明らかになった。これは北朝鮮を、事実上の「核保有国」として認めた可能性がある。もしそうであれば、北朝鮮核保有という「不都合な真実」を認めることを頑なに拒否してきた米国にとって大きな政策転換になる。

 今月11日には、マイク・ポンペオ米国務長官が「米国の究極的な目標は米国国民の安全」とインタビューに答えてもいる。これらのことから考えられるのは、トランプ大統領は次の首脳会談で、米国本土まで到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄と制裁解除の交換を提案することだ。

北朝鮮取材と広河隆一氏

 12月26日発売の「週刊文春」(2019年1月3日・10日号)に、フォトジャーナリストの広河隆一氏による性暴力とセクハラ、そしてパワハラについて明らかにした記事が掲載された。写真誌「DAYS JAPAN」は、25日付で同社の代表取締役から解任した。

 広河氏の行為は、フォトジャーナリストとして長年にわたって積み上げてきたものを無にするものだ。完全にジャーナリスト失格である。

デイズジャパン記事
筆者が「DAYS JAPAN」2004年6月号に掲載した記事

 1990年1月まで講談社が発行していた「DAYS JAPAN」は、日本のフォトジャーナリズムのけん引役だった。その廃刊によって、2004年4月に広河氏が編集長となって同じ「DAYS JAPAN」というタイトルの月刊誌での出版が始まる。

 パレスチナや原発取材で精力的に取材をしている広河氏が、雑誌の編集長をすることには大きな無理があり、どこかでひずみが出るのでは、と私は思った。

 私は創刊3号にあたる2004年6月号に「問い続ける日本軍『慰安婦』」と題し、韓国・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で暮らす日本軍による性奴隷被害者の写真を6ページで掲載。その打ち合わせのために、初めて「DAYS JAPAN」編集部を訪ねる。

 そこで驚いたのは、3人ほどの女性スタッフに対してとんでもない剣幕で怒っている広河氏の姿だった。すっかり萎縮した女性たちが動き回り、逃げるように外へ飛び出して行った。サラリーマン経験もあった私は、上司が部下をそこまで厳しく叱責することなど信じられなかった

 この異常な状況は、その日にたまたま大きなトラブルが起きたからなのかも知れないと私は思った。ただそうであっても、このようなパワハラは決して許されるものではないし、どれほど素晴らしい仕事をしていても人間としては信用できないと確信した。

 私が北朝鮮で撮影した写真の掲載を、「DAYS JAPAN」編集部へ数年の間隔で3回ほど提案したことがある。だが広河氏は、北朝鮮当局から入国を認められて撮影した写真は掲載しないと言った。

 世界の国々には、さまざまな形での取材の制約がある。その国の観光地へ観光客として行けば撮影に何の制約がなくても、取材として行けば複数の情報部員が監視のために同行するという国もある。北朝鮮での取材への “制約”が特別に厳しいとはいえない。

 北朝鮮で取材できないと言うメディアやジャーナリストは、そのための努力をしていないからである。私は苦労して40回訪れ、さまざまな取材をしてきた。非常に難しい取材を実現させるために、交渉するために行ったことが2度ある。私の北朝鮮取材は、大変な努力と工夫によるものだ。このことを広河氏は認めず、写真の掲載はできなかった。

 “人権”にかかわる仕事をしている男性が、家に帰れば大変な亭主関白、といった話はかつてよくあった。私は、1992年から性奴隷にされた女性たちの取材をする中で、被害者たちから日本人であることだけでなく男性であることも厳しく問われた。そのことと正面から向き合い、自らが変わることなくして取材を続けるなどできなかった。

 広河氏はパレスチナやチェルノブイリなどの取材において、女性や子ども、お年寄りなどの社会的弱者と向き合い、その人たちの大きな痛みや怒りを聞かされてきたはずだ。その中で“内なる差別”意識を克服しようとしなかったのか? 今回、明らかになったことからすれば、それができなかったのは明らかだ。大変残念である。

北朝鮮・捕鯨・韓国火器レーダーからみた日本外交

 今月21日、岩屋毅防衛大臣は、韓国海軍の駆逐艦が20日に海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射したと発表。日本政府の抗議に対して韓国政府は、照射を否定している。

 現時点で事実関係は分からない。こうしたトラブルは、まず双方の軍当局間の協議で事実関係を確認し、そこでどうしても解決できなければ外交問題にすべきだろう。「徴用工裁判判決」をめぐって、日韓関係がぎくしゃくしている状況ではより慎重さが必要だ。

 ところが日本政府は、いきなり防衛大臣が抗議をしたのである。必要以上に問題を大きくし、あえて日韓関係を悪化させようとしているようにみえる。

 また日本政府は「国際捕鯨委員会(IWC)」からの脱退を決めた。日本の国際機関からの脱退は、戦後はほとんどない。鯨肉の需要が1962年度には約23万トンだったのが今では約5000トンしかないという。国際社会から批判を受け外交的に孤立する危険性もあるにもかかわらず、商業捕鯨再開のために脱退をする。

遊園地前の子どもたち
遊園地前で写真を撮ってもらう幼稚園児たち(2018年6月30日撮影)

 そして北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対しては、軍事的対応を維持・強化しようとしている。北朝鮮が海上で物資を積み替えているとして、監視活動を続けている。また、北朝鮮からのミサイルを打ち落とすための地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」2基を6000億円以上で導入する。隣国である北朝鮮との関係改善を、主導しようという姿勢などまったくない。

 こうした一連の日本の対応からみえてくるのは、安倍政権の偏狭な歴史観・価値観による外交政策である。問題なのは、それを押しとどめる勢力が与党だけでなく野党にもなく、マスメディアも安倍政権の危険な外交政策を批判できずにいることだ。
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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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