北朝鮮への安倍首相の強硬姿勢には目論見が

 国連の安全保障理事会で、9月19日に米国のトランプ大統領は「米国や同盟国の防衛を迫られれば北朝鮮を完全に破壊する」と表明。しかもこれまでは、核実験が中断されれば対話するとしていたにもかかわらず、戦争を望まないなら「非核化」しろとハードルを上げた。

バス停の人々
平壌市内でバスを待つの人々(2017年8月16日撮影)

 そして20日に演説した安倍首相は「必要なのは対話でなく圧力」とし、軍事攻撃も選択肢としている米国の姿勢を「一貫して支持する」とした。日米のトップが超タカ派の姿勢を示したのだ。

 中国とロシアは安保理決議に賛成したものの、軍事攻撃に反対して対話を求めている。またドイツのメルケル首相は、外交的解決のためにあらゆる努力をすると表明。ポーランドなども緊張緩和に向けて動いている。

 米朝が激しく喧嘩しているところへ、トランプ親分の一大事だとして子分の安倍首相が割って入って、親分よりも大声で北朝鮮に噛みついている・・・。このみじめで悲しいほどの米国追随には、大きな理由がある。

 それは安倍首相が、日本の安保理常任理事国入りを目論んでいるからだ。現在の危機は長年の米朝対決の結果であり、日本は当事者ではない。にもかかわらず異常なほどの北朝鮮への徹底的なバッシングをしているのは、国際社会に日本の存在感を示そうとしているのだ。これは、拉致問題への強硬姿勢で首相の座を得たのと同じ手法である。

 自らの利益や目的のために、派手なパフォーマンスをする安倍首相。しかも現在の北朝鮮への強力な敵対姿勢は、日本の安全を大きく脅かしている。

北朝鮮 米国の孤立化圧力に応じず58カ国から196人が祭典に参加

 「週刊金曜日」2017年9月8日号へ掲載した記事を紹介する。

 遠くで聞こえていた若者たちの歌声が、次第に大きくなってきた。軍服に似た制服を着ている100人ほどが、国旗を先頭に隊列を組んで足早に行進して来る。この集団は「高級中学校」3年生による「赤い青年近衛隊」。歌っているのは「人民軍へ行こう」という歌で、自分たちを「朝鮮人民軍」へ入隊させて欲しいとの内容だという。

赤い青年近衛隊
光復(クァンボク)通りを行進する「赤い青年近衛隊」(2017年8月17日撮影)

 これは、米国との軍事的緊張が高まっているため各地で行われているとのこと。「朝鮮労働党」機関紙『労働新聞』電子版(8月12日付)は、347万5000人が入隊・復隊を嘆願したと報じた。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に、単独取材のため8月5日から18日まで滞在。前回に訪れた4月と同じように、米国との軍事衝突の危機が極めて高まっている中での取材となった。

 実はこの滞在中に軍事的緊張を感じたのは「赤い青年近衛隊」の行進を見た時だけ。首都・平壌(ピョンヤン)だけでなく、地方都市2カ所でも、街に緊張感はまったくなかった。

 それは、韓国と日本にも甚大な被害が出る攻撃に、米国はまだ踏み出せないとの判断なのだろう。また、米国による核攻撃の危機が今までに何度もあり、戦争への覚悟ができているのではないか。

 ただ変化としては、平壌市内を走る車の数が減り、通勤時間帯に必ず起きていた渋滞を見なかった。チャーターした車の運転手に聞くと、ガソリン価格は少し上がっているという。中国税関当局の発表によると、中国から朝鮮へのガソリン輸出量は、前年同月比で6月は30パーセント、7月は97パーセントも減少した。

腕を組む若い男女
腕を組んで歩く若い男女(2017年8月16日撮影)

●圧力の効果は限定的
 8月15日は朝鮮では、日本による朝鮮植民地支配の終焉を記念する「祖国解放記念日」。今年は「金日成(キムイルソン)主席生誕105周年、金正日(キムジョンイル)総書記生誕75周年、金正恩(キムジョンウン)委員長が党・国家の最高指導者となって5周年」という節目の年とされている。

 そのため13日~17日に「第5回白頭山(ペクトゥサン)偉人を讃える国際祭典」としていくつもの行事を開催。「祭典」は平壌市内と白頭山地域で大規模に実施するというもので、私は数カ月前から取材交渉をして許可された。

 この「祭典」に、ネパール・ナイジェリア・ロシア・ウクライナ・デンマーク・エジプトなど海外58カ国から196人の朝鮮と友好関係にある団体・個人が参加。全体的に年配の参加者が多いが、ヨーロッパからは若者が目立った。「祭典国際準備委員会」の名誉委員長は、ネパールの前首相であるマダブ・クマル・ネパール氏が務めた。

 参加人数がもっとも多かった国は日本で、金丸信氏の次男である金丸信吾氏や、元衆議院議員の日森文尋氏、民主党政権で法務大臣を務めた平岡秀夫氏などの17人。そして発表された参加国リストには、朝鮮への制裁を強化している中国と、9月1日からの自国民の朝鮮への渡航禁止を前にした米国の名前はなかった。

 このように参加者の顔ぶれは、金日成主席が積極的に推進した「非同盟運動」によって築かれたアジア・アフリカ・ラテンアメリカとの強い友好関係と、この国を取り巻く現在の厳しい国際状況を反映している。

咸興の内水浴場
平日もにぎわう咸興(ハムフン)の海水浴場(2017年8月7日撮影)

 14日には、白頭山の山頂で集会が開催された。「反帝自主と社会主義の砦である朝鮮を支持する」との「白頭山宣言」を発表。平壌市内では15日に「白頭山偉人を讃える大会」、16日に「朝鮮人民との連帯集会」が開催。これら一連の行事は、金正恩委員長を先の最高指導者2人と同格に位置付けたという大きな意味がある。

 朝鮮の核・ミサイル開発は、米国から体制保障を得るためのものだ。ところが米国はそれを拒否し、朝鮮へさまざまな圧力をかけてきた。朝鮮は現在、国連加盟193カ国のうちの162カ国と国交がある。

 米国はそれらの国に対し、朝鮮との外交と経済関係を断絶・格下げするよう働きかけてきた。ところがそれは功を奏していない。スペインなどが自国駐在の朝鮮外交官の削減を求め、英国が朝鮮駐在大使の召還を発表したが、それは非常に限定的なものだ。

 1945年に朝鮮半島が南北に分断されて以来、朝鮮は自らの存亡をかけて米国と政治的・軍事的に対峙してきた。その「反米・反帝国主義」という朝鮮の姿勢に共感する国や団体が、世界には数多くあるという事実に目を向けるべきだ。

北朝鮮 核・ミサイル開発の停止がみえてきた

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は9月15日、中距離弾道ミサイル「火星12」を発射。今回は、米国領グァムまで届く約3700キロメートルを飛行した。

宇宙開発局の説明会
「科学技術殿堂」で開催された「国家宇宙開発局」による説明会(2017年8月16日撮影)

 高度100キロメートル以上の宇宙空間を移動している人工衛星や国際宇宙ステーションなどは、領空侵犯とされていない。今回のミサイルの高度は約770キロメートルに達しており、日本の政府やマスメディアが「日本の上空を通過」とするのは極めて不自然である。

 今回も日本政府は「緊急情報ネットワークシステム」で情報を流し、さらに危機感を煽った。最近では、「防空ずきん」を被せて小学生にまで「防空演習」をし、廃線になった鉄道のトンネルを「防空壕」にしようとする地方自治体まででてきた。この異常な対応について、疑問や批判の声はあまり聞こえてこない。日本はすぐにでも戦争できそうな雰囲気になってきた。

 今回のミサイル発射訓練を視察した金正恩(キム・ジョンウン)委員長の発言を「朝鮮中央通信」(9月16日)が詳細に報じている。

 「われわれの最終目標は米国と実際の力のバランスを取って米国執権者の口からむやみにわが国家に対する軍事的選択だの、何のというたわごとが出ないようにすることだ。米国にとって対処不可能な核の反撃を加えられる軍事的攻撃能力を引き続き質的に固めながら、真っ直ぐに疾走しなければならないと語った(略)今やその終着点にほとんど到達したのだから、全国家的な力を集中して結末を見なければならないと力説した」

 この発言には重要な意味がある。国家の力を集中して続けてきた核・ミサイル開発は、その完成が近いとしたのだ。つまりそれらの実験は、それほど遠くない時期に停止される可能性が出てきた。

 そして「結末」という言葉は、米国との交渉を指しているのだろう。北朝鮮が、国民生活や外交関係などを犠牲にしながらも、核・ミサイル開発に国力を注いできたのは、米国による体制保障を得るためである。米国まで到達する核兵器搭載ミサイルが完成しなければ、その交渉は成功しないと考えているのだ。これは今までの最高指導者たちが、米国との交渉に失敗したことを教訓としているのだろう。

 「国連安保理」などがさらに厳しい制裁を実施しても、北朝鮮の核・ミサイル技術が完成することが明白になった。韓国や日本も核武装して核軍拡の泥沼へ進むのか、米国が北朝鮮との真剣な対話で妥協点を見出すのか。そのどちらかしか選択肢はない。

北朝鮮は制裁に耐えられる社会

 9月11日、「国連安全保障理事会」は、6回目の核実験を行なった北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対し、追加制裁の決議案を全会一致で採択。米国は中国とロシアの賛成を得るため、当初の厳しい内容を緩めた。

勝利化学連合企業所
羅先(ラソン)経済特区にある製油所「勝利化学連合企業所」(2015年6月22日撮影)

 決議内容は、北朝鮮へのガソリンと軽油などの石油関連品の輸出を30パーセント削減した200万バレルに制限し、年間7億6000万ドル(約830億円)と推定されている北朝鮮からの繊維製品の輸出を禁止した。

 「国連安保理」による北朝鮮への制裁は、2006年からこれで9回目。今回は石油輸出の制限といったかつてない厳しい内容だが、北朝鮮の核・ミサイル開発に打撃を与えることはまったくないだろう。

 それは北朝鮮という国は、輸出入に大きく依存しない自立した社会を長年にわたって目指してきたからだ。1950年代半ばに中国とソ連(当時)の対立が進む中で、北朝鮮はそれら大国に左右されない自力更生の道を模索。マルクス・レーニン主義を独自解釈したその考えを「主体(チュチェ)思想」とした。

 それ以来、政治・経済・文化などにおいて外国に左右されない社会づくりのために、地道な努力をしてきたのである。1990年代にはソ連崩壊や水害・干ばつの自然災害などがあって大きく後退したこともあるが、歩みはゆっくりではあるものの着実に独自の道を歩んできた。

 韓国銀行は7月21日、北朝鮮の2016年の国内総生産(GDP)が前年比で3・9パーセント増加したことを発表。今回の追加制裁でその経済成長率が続くのは困難と思われるが、制裁で大きく後退することはあり得ない。

 13日に北朝鮮は、追加制裁に対して「外務省報道」を発表。「わが国の正々堂々たる自衛権を剥奪し、全面的な経済封鎖でわが国家と人民を完全に窒息させることを狙った極悪非道な挑発行為の産物。峻烈に断罪・糾弾し、全面的に排撃する」と非難した。

 おそらく北朝鮮は、核・ミサイルが完成するまで新たな実験を続けるだろう。米国は制裁強化や軍事攻撃の威嚇によって北朝鮮を力で屈服させようとしているが、その行きつく先は韓国と日本を巻き込んだ戦争である。トランプ政権がそれを避けようとするなら、対話へと舵を切るしか選択肢はないのだ。

北朝鮮への米国の軍事攻撃に反対の声を!

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と米国との軍事的緊張は極限状態になった。核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮への新たな制裁として原油供給の停止が焦点となっており、安部首相が米国よりもその推進に積極的だ。

平壌市内の通行人
平壌市内の裏通りを行き来する市民たち(2017年8月16日撮影)

 しかし、原油供給停止という制裁は極めて危険だ。1941年に日本がアジア太平洋戦争へ突入した理由のひとつが、米国による日本への原油の全面輸出禁止だった。

 もし北朝鮮への原油供給が止まったら、農業生産低下による餓死と冬の寒さによる凍死で相当な数の死者が出るだろう。極めて非人道的な措置である。

 トランプ政権はこうした制裁強化だけでなく、北朝鮮の核・ミサイル施設への限定軍事攻撃を真剣に検討しているのは間違いない。

 それに踏み切った場合の北朝鮮による反撃で、米国・韓国・日本の被害がどれだけ出るかを最大の判断基準としていることだろう。1968年の「プエブロ号事件」や1994年の「核危機」などで、米国は北朝鮮への核兵器を含む軍事攻撃を真剣に検討した。ところが、韓国での死亡者数があまりにも多いために攻撃を断念してきた。

 完成しているかどうかはともかく、核兵器とその運搬手段をほぼ獲得した北朝鮮への軍事攻撃は、もはや不可能になったと判断するのが妥当だろう。だが迷走飛行をしているトランプ大統領が、そう思うかどうかは極めて未知数だ。米国の安全のためには、極東アジアで膨大な数のアジア人が死ぬことも仕方ないと判断する可能性がある。

 今の危機は、北朝鮮と米国のチキンレースによるものだ。体制保証を得ようとする北朝鮮が、それに応じなければ核・ミサイルで攻撃するとしているのはグァムや米本土である。日本への威嚇は、安倍政権があまりにもトランプ政権に追随しているためだ。

 こうした危機に陥っているにもかかわらず、日本の中で米国による軍事攻撃に反対する声がほとんど聞こえてこない。米朝対決の状況の中で、米国を批判することは間違いだとでも思っているのだろうか?!

 北朝鮮に対する評価は異なっていても、米国による軍事攻撃に反対する声を直ちに上げるべきだ。ベトナム戦争の際の「殺すな!」というスローガンを再び掲げるべき時がまさに今だ。
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プロフィール

こだわりジャーナリスト

Author:こだわりジャーナリスト
フリーランスのジャーナリストとして長年にわたりさまざまな取材を行い、数多くのメディアで発表してきました。
海外取材は200回近くで、そのうち北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)へは数十回です。現在、年1~3回の訪朝をしています。
掲載写真は、引用先が非表示のものは筆者撮影です。なお、このブログに掲載している映像と文章は日本の「著作権法」と国際的な著作権条約で保護されており、無断使用はできません。転載を希望される場合は、事前にご連絡ください。

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